第6話「新たな仲間」
モンスターライダー
第6話「新たな仲間」
夕日はとっくに沈み、夜になった。
人間が誰も住んでいないため、街の中は暗い。
暗闇の中を3体のモンスターが進んでいく。
赤い恐竜。青い鬼。黄緑色の爬虫類。
人間と契約したモンスター。
ドラゴン。パワード。カメレオン。
3体が目指す方向に、もう一体のモンスターがいる。
全身が灰色をしているため、今にも夜景に溶け込みそうである。
犬のようだが、二本足で立っている。
右手には二本の筒状の指が付いている。銃器のような形だ。
左手には二本の鋭い爪が、ハサミのようについている。
そして胸には、ブイ字型の、網のようなものが付いている。レーダーに似た雰囲気を持つ。
犬のモンスターは、じっと、固まったまま動かない。
カメレオンの内部の操縦室にいる浅城厳人は、いらだった。この犬の出現によって、契約者である厳人はカメレオンと共に出撃した。寮の自室に、須道美穂を待たせている。
厳人は、美穂に好きだと言われた。正確には、結構好きだ、と言われた。それはどう聞いても、友達としての好意にしか聞こえないものだった。
だが、それでも厳人にとっては、たぶん初めて言われた、好きという言葉。
厳人は返事もろくにせずに、戦いに乗り出した。早く帰って、何か伝えたい。何を言ったらいいかわからないけれど。
浅城厳人も、須道美穂の事が好きだからだ。
『いいか真白、それから厳人。攻撃しないでね』
スピーカーから聞こえる神里愛の声が、厳人の次の行動を制止する。
「なんでだよ!」
『奴の手をよく見てよ』
犬のモンスターの、右手。
銃のような2本の指で、よく見ると何かをつかんでいる。
ビー玉のような。真珠のような。丸い、球体だ。
「あれは?」
『あれが、モンスターや人間が戦う理由になってる、存在核』
存在核を得た個体は大きな力を手に入れる。一方、存在核を奪われた種族はその全員が消滅する。
『つまりあの犬も、ドラゴンやカメレオンと同じで、たった一人になった奴で。存在核を守るために我々の仲間になりに来たってわけ』
「という事は」
『新たな契約モンスターの誕生ってこと』
それから数分後。
研究所の地下の、モンスターキューブに入っていく犬と。
ベルトコンベアによって格納庫へ運ばれていく、犬の存在核。
それを、研究室の窓から見届ける一同。
研究室に、メンバーが全員そろっている。
契約者の、神里愛。浅城厳人。北岡真白。
副長、手塚春菜。研究員、浅城真市。作戦担当、東条茂。
新たに仲間になったモンスターの話をしなくてはならない。だから全員集合した。
「犬って言うのはカッコ悪いから、<ドッグ>、とでも呼びましょうか。とりあえず、愛。ドッグの特徴を説明してくれる?」
春菜に解説を任された愛は、ホワイトボードにドッグの絵を描いた。
絵のうまさに、真白は驚いた。
「愛ちゃん、すごいね上手だね!!」
「意外だった?」
「え、いやそんな事無いけど」
「おい、早く進めろよ」
厳人が口をはさむ。
「おれはこれから用事があんだよ」
それは、真白も愛も知っている。
「美穂とお勉強会か」
愛にからかわれて、厳人は憤る。
「てめえ」
「ストップ! その話は後でじっくり聞かせてもらうから、脱線はそこまでにしてね。愛、説明を始めてよ」
見かねた春菜が、路線を戻させた。
「このモンスターは、戦闘力は大体カメレオンと同じくらいに見える。でも、カメレオンが、遠くの敵を攻撃できないのに対して、ドッグは右手のこの指からエネルギー弾を撃てる」
愛は断言する。厳人は疑問を抱いた。
「なぜわかる?」
「前に、似たようなのを見た事があるからね」
厳人の疑問は、深まった。
「それはさておき、胸の網状のパーツは何に使うのか、わたしには分からない」
「レーダーじゃないかしら」
「レーダー?」
愛は首をかしげる。
春菜は、意外だったらしく驚いた。
「あれ愛、レーダー知らないの?」
「あ、思い出した。軍事用語だ」
「レーダーはね、音波を使って遠くの物を察知するの。コウモリとかが、音を使って物を見るようにね」
「なるほど。確かにこれは、武器よりも感覚器のような形をしている」
「さて、解説ありがとう。問題は、このあと誰が契約者になるという事だけど」
突然、携帯電話が鳴った。
作戦担当の、東条茂の携帯だった。
