第4話「街の中で」
モンスターライダー
第4話「街の中で」
夕方。
厳人は寮の自室にいる。
今日はホームルームと簡単な自己紹介で学校は終わった。そしてすることも無いのでずっと芝啓次に借りたマンガ雑誌を読んでいた。
浅城厳人。
父の兄夫婦の家庭で育つ。学業において落ちこぼれとなり、不良の友達を作り、遊び呆ける。
だが、友人たちは高校受験のために厳人から離れていく。独りになった厳人は、自分の落ちこぼれの真の原因が父にあるんじゃないかと考え、実の父親、浅城真市に会いに、この街にやってくる。
そして、研究室に入ったために、契約者になってしまう。
モンスター・カメレオンに指図できる唯一の人間。ドラゴンの契約者・神里愛と、パワードの契約者・北岡真白とともに、浅城厳人は戦う。
厳人は想う。
おれは今、幸せだ。
無能だった自分に、能力が備わった。無目的だった人生に、意味ができた。
カメレオンに乗って戦えるのは自分だけ。カメレオンに乗って人類を守る。
できる事がある。だから自身がこの社会にいる事を許せる。これで自信を持てると思う。
そして、高校では友達ができた。
愛も真白も、戦う仲間だ。厳人は女の子と接した事が無かったから、愛も真白も友達という風には見られない。
隣の席になった芝啓次は、厳人と同じ不良で、話もできるし、気が合う。彼がいるから、これから高校生活は楽しくなりそうな気がする。
厳人は今、殆んど満ち足りている。だがいろいろと、不満、足りないものが無いわけじゃない。
その一つが、今、厳人の目の前のベッドで寝ている少年、佐野翔の存在。
「こいつさえ、いなければなあ・・・」
厳人は、声に出して言ってみる。どうせ翔は寝ている。
佐野翔は厳人のルームメイト。無口で、無愛想。いつも寝てる。それくらいしかわからない。まだまともに話をした事が無い。
一緒の部屋でこれから生活していくことになる、パートナー。そいつがこんなにしゃべらない奴なのは、嫌だ。もっとよくしゃべり、冗談を言ったりして付き合えるような奴が良かった。もっと友達になれるような奴がルームメイトだったらよかったのに。
翔の瞼が、かすかに動いた。
実は、翔は起きている。
ベッドにあおむけになり、瞼を閉じているだけだ。
当然、さっき厳人が言ったことも、聞かれた。
だが厳人は、気付いていない。
翌日。
学校の教室。
授業が終わった、午後の2時頃。
初日なので、中学生のころの復習が主な内容だった。
厳人は、ついていけなかった。だが、そんな事はたいした問題じゃないと思っている。勉強のために学校に来ているとは思っていない。
「おい、厳人」
芝啓次が話しかけてきた。
「なんだ啓次」
「今日さあ、これから用事とかあるか?」
「? 別に無いけど」
「じゃあさ。いまから、あの街に行ってみないか?」
「あの街?」
「ほら、怪獣がなんか戦ったりしてるあの街にさ」
厳人は反応が薄い。
厳人はこの街に初めて来た時、無人の街を見たし、カメレオンの中から何度も見ているから。
「おおい、ノリ悪いぞお!俺はこの辺りが古代遺跡の発掘現場だって聞いて、この高校を受験したんだ。お前もそうだろ?おもしろそうだったから。そしたら、古代遺跡なんかより面白そうな、怪獣が出るとか言うじゃんか。お前らが校長に呼ばれている間も、サイレンが鳴ってたし」
厳人は、ギクッとした。
啓次の話は続いている。
「俺さあ、明後日から、バイト始めるんだよね。コンビニで。だから明日、この髪も切るんだ」
啓次は、肩まで垂らした髪をさわる。
厳人は思わず言う。
「え、もったいない」
「しょうがないだろ。俺んち貧しいから、学費がな・・・前にも言ったっけ。とにかく、これから忙しくなるから、今のうちに行っておきたいと思ってな」
厳人は考える。
まあ、普段はカメレオンの視点で高みの見物みたいに見てる街に、実際に行ってみるのも悪くはない。最初に行ったときと違って、戦いでビルが壊れてるのが見えたり、面白いかもしれない。
モンスターが出たとしても、緊急用のワープポイントが街中にあるって父さんが言ってたし。
「うん、じゃあ、おれも行くよ。面白そうだしな」
「お、ありがと!じゃ、人数多い方がいいから、こいつも誘おう」
啓次は立ち上がって、厳人の後ろの席で寝ている佐野翔の頭を軽く叩いた。
佐野翔が頭をあげる。
啓次は聞く。
「お前も来るか?」
「・・・・」
佐野翔はうなずいた。
「よし」
厳人は、また思った。
こいつは今まで寝てたんじゃないのか?
