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第7話「真白」

モンスターライダー


第7話「真白」



 一つの授業が終わり、休み時間になると、美穂は何時もの様に厳人の席の

方へ歩いて行った。

 すると、厳人が後ろの席で寝ている翔に向かって何かをしていた。

 良く見ると、厳人は今まさに、マジックペンで翔の顔に落書きをしようと

している所だった。


「なにやってんの!」

 美穂は厳人からマジックを取り上げ、怒鳴る。

「油性じゃ、可哀想じゃない!!」

 厳人は、落書き自体はOKなのか、と心の中で思ったが、突っ込みを入れ

る気にはならなかった。

「どうしてこんな事するの」

 母親のような態度の美穂に対して、厳人は子供のように目をそらす。

「こいつが、嫌いなんだよ」

「やきもち?」

「……それもあるけど、おれは。こういうタイプが嫌いなんだ」

「翔ちゃんみたいな子が?」

「何でも出来るけど、喋らない奴。理解できない。馬鹿話とかできない奴と

は、友達にはなれない」

「翔ちゃんは厳ちゃんの事、そんなに嫌いじゃないと思うよ」


 厳人は、驚いた。


「意外だった?」

「以外も何も……そんなわけ無いだろ」

「どうしてそう思うの?」

「だって、」

 厳人が、美穂への想いを告白した次の日から、翔は学校で本気を出し始め

た。厳人に敵意を燃やしたからに違いない。

 研究所で、カメレオンがキューブから出て来ないために厳人が戸惑ってい

るのを、横から見ていた翔の目。厳人には見下しているように見えた。

「翔ちゃんはあれで結構寂しがり屋っぽい所があるから、厳ちゃんが一緒の


部屋に居てくれて嬉しいんじゃないかな」

「ルームメイトだから仕方なく居るだけだ」

「それでも、ただ居てくれるだけでもさ。まあ、推測だけど」

「……そんなわけ無い……おれのこと嫌いに決まってる……」


 

「と、言う感じで翔ちゃんと厳ちゃんが仲悪くてさ。仲良くさせる方法は無

いかなあ」

 と、美穂は真白に聞いてみた。

「とりあえず、からかうのを止めればいいんじゃない?」

「それはやだ」

「何で? 美穂ちゃんを巡って争ってるんでしょ? 美穂ちゃんが気持ちを


伝えればいいのよ」

「だってからかうのは楽しいもん」

「もっと素直になれない?」

「それを言うなら、マッシーこそ」


 真白は、キョトンとした。

「何のこと?」

「さあね。」

 真白には、見当がつかない。



 その日の夜。


 真白と春菜は、マンションの自宅で夕飯を食べていた。

 春菜はシチューを食べながら話している。

「そう言えば学校は最近どうなの?」

「別に普通ですよ? 厳人君と翔君の仲が悪い事以外は」

「ははは。やっぱり学校でも仲悪いのね」


「そうだ、春菜さん。私、聞きたい事があったんでした」

「聞きたい事?」

「はい。そろそろ、教えてくれませんか?愛ちゃんの事」


 春菜の、スプーンを動かす手の動きが止まる。

「前に確か、またこんど話すって言ってましたよね?」

「……愛の何を知りたいの」

「全部です。本当はどんな人なのか。何で契約者になったのか。どんな秘密

があるのか」


 春菜は奇妙に思う。愛も同じように真白の事を知りたがっていたからだ。


「愛には、聞いたの?」

「はい。でも、教えてくれませんでした」

「そっか。なら、わたしも教えられないな。愛が望んで無いことならね。殺

されちゃうもの」

 春菜は、愛に『喋ったら殺す』と言われたのを思い出した。

「まあ、良いじゃない、そんな事。どうして知りたいの」

「分からないです。なんだかとっても知りたくて」

「あんな、戦い以外は興味無さそうで、勝手な奴なのに?」


「愛ちゃんは……私を助けてくれた。契約者にさせてくれた。戦いのときも

いつも助けてくれる。街で厳人君を助けてくれた。愛ちゃんは、綺麗で、

強くて、頼りになって、でもなぜか幼く見えて、かわいいんです。それから

愛ちゃんには自信がある。愛ちゃんに憧れているんです」

 真白は、自分の気持ちを、『愛ちゃんみたいになりたい』という類の気持

ちと認識して話しているかもしれない。

 だが春菜は、頬を赤く染めて話す真白を見て、なんだか不安を覚えた。



 