「あ、でんわだ。ちょちょっと失礼」
東条は通話ボタンを押した。
『君達が考える必要はない。すでにこちらで契約者になる者を用意してある』
電話から、隊長の声がする。
「隊長! 我々の話を聞いていたんだすか?」
『当然だ、私は隊長だからな』
「そうですか。で、どんな子ですか」
隊長が何かのスイッチを押す音が聞こえる。
研究室のモニターがついて、画面に少年の写真が映る。
その顔は、愛も真白もよく知る顔。厳人が一番知っている。ルームメイトとして。
3人のクラスメートでもある少年、佐野翔。
特に厳人が一番驚いている。
『ははは、驚くのも無理はない。君達の身近にいたからね。当然だ。君達を監視するために彼を配置したのだから』
「なんだって!」
『分かりやすく言えば、彼は我々が送り込んだスパイという事だ。だがこれからは君達の仲間である契約者。仲良くしてやってくれたまえ』
「あいつめ!!」
厳人は研究室を飛び出した。
いつも隣で自分を騙していたと分かって、今まで彼に対して感じていた怒りが一気に噴き出した。 居てもたってもいられなくなった。
厳人がいなくなり、5人が残された研究室。
「隊長」
『何だね、副長』
「なんで監視なんかを。定時報告をしているじゃないですか。信用してないんですか?」
『当然だ』
隊長はそれを当然だと言わんばかりに。
『君達は、そこの東条君以外は、民間の人間だ。唯一軍人である東条君も、頼りにはならん』
はっきりと言われてやるせない表情の東条。
『現に、二人の契約者を、我々に確認を取らずに生み出したではないか』
「すいません」
『結果的にはそれでよかったのだがな。とにかく、これからは佐野翔は契約者だ。もう隠す必要はない』
ちょうどそのころ、厳人は寮の自室のドアを乱暴に開けたところだった。
「翔!!!!!!!」
厳人は怒鳴り声と共に、ベッドで寝ている翔に掴みかかり、その蒲団を剥がし、両肩をつかみ、揺さぶり起こした。
いつも無表情で無感動な顔をしている翔も、この時は、何事かと驚いた。
「翔!! 騙したな!! お前は俺達を監視してたんだな!!! スパイめ!!」
そこまでいって、厳人は気付いた。
自室に、美穂を待たせて厳人は出撃していった。
その美穂は、まだ厳人の部屋で待っている。
イスに座って、一部始終を見てしまった須道美穂。
厳人は、モンスターや契約者の話は、美穂に隠さなくてはならない。
「……っていう、マンガの話なんだけどさー……」
ちらっと、美穂の方を見る。
美穂は、今にも笑い出しそうに、口を押さえている。
そして、厳人の目の前の翔までも、小さく笑っている。
「お前まで笑うなよ!! 」
その厳人の言葉が、漫才の突っ込みの様でおもしろかったのか、美穂はついに声をあげて笑いだした。
美穂に笑われると、なんだかあまり悪い気はしない厳人。
美穂は笑いすぎたのか、涙を拭いた。
「……厳ちゃん! 隠すの超下手くそだよ!!」
「う、うるさい」
やっぱり恥ずかしくなって、厳人は赤くなる。
もう隠すのも面倒だ。そう思った厳人は、この場で翔に報告するべき事も済ましてしまおうと思った。
「おい、翔」
笑いが治まった翔がこちらを見る。
「新しい契約モンスターが来てな、お前が契約者になったそうだ」
「うん、知ってる」
翔はすぐさま返した。
「……そうか」
おそらく、電話か何かで早速連絡が行っていたのだろう。
「よく分かんないけど、新たなチームメンバー誕生ってわけね! 」
美穂はなんだか楽しそうに笑っている。
翔と厳人の手を、出会った時のように握る美穂。
「応援してるから! 陰ながら!」
厳人は、照れてまた赤くなってしまう。
と、同時に、翔が同じく照れているのを見て、腹が立つのを感じていた。
その後は、厳人と美穂がいつものように勉強を共にした後、いい加減に夜も遅くなったというので美穂は帰って行った。
厳人は、先程のように翔に詰め寄る。
ただし、今度はスパイの話とは関係ない。
「翔。言っておきたい事がある」
翔は、眠たそうな目で見てくる。
「おれは、実は、 須道さんの事が好きだ」
翔はその言葉によって驚き、目がさえた。
「お前は。さっきから、いや前から、おれの勘が正しければ。どうなんだ」
「……ぼくも、好き」
厳人の予想していた答えが返ってきた。