そうは思っても、厳人は昨日寝ているように見えた翔のそばで言った言葉の事は忘れている。
「あたしも行くよ!」
気がつくと、須道美穂が後ろにいた。
啓次はびっくりする。
「お、いつからそこにいたんだ」
「さっきから。マッシーも、愛ちゃんも、行くよね?」
美穂は真白と愛の方を見て、聞く。
「わたしはいいや、別に」
「まあまあ愛ちゃん、楽しそうじゃない」
真白が愛をなだめる。
「よし決まり!」
美穂が愛の言葉を無視して言う。
そして、6人は無人の街にやってきた。
街の周りは、一応ロープが張って、立ち入り禁止と書いてあったが、見張りはいなかった。なのでロープを跨いで侵入した。
途中で、美穂・真白・愛の3人と、啓次・厳人・翔の3人で分かれ、別行動になった。
厳人達3人は、崩れたビルの前を通る。
厳人と啓次は面白がる。
翔は、特に興味はないようだ。
「やっぱ、こういうの見るとなんか、破壊!殺戮!ワルって感じ。血が騒ぐなあ!」
「そうだな、こう、滅亡って感じでかっこいいなあ」
二人とも、不良だ。そして15歳の男子だ。
反社会的なものにあこがれる。
「だから俺は不良に憧れたのさ」
と、啓次は言った。
「なに?」
「かっこよかったし、かっこつけて、楽しかったからな」
なんか、身の上話が始まった。
「でもなあ、俺の親は、俺を高校に行かせるために実は貯金をしてくれてた。だから俺は高校に行くと決めた。バイトもしなきゃならん。うちは兄弟多いし。」
そうだったのか。
「でもバイトも案外楽しいかもしれない。あ、そうだ厳人。お前も一緒に働かないか?」
「いや、おれ実は忙しいんだ」
「委員長補佐の仕事の事か?大丈夫だって」
「いや、そうじゃなくてな」
厳人は、隠し事はしたくないと思った。
せっかく友達になったのだから。
「お前はさ。おれが、モンスターに乗って、戦ってるって言ったら信じるか?」
「は?」
「だからさ、こう、馬に乗るみたいに、怪獣に乗って、敵の怪獣と戦って人類を守ってるって言ったら信じるか?」
「いいや」
「だよなあ」
「不自然だ。だって人類を守る仕事を軍人じゃ無くて高校生がやるなんて無理がある」
「そうだな、無理がある設定だった」
「でもだとしたら昨日お前達3人が教室からいなくなってる間にサイレンが鳴って、鳴り終わったらお前らが戻ってきた。つじつまが合うか?・・・お前もしかして小説でも書いてるのか?」
「いや、そういう話を思いついただけで。急に話してごめんな。」
信じてくれそうに無かったので、結局ごまかした。
「さて、嘘の話じゃなくてさ。俺の身の上話もした事だし、お前もしろよ」
啓次が言う。
「厳人はなんで不良・・・チャリンコ暴走族になったんだ?」
「おれはな、学校で落ちこぼれだったんだ。そんで、だから不良の仲間を集めて悪さばかりしてた」
「じゃあ、今は違うよな?高校受験に成功したんだからさ」
厳人は、受験をしていない。
「ああ」
厳人は言った。
一方、真白と愛と美穂は。
目の前に、巨大な工事現場がある。
道路に大きな穴があいていて、車や作業員が働いている。
モンスター・パワードが、敵のキノコと戦った時、道路にあけた穴だ。
真白は、申し訳ないなあ、と思った。仕方ない事かもしれないが。
「ひょっとしてあなた達、怪獣と関係あるの?」
不意に、美穂が言う。
「え」
真白はびっくりする。
美穂が話を続ける。
「マッシーと愛ちゃんと浅城君が教室から出て行った後、サイレンが鳴ってた。裏口で入学したとか言ってた。あと、何となく、二人ともこの街、始めて来たっぽくないし」
真白は、美穂の鋭さに舌を巻く。
美穂は、楽しそうに言う。
「で、どうなの?怪獣と戦うために、政府から派遣されて来たとか?」
「え、ええと、美穂ちゃん。そんなわけ無いじゃない」
「そうかなあ」
「私達、高校生だよ?」
「ううん。まあ、そうだったら面白いなあ、と思っただけ」