 話は、次の日の放課後に飛ぶ。


「で、話って何?」

 真白によって屋上へ呼び出された愛はそう問いかけた。

「あのね、愛ちゃん」

 愛は、うん、と返事をする。


「やっぱり、どうしても聞きたいから、どうしても聞かせて? 愛ちゃんの

秘密」

「またそれ?」

「私はね、愛ちゃんの秘密がどんな秘密でも、たぶん受け止められると思う

よ。それだけは、自信があるの。例えば愛ちゃんがモンスターだったとして

も」


 愛の表情が、凍った。


「愛ちゃん?」


 真白が、愛の秘密を既に知っている。愛にはそういう風に聞こえた。

 真白は何気なく、例え話として言ったのかもしれない。しかし、愛は『愛

ちゃんがモンスター』という言葉を聞いてすっかり動揺してしまった。

 真白は、『聞かせて』と言った。愛には、『既に知っているけど、愛ちゃ

んの口から聞かせて』という意味にも解釈出来た。愛は、真白が既に秘密を

知っていると曲解した。

 秘密を知っている。すなわち、真白は愛を怖がるに違いない。秘密はどこ

から漏れたか。秘密を知っていて、真白と一緒に生活している春菜が喋った

と考えられる。


 愛はすっかり混乱して、走り出した。春菜への怒りが巻き起こって止めら

れなくなった。


「あ、愛ちゃんどうしたの!?」

 屋上の出入り口に消えていった愛に、真白は戸惑い、愛の消えた方向へ追

いかけて行った。

 愛を怒らせてしまったかもしれない、と真白は思った。ちょっと例え方が

悪かったから。だから謝りたくて走った。



 研究所の研究室で、春菜は機械の操作をしていた。


 急にドアが開き、愛が飛び込んできた。

「あ、愛」

 と言う間もなく、春菜に愛が掴みかかる。

 春菜は、血相を変えた表情の愛を見て、訳が分からず驚いた。

「わたしの事を喋ったな! 真白に!! 何故だ!!!」

 春菜には心当たりがない。今にも春菜を絞め殺しそうな愛に反論を試みる。


「喋って無いよ!」

「嘘だ!!」

 愛が叫ぶ。今の愛には何を言っても聞いてもらえそうにない。

「殺してやる……!!!」


 愛の瞳が、真っ赤に輝きだした。


 その時、再びドアが開き、真白が入ってきた。


 真白は愛の向かった方向へ追いかけて行き、そこに研究所へ行くワープポ

イントを見つけたので、それを使って、ここまでたどり着いたのだ。


 真白は、春菜が何者かに掴まれているのを目撃する。


 黒い色の、悪魔のような者。憎悪を纏って、春菜を亡き者にしようとして

いる。真白にはそう見えた。

「春菜さん!!」

 真白はとっさに、その何者かに向かって駆けつけて、そいつを突き飛ばす。

 倒れる勢いを利用して相手の足を持ちあげ、頭から地面に叩き付けた。


 愛はそのまま、仰向けに倒れる。


「……あ、愛ちゃん……?」


 真白の技を受けて地面に倒れている存在は、どう見ても愛だった。モンス

ターの姿ではなかった。

 ようやく、真白は気付いた。

「あ……愛ちゃん……」

 見間違いとは言え、真白は愛に暴力を振るい、倒したのだ。

 それは、真白には耐えられない事だった。


 真白は顔色を変え、研究室のドアから走り去って行った。


「真白!!」

 愛は飛び起きて叫んだが、もう真白は見えなくなっていた。

「春菜!!」

 愛は、さっきまで殺そうとしていた春菜に向き直る。

「お前のせいだ!!」

 春菜にとっては理不尽な言い分である。

「だからわたしは喋って無いってば」

「くそ!!!」

 愛は真白を追いかけるため、研究室を出ていく。



 真白は廊下を逃げるように走り抜けていく。