「は、残念だったな、須道さんはおれに好きって言ったんだ」
「ぼくにも、言ったよ」
それは厳人の想定外。
「結構好きだ、って……」
だが、『友達としての好き』の範疇を出ないのだから、美穂が翔にも同じ事を言っていたとしても不思議はない。厳人としては、少々納得のいかない事ではあるのだが。
「そうか……だが」
厳人は、翔にこの話を始めた目的を果たそうとしている。
それは宣戦布告だ。ライバルであり、恋敵として。
「翔、お前には、負けないからな!」
翔はいつの間にか眠りに落ちていて、厳人の宣言を聞いていなかった。
仕方がないので厳人は、共同浴室へ行って、帰ってきて、着替えて、そのまま寝た。
そして次の日になった。
厳人も翔も、学校へ行く。
厳人は、今日こそは今までと違って、美穂にいい所を見せてやろうと、単純な熱意に燃えていた。
勉強もスポーツも出来ないんだという事をこの時は完全に忘れていた。とにかく翔に負けるわけにはいかないんだ、と考えていた。もちろん怪獣バトルでも。
しかし当然、気持ちだけで急にいろいろ出来るようになるはずもなく、厳人はやはり問題が分からず、体育では足が遅くてどんくさく、またしても自身の無能を痛感させられるしかなかった。
一方、翔はと言えば。
いつも寝ていたはずの翔が、今日に限って積極的に授業に参加している。
すすんで手を挙げ、問題を解いてみせる。自分から動き、誰よりも早く、ボールを回し、ゴールに入れてみせる。
クラスメートたちは驚くばかり。あいつに何があったんだ、と。
美穂も翔に対して驚きを隠さない。
「翔ちゃん今日はどうしたの? さては今まで寝てたのはアレ? 力をチャージしてたのね!」
厳人は、悔しい。これは翔なりのライバル意識に違いない。実力差を見せつけてやろうという。宣戦布告(未遂)したその次の日に、負けっぱなしで非常に悔しい。
だが仕方がない。翔は組織によって送られて来たスパイだ。厳人は事情をよく知らないが、翔は今まで訓練されてきた人間に違いない。最初から、厳人が勝てる相手ではない。
それでも、いや、だからこそ悔しい。
放課後になった。
委員会の部屋に、厳人と翔と、美穂がいる。
今日一日の力を使い果たしたからか、翔は机に顔を乗せて寝ている。
「じゃ、勉強の続きをしよっか」
美穂は教科書とノートを取り出した。
厳人は、今どうしても聞いてみたい事がある。
幸いにも、翔が寝ているし。
「須藤さん」
美穂はこら、と厳人の頭を軽く叩く。
「『美穂』って呼びなさいって」
厳人は、異性を名前で呼ぶなんてできない。恥ずかしい。
「む、無理っす」
「いいじゃん。水臭いよ厳ちゃん」
「いや、そんな事よりも」
今はその話はいい。厳人は聞きたい事を聞くだけだ。
「須藤さんは、翔の事、好きか? 」
「好きよ。弟みたいで」
それは、聞きたく無いセリフだった。それが友達としての事だと分かっていても。
「じゃ、じゃあさ、おれとどっちが好き?」
厳人はしつこく質問を続ける。
「どっちが? そうねえ…… 翔ちゃんはやればできる子ね。今日知った事だけど」
『やっても出来ない子』である厳人は傷つく。
「でも厳ちゃんも好き」
理由が示されない。
だから、そう言われても納得できない。翔の方が何でもできて、翔の方が魅力のある人間だ。厳人にはそう見える。
ーー『でも』の意味が分かんねえ!! --
厳人は思わず席から立ち上がり、感情の赴くまま、部屋の外へ走りだした。
そのまま廊下を走り抜けていく。
「厳ちゃんのそういう、かわいいとこ好きだな」
美穂は、悪戯っぽく微笑みながら呟いた。
「なんで私のマンション知ってるの?」
突然の来客に、真白は驚いている。
「勘だ。なんか気が付いたらここに来てた」
厳人も、無意識のうちにここに来た事について驚いている。だが、よく考えたらここに来る理由が無いわけでもない。
「……まあいいや、あがって」
真白に導かれるまま、厳人はテーブルの椅子に座った。
「それで、どうしたの厳人君」
真白は厳人に、紅茶の入ったコップを差し出した。
「ありがと。実は……おれ、強くなりたいんだ」
「翔君にライバル心?」
早速見抜かれた。
「なんで分かったんだ?」
「え、だって、今日一日厳人君、翔君に殺意向けてたじゃない」