美穂は、いつか証拠をつかんでやるぞ、と言いたげな表情をしながら言った。
「もう、美穂ちゃんってば。そんなマンガみたいな。ね、愛ちゃん」
真白は隣にいるはずの愛の方を見た。
そこには誰もいない。
「あれ?愛ちゃん?」
そこから少し離れた場所。
愛は、謎の人物と向かい合っている。
瓦礫の中に立っている、白いコートの人。
愛が言う。
「あんたは、何者?」
「君と同じ存在だ。私も人間の細胞を手に入れ、人間の姿を手に入れた」
愛は、かすかにモンスターの気配がするのを追って、この場所にやってきた。
戦うために体勢を整える愛。相手は、直立不動を崩さない。
謎の人物は言う。
「まあまあ。ここはひとつ、仲間にならないか?」
「仲間?」
「君がどうしてそうなったかは知らない。私の場合は偶然、ここに現れた時にだ。以来、モンスターとして察知されにくいのでこの姿になっていた。そして気付いた。
今の私はモンスターの進化の力と、人間の知恵、二つの能力を持っている。それは、神と同じじゃないか。それも、契約者などという不完全な二人三脚では無く。私一人で神なのだ」
「で、何が言いたいの」
「君もそうだ。だから、仲間にならないか」
「あそこに集まっている存在核を私に奪わせる気?」
「そうだ。」
愛は、鼻で笑う。
「なにが神の力だ。知恵と力が一緒になっても、あんたの力は小さすぎる。わたしのも、そう。あんたと組む利点は無い」
「ふん、ならばしょうがない、倒すまでだ」
愛は、本性を現して、相手を切り刻もうと思った。
この敵からは、今までのモンスターのような大きな力は感じない。本来の力がまだ回復していない愛でも、楽に倒せるだろう。
「愛ちゃん、こんなところでなにしてるの?」
真白が、後ろから現れた。
「真白」
愛は、変身できない。
なぜか変身できなくなってしまう。
「来ないなら、こっちから行くぞ!」
相手が叫んだ。
相手のコートがびりびりと裂け、体が巨大化しながら変化していく。
大型トラックよりも大きく巨大に。
コートと同じ、真っ白な色をした、カエルのようなモンスター。しかし、モンスターにしては圧倒的に小さい。
「モンスター!?」
真白が驚く。
「どういう事!?人間が」
「説明してる暇は無い」
カエルが腕を伸ばし、掴もうとしてくる。
真白と愛は避けた。
スピードも大したことは無かった。真白もカエルの腕を楽にかわす事が出来た。
カエルはもっといい方法は無いかと考えた。そして、カエルは見つけた。
こっちを見て驚いている、3人の人間。
厳人と、啓次と翔。
厳人は、研究所に連絡しようと、携帯電話を取り出した所だ。
カエルは知っている。人間は、人質に弱い。
3人のうち、弱そうな者を捕まえようと、駆け出す。
「!」
愛は、カエルが駆け出して行った方角を見て、厳人達の存在に気づく。
カエルは厳人の方へ手を伸ばす。
厳人は足がすくんで動けない。
だが、厳人が捕えられる事は無かった。
厳人とカエルの間に割り込んだ愛が、代わりにカエルに捕まった。
「愛ちゃん!?」
「神里!!」
真白と厳人は叫ぶ。
愛を握りつぶそうと、手に力を込めるカエル。
だが、愛は余裕だ。作戦がある。
「皆、逃げろ」
見ているしかない、4人に言う。
「逃げろって言ったって、」
「愛ちゃん、」
「早く!!」
ビルの陰から、火炎弾が飛んでくる。
火炎弾はカエルに命中し、爆発する。
だが厳人達は無事だった。カエルの体が壁となり、爆風は届かなかった。
愛が、ひそかにテレパシーで呼んだドラゴンが吐いたものだ。
カエルは全身が高熱で燃え上がり、倒れた。
その炎の中に、愛もいる。
「愛ちゃん!!」
真白達が駆け寄ろうとする。
「来るな!!」
愛は必死に、怪獣の死体から抜けだそうとしながら叫んだ。
火炎弾の炎は超高熱だ。人間なら火傷程度じゃ済まないだろう。
愛は自力で抜け出し、炎から遠のき、倒れた。
駆けつけた救急隊員によって、愛は研究所へ運ばれていった。
続く