 窓から、オレンジ色の夕日が差し込んでいる。


 真白は愛を傷つけた。少なくとも、彼女自身はそう思っている。

 ひどい事をしてしまったと思った。良く確かめもせずに、愛に対して、普

通の人間なら首の骨を折るかもしれない技をかけた。春菜をモンスターが襲っ

ているように見えて、とっさに攻撃した。春菜はずっと一緒に暮らしてき

た、大切な人だ。だから体が勝手に動いた。しかし、それは真白にとっては

言い訳にはならない。


 愛に嫌われるかもしれない。

 嫌だった。とても耐えられなかった。でも仕方ない。自分はいらない人間

だから。


 オレンジ色の光の中を走りながら、真白の心は徐々に絶望的な方向へ突き

進んでいく。


 真白は、気付いてしまった。愛が好きだったという事に。

 友達としてじゃない。愛の様になりたいという、ただの憧れでもない。真

白は愛の事を、恋愛対象として見ていた。愛の事をもっと知りたいと感じた

事も。愛に自分の名前を呼ばれた時、嬉しかった事も。愛の事が大好きだっ

たからだ。

 確かに羨ましい人でもあった。でもそれ以上に、彼女を愛していた。


 だからこそ許す事が出来ない。愛を見間違えてしまった自分を。愛に攻撃

を仕掛けた自分も。


ーー私は、最低だ


 もう駄目だった。街の中でモンスターから愛を守れなかった。そして今回、

愛を直接傷つけた。真白は愛を2度、傷つけてしまった。

 真白はオレンジ色の光の中、心の闇の中へと呑み込まれていった。



 その頃、愛は必死で廊下を駆けていた。

 真白は傷ついているかもしれない。前に自分カエルのモンスターのせいで

傷を負った時、真白が原因では無いにも拘らず、真白はすごく気に病んでい

たから。だから早く見つけて、真白は悪くないと伝えたい。愛はそう思うか

ら、急いで真白に追いつこうとした。


 しかし、どこまで走っても、真白の影も形も見当たらない。


 愛の方が、真白よりも足が速い。それだけじゃ無く、鋭い感覚能力を持っ

ている。真白の居場所は正確に把握できる。そこへめがけて走っているのだ

から、すぐに追いつけるはずだった。

 何かがおかしい。


 愛は立ち止まって、周りを見渡してみた。

 夕日が、窓から差し込んでいる。廊下も、床も、天井も、照らされて、オ

レンジ色に光っている。


 しかし、それは良く見ると夕日では無かった。


 オレンジ色の光がこの空間を支配している。それは空間を捻じ曲げ、閉じ

込める。さらに、人間の精神に侵入し、狂わせ、方向感覚を麻痺させる。

 愛は人間の体を持ちつつ、人間ではない。だから、それ以上の侵入を許す

事は無かった。普通の人間なら心まで浸食され、操られてしまうかもしれな

い。

 敵は精神攻撃によって、契約者を消すつもりだ。


「だとしたら……真白が危ないっ!!!!」


 愛は『気』を放ち、光を振り払う。空間を正常に戻す。


 愛は、真白を失う訳にはいかない。人類の事はどうでもいい。だが真白だ

けは。

 愛はただ戦うために生きてきた。真白に会うまでは。

 愛の種族は、愛が生まれた時、愛を含めて3体しか生き残っていなかった。

愛は二人の同族と共にひたすら、戦い続けるだけの日々を送った。そこに

仲間との愛情、感情の関係は無かった。そういう物を、知らずに育った。

 そしてその同族も倒れ、愛は人類の仲間として生きる道を選んだ。そして

真白に出会い、戦い以外で、生きる意味を知った。大切な人が、初めて出来

た。

 その真白が、居なくなってしまうかもしれないのだ。

「真白……真白!!!!!」


 愛は叫びながら全力で疾走した。