厳人は、自分では全く気付いていなかった。自身の、そんなオーラを。
「翔君に勝ちたいのね」
「ああ。だが勉強は無理だ。スポーツも無理だ。契約者としての能力も、まだ分からない。残るはケンカだ!」
だが、ケンカも殆んどした事が無いから、自信が無い。
「北岡、お前が最初に研究所に来た日、東条さんを投げ飛ばしてるのを見たぞ。あんなに体格が良くて背が高い東条さんを、だ。あの技を、教えてくれないか」
それが、今の厳人に思いつく、唯一の道だった。
「厳人君、格闘技や武術の経験は?」
「無いな」
道場の敷地に入った事すらない。
「じゃあ無理だよ、それじゃあ何カ月もかかるもの」
「……そうか」
それならあきらめるしかない。常識的に考えて、やはりすぐに習得できる技でも無かった。
「どうして、力で翔君に勝ちたいの?」
「おれが無能だからだ。あいつに届かない。翔よりも強くなって、認められたい」
「美穂ちゃんに?」
厳人が美穂を好きだという事も、最早周知の事実だった。
「ああ、その通りだ」
「……人の価値は、強さや弱さじゃないと思う」
「何だと?」
「自分に自信が持てる事とかじゃないかな」
厳人は納得いかない。
厳人は弱かったから周りに認められず、自信を無くした。だから強さが欲しい。誰にも代われない能力が。
真白は強い。厳人に比べれば遥かに勉強が出来た。運動神経もいい。巨漢を投げ飛ばす技まで持っている。強さを持っている、厳人にとっては羨ましい存在だ。
「強いお前は、たいそう自信に溢れているんだろうな」
真白は首を振る。
「私も、自信が無いの」
厳人は、その言葉に驚いた。
「私は、自信が無いから、自信になるだろうと思って契約者になったの」
「自信が無いだって。お前ですら自信が無いなら、おれはどうなる」
「厳人君はそのままでいいと思うよ。私は自信が無いから、皆の役に立ちたいって、認められたいって思って、なんだって真面目にやってきた。でもね、だめなの」
「だめって、なんだよ」
「声が、するの。頭の奥から。お前は生まれて来なければ良かったのに、って。その声がいつまでも消えなくて」
「誰かにそう言われてたのか」
「うん。もうあまり覚えてないけど、でもその声だけはどうしても忘れられない。自分が好きになれないのよ」
厳人は、良く分からないけれど、もしかしたら自分に似ているんじゃ無いかと思った。
でも、やはり真白の悩みは根本的に自分の悩みとは異なっているという感じもした。
唐突に、真白の携帯電話が鳴った。
『真白。わたし。春菜。モンスターが出たから、来て頂戴』
真白と厳人は、靴を履き、扉を出て、マンションにも設置されているワープポイントの場所へと急行した。
外は、いつの間にか雨が降っているようだった。
モンスターキューブの上に、契約者の4人がそろった。
それぞれのモンスターの発進ゲートの真上に立つ。
厳人は翔をちらりと見た。
翔もそれに気付いたのか、厳人を見る。
翔は相変わらずの無表情で、何を考えているのか分からない。
それに対して、厳人の考えている事はそのまま顔に出ている。誰が見ても明らかだ。
翔よりも活躍する。翔を見返してやる。カメレオンがドッグよりも強いという事を思い知らせてやろう。
モンスターキューブのゲートが開き、モンスターが真下から上昇してきた。
愛、真白、翔の3人は、モンスターの後頭部の乗り込み口から内部に入る。
だが、厳人の真下の、カメレオンのゲートだけは開かなかった。
厳人は焦って、研究室の窓ガラスに向かって必死に叫んだ。
「どういう事ですか!? 早く開けてくださいよ!!」
研究室にいる春菜と真市は、必死に機械を操作いている。操作しながら、マイクを使って厳人に呼び掛ける。
『厳人君。モンスターキューブのゲートは、モンスター自身のパワーで開くようになっているの。今調べているけど、今のところキューブゲート自体に異常は見当たらないわ。原因を特定するからもう少し待ってね』
マイクのスイッチが切られ、春菜は作業に集中しだした。
「もう少しって!」
厳人は足踏みをした。もう少し、待っている間に、厳人以外の三人が、モンスターを倒してしまうかもしれない。翔に手柄を与えてしまう事になるのだ。
3体のモンスターは、エレベーターによって地上へ押し上げられていく。
ドッグに乗り込む直前、翔がもう一度厳人の方に目を向けたように見えた。