 真白は夕焼け色の光の中に閉じ込められていた。


 真白は自分を肯定的にとらえる事が出来ない。どんな成果を出しても、ど

んなに試験で点数を取っても。どれだけ人の役に立って、感謝されようとも。

人類規模で人の役に立てれば、それも変わるかもしれないと真白は考えて、

契約者になろうと思った。しかし、実際は変わらない。人に勉強を教えた

り、頼りにされる事も、人類の役に立つことも、それをする方にとっては全

く同じ事だからだ。


 真白は自身を肯定できない。奥の方から聞こえてくる声が、そうさせる。

『生まれて来なければ良かったのに』

 その声は真白の、実の両親の言葉だった。


 真白はかつて虐待を受けていた。ちょっとした事で殴られ、蹴られ、冷た

い言葉を浴びせられた。

 真白は親の事情は知らない。そして、自身の名前、『真白』の由来も知ら

ない。

 『真白』とは、真っ白。つまり、何も無い。無という意味だ。真白の両親

は、子供を作る事は望んでいなかった。だから、生まれてきてしまった子供

に、感情も愛情も、何も感じなかった。その意味を込めて、『真白』と名付

けた。

 春菜は、真白の両親の友人だった。真白が虐待されていると知った春菜は

警察に通報した。そして、友人として真白を引き取った。倫理的・正義感

か、あるいは憐れみのような気持ちがあったかもしれない。

 そうして、その時から両親と再会すること無く暮らしてきた。しかし、真

白の中には、両親に自分の存在を否定された記憶は残り続けた。年月が経つ

につれて、その記憶は薄くなるどころか、実態とかけ離れて膨張していった。

そして、浴びせられた言葉と共に記憶が蘇ってくる。


「死ねばよかったのに」


 『オレンジ色』に人が癒されるのは、それが母親の胎内で視界に映る色だ

からだという。

 生きているのか死んでいるのかが曖昧になるような。夕焼け色は、死の感

覚に似ている。


 真白は自分を肯定的に捉えられない。その上、真白は僅かな自尊感情をも

否定してしまう。愛を傷つけたと思い込む事によって。


 夕日色の光はそこに付け込んだ。そこから真白を操り、自殺するように誘

導する。


 真白は自分の首を両手で握る。

 そして、徐々に力を入れ始める。



 その両腕を、愛が掴んだ。

 そして、手を首から離させた。

 気がつけば、夕日色の光は消え、周りは普通の廊下に戻っている。



 真白は、力が抜けて床に膝をついた。

 愛も膝をついて、真白の目の高さに合わせる。

 そして、愛は真白を抱きしめた。

 幼児が母親を抱きしめるように、素直な抱擁だった。

「真白! 良かった、無事で」


「どうして?」

 真白には理解できない。

「私は愛ちゃんを傷つけたのに。それなのに、どうして愛ちゃんは、こんな

私を助けてくれるの?」

「こんな、とか言わないでよ」

 愛は真白を抱きしめたまま話しだす。

「わたしだったら大丈夫。わたしは、打たれ強いから。わたしは真白のため

になら、サンドバッグにだってなれる」

 愛は、真白が無事だった喜びで興奮して、言葉が止まらない。

「ほら、こんなに真白の震えが伝わってくる。強くて、優しくて、でも儚げ

で、自分の事が嫌い。かわいくて、澄んだ心の持ち主。真っ白で、綺麗な」

「愛ちゃん、何が言いたいの……?」


「真白、大好き」

 その言葉に、真白の心臓は跳ねた。

「わたしは真白が大好き。愛してる。この世界で一番好き。」


 真白も、愛の背中にその腕を回し、抱き返す。

 今度は愛が、震えた。

「私も、愛ちゃんが好き……」


 真白の心の奥の声は、いつの間にか消えていた。

 愛の声が、真白の心に響いたからだ。



 空気を破るように、携帯電話の音が響く。


 真白は愛と抱き締めあったまま、ポケットから携帯を取り出し、電話に出

た。

 電話の主は、春菜だった。

『真白! 大丈夫なの? 監視カメラも機能しないし、ようやく電話がつな

がった』

「モンスターですか?」

『そうよ。厳人君と翔君は音信不通。二人はこっちで探すから、とりあえず

真白と愛だけで出てもらえる?』

「分かりました」

 真白は通話を切った。


「ごめん、愛ちゃん、行かなきゃ」

 真白は、愛を放した。

「……うん。」

 愛も真白からいったん離れた。

「真白、大丈夫? 気分は? 戦える?」

 愛が、すごく心配そうな表情で聞いて来る。

「うん、大丈夫。愛ちゃんのおかげで」

 真白は、愛の頭を撫でた。



 街の中に、オレンジ色のモンスターが立っている。

 全身が、夕日と同じオレンジ色。いや、良く見ると、頭部の頂点に、僅か

に緑色の部分がある。

 姿かたちは歪み、安定しない。だが人間のような姿に見える時もある。


 赤いドラゴンと、青鬼のパワードが敵と向かい合い、両者は攻撃を仕掛け

る寸前である。


 しかし、敵が先手を打った。

 敵の頭部から、橙色の液体が水鉄砲のように噴出した。

 ドラゴンは素早い動きで液を避けるが、動きの遅いパワードは液体を全身

に浴びてしまった。

「しまった、真白!」

「な、なんなの、これ」

 真白は、先ほどまで敵の精神攻撃にさらされている中、ずっと夢を見てい

るも同然だった。

 だから、このオレンジ色が何を意味するのか、良く分かっていない。だが

愛は分かる。オレンジは精神を浸食するのだ。

 愛はドラゴンの火炎によってパワードの液体を蒸発させようとした。しか

し、発射態勢に入ろうとするとそれを邪魔するように、敵の液体が飛んでく

る。ドラゴンは避け続けるしかない。

 そうしている間に、液体はパワードの体に染み込んで行く。


 パワードが、ドラゴンの方向を向いた。

「パワード!?」

 今のパワードには、契約者であるはずの真白の声は届かない。モンスター

であるパワードは愛と同じで、オレンジ色の、実体の無い光による浸食は防

ぐ事が出来る。だが、液体により直接精神に侵入されればたまらない。


 パワードの角から、光線が発射された。ドラゴンに向けて。


 ドラゴンは必死にそれを避けるが、光線は猛スピードで連続発射される。


パワードは何かの恐怖に精神を支配されているようだ。


「パワード!! やめて!!!」

『だめだ、真白。今は何を言っても通じない』

「でも、愛ちゃん」

『大丈夫! ドラゴンとパワードの間に敵が入るように誘導するから』


 ドラゴンはオレンジの怪物めがけて走っていく。パワードから見てドラゴ

ンがオレンジよりも向こうに居れば、パワードの光線はオレンジに命中する

はずだ。

 ドラゴンは後ろから来る光線を避ける。前から来る果汁を避ける。そうし

て全速力で疾走して、オレンジの後ろに回り込む。


 しかし、蜜柑は軽快な動きで、あっさりとパワードの射線上から退散した。


 愛の読みが甘かった。キノコ、虫、カエル、亀。今までこの街にやってき

たモンスターは、鳥と合成獣を除けば動きがそれほど速くない、むしろ遅い

連中ばかりだった。だがこのオレンジモンスターは違うようだ。


 ドラゴンが苦し紛れに放った火球も、オレンジにかわされてしまう。

 パワードの光線がドラゴンに迫ってくる。

 ドラゴンは必死に避け続ける。同時に降り注ぐ、オレンジの液体も回避す