一体何が悪いんだ。いつもは何の問題も無く発進できるのに。今日、いつもと違うところといえばドッグがいる事と、雨が降っている事くらいだ。
『わかった、原因は雨かもしれない』
再びスピーカーから春菜の声がした。
「雨、ですか?」
『そうよ。もしかしたら、雨に弱いのかも。ううん、雨がカメレオンの、姿を消す能力を阻害するんだわ。それで、出るのを拒んでいるのかもしれない』
カメレオンは姿を消せる以外には、特殊な能力は持っていない。
姿を消せないのであれば、やられる確率が飛躍的に高まってしまう。無理やり出撃させても、大して役に立てずに、厳人が惨めな思いをするだけだろう。
ーーなんてこった。雨が降ったくらいで行動不能になるなんて。
厳人は悔しさに震え、歯を食いしばった。
『と、言う訳で、今回は3人で戦ってね!』
春菜はそう、無線を使って地上にいる契約者達に伝えた。
赤いドラゴンと、青いパワード、そして灰色のドッグがビルとビルの間に立っている。
その向こうに、水色の亀が立っている。
2本足で直立している。両腕の先端がナイフのように鋭い。
全身が鉱物のような質感を持ち、強力な防御力を持つ事を窺わせる。
「それじゃあ真白、翔、まずは一斉発射と行こう」
『うん』
『了解』
ドラゴンの口から、火炎弾が連続で放たれる。
パワードの2本の角から、光線が発射される。
ドッグの右手の、銃のような指から、エネルギー弾が撃たれる。
敵は微動だにせず、その攻撃を全て受け止める。
「やったか?」
爆炎の中から現れた亀は、傷一つ負っていない。
「なら、これで」
パワードの角と角の間に、放電するように光が集中しだした。
そして、集まった光の中から、破壊光線を発射する。
通常の光線よりも強力な、ハイメガ・エナジーシュートだ。
その技の直撃も、亀の甲羅に弾かれてしまう。
そして亀は、固く閉じていた口を開いた。
その口から、亀も破壊光線を発射した。
「わああ!」
パワードの体は傷つかないが、ビームの勢いに押されて後ろに倒れてしまう。
「真白!」
愛のドラゴンが駆け出そうとするが、まだ放射され続けているビームがドラゴンにも迫る。
ドラゴンは高速で走ってビームから逃げる。
ビームはまだ衰えず、続いてドッグを襲撃する。
ドッグもまた走る。飛ぶ。アクロバティックな動きを見せる。そして、ようやくビームの照射が止んだ。
亀は、再び口を固く閉じた。
「ドッグ、サーチを」
翔は、ドッグの超音波索敵能力を使い、敵を解析しようとする。
ドッグの胸の、網状部分が発光した。
敵の弱い部分を探ろうというのだ。
ドッグの操縦室のモニターに、色分けされた亀の体が映る。
「弱点は、無い……」
『そうか、なら弱点は一つだ』
ドラゴンは高速で亀に接近する。
亀の両腕の刃が斬撃を見舞う前に、その根元を掴む。
そして、口を開き、火炎弾を亀の寸前で撃ちまくる。亀の、閉じられた口めがけて。
至近距離での火炎弾によって、亀の顎が破壊され、口の中があらわになる。
露出したビーム発射口から、エネルギービームが発射される。ドラゴンはその前に亀から全速力で離れ、回避する。
「今だ、真白!!」
パワードは、再びエネルギーを集める。
亀はいったん、ビームの放射をやめ、今度はパワードに狙いを定める。
パワードと亀の破壊光線が、同時に火を噴いた。
光線同士がぶつかり合う。だが、パワードの光線は、亀の光線を切り裂くように、止まらずに進んでいく。
光線が亀の口の中に到達する。光線の発射機関を破壊し、亀の体の中へ。
亀の固い体は、貫く事が出来ない。パワードの光線は亀の中で跳ね返りを繰り返し、最後に亀の口から、空へ向かって放たれた。
そして亀は倒れ、戦いは終わった。
その戦いの様子を、厳人はモンスターキューブ上で立ったまま、モニターを通して見ていた。
最終的に敵を倒したことなど、厳人にとっては最早どうでも良かった。
厳人は、喜んでいた。
ドッグは、敵の攻撃をひたすら避けていた。ドッグのレーダー能力も、役には立たなかった。
翔は活躍できなかった。その事が、厳人にとってはたまらなく嬉しかった。
それは暗い喜びだ。厳人にもそれは分かる。だから気分が悪い。なのに、とてもうれしい。
厳人にはそれを、どうする事も出来なかった。
続く