る。だが、光線と液体の攻撃がだんだん激しさを増していく。避け切れなく

なるのも時間の問題だ。


「パワード!! 目を覚ましてよ!!」

 真白は必死に呼びかけ続ける。しかし、パワードの暴走は止まらない。

「パワード、目を……


 覚ませっ!!!!!!!!!!」


 叫び、真白は操縦室の壁を思いっきり蹴りつける。


 パワードの動きが、止まった。


「パワード。愛ちゃんを傷つけるなら……殺してやる!!!!」


 その瞬間、パワードには真白が、自分以上に『鬼』に感じられた。

 愛を傷付けたくないという気持ちが真白を強くした。

 その気迫に圧倒され、パワードは正気に戻る。

 パワードの体中から、オレンジ色の液体が抜け出ていく。


『真白!? 一体どうやって』

「遅くなってごめんね、愛ちゃん。私も戦うから」

『う、うん』


 パワードはオレンジに向かって歩き始める。

 オレンジは再び液体を発射する。パワードは頭から液体を浴びる。

 だが、今のパワードは真白の気に守られ、精神浸食を受け付けない。

 パワードは2本の角の間にエネルギーをためて、超破壊光線を発射する。

 パワードを操れるものと思っていたオレンジは油断し、その光線を体に受

ける。


 だが、オレンジの体は液体のように、光線をすり抜けた。


 パワードはオレンジにさらに近づいて行く。

 オレンジも、パワードをもう一度支配するために近付いて来る。

 オレンジの手がパワードに触れる。

 パワードはそれを物ともせずに、両腕のハンマーハンドで殴りかかる。

 その一撃も、オレンジの体を貫通し、ダメージを与えられない。


 ドラゴンは、パワードとオレンジが近すぎるため火炎弾を撃てない。パワ

ードに当たってしまう。

 オレンジに触れればドラゴンも精神浸食を受けてしまう。だから接近戦に

も持ち込めない。

『真白、埒が明かない。いったん離れて』

「大丈夫、愛ちゃん。今の私は、何でもできそうな気がするの」



 尚もオレンジはパワードにまとわりついて来る。

「パワード。倒して。敵を…… 消して」


 パワードは、両腕を目の前のオレンジの方へ向ける。

 パワードの角と角の間にエネルギーが集中する。

 両腕の間にもエネルギーが現れる。

 角と両腕のエネルギーは、その中間、顔の前に集中、一つになる。

 それはエネルギーの大玉になる。その球を、オレンジに向けて叩きつける。


 触れた瞬間、オレンジは消滅した。


 愛は驚く。

 パワードのそんな技は知らない。

 そして、愛が今まで戦ったどのモンスターも、これほどの破壊力の技は持っ

ていなかったからだ。

「な、なんだあの技は……パワードが成長したのか!?」

 


 オレンジが倒された瞬間、厳人達も解放された。


 美穂が真っ先に目を覚ました。

「……あれ……あたし寝てたの……?」

 寮の部屋に、厳人と翔と美穂が集まっていた。

 美穂は契約者ではないが、巻き添えを食らって精神世界に閉じ込められて

いた。

「いつの間に寝ちゃったんだろう……」

 美穂は精神攻撃を受けていた間の事はすっかり忘れている。厳人も翔も同

じく忘れているだろう。

 美穂は、まだ寝ている厳人の方へ目を向ける。

「皆で仮眠でも始めたんだっけ?」

 美穂はまだ頭が少しぼうっとしている。

 だが翔の方を見た瞬間、眠気が吹き飛んだ。


 翔は呼吸が荒く、顔が赤くなり、苦しそうに表情を歪めていた。


「翔ちゃん!?」


 美穂は翔の寝ているベッドに駆け寄った。



続く

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