第2話「少女と怪獣」
モンスターライダー
第二話
「少女と怪獣」
メンバーは全員、研究所の「作戦室」に集まった。
厳人と、「組織」のメンバー4人が向かい合う。
まずは真市が口を開いた。
「それじゃあ、厳人。僕以外の皆はお前の事を知らないから、自己紹介をしてくれ」
「うん」
厳人は、全員を見て、言う。
「おれは、浅城厳人。一応、この人の息子です。色々あったらしくて別居してました。これからよろしくお願いします」
厳人は頭を少し下げる。
真市がまた言う。
「じゃあ、皆も自己紹介をお願いします。」
「わたしからね」
研究室で、真市と一緒にいた、「手塚」と呼ばれていた女性が前に出た。
「わたしは、手塚春菜。このチームの副長です。一応まとめ役みたいな物かな。君のお父さんの一つ下の後輩です。よろしくね」
「じゃあ次は俺が」
この研究所の入口にいた、警備員。
「俺は東条茂。戦闘作戦担当、兼・雑務担当。これからいろいろ戦いに関して関わってくると思うけど、よろしく!!」
「じゃ、最後は愛ね」
手塚春菜が言うと、赤服の少女も前に出る。
「わたしは神里愛。あんたと同じ契約者。わたしの足を引っ張らないように頑張ってね」
厳人は、思わず口から疑問が出てしまう。
「お前は、超能力者なのか?」
彼女はテレパシーを使っていた。
「いや、」
手塚春菜が割り込んでくる。
「違うけど、その話はややこしいからまた今度ね。他に、なんか質問ない?」
聞きたい事はたくさんある。
「父さんは、隊長みたいな役?」
真市は首を振る。
「僕はただの研究員。隊長は、ここにはいない。組織の上の人だから」
「モンスターとか、組織とかっていったい何なんですか?」
「なるべく簡潔に言いうと。僕たちはこの街で遺跡の調査をしていた。この遺跡は人類とは違う古代人の文明だと分かった。」
「宇宙人みたいな?」
「いや、たぶん元からこの星にいた種族だ。見つかった文字盤を解読した結果、彼らはモンスターに滅ぼされてしまったらしい」
「で、モンスターって?」
「人知を超えた生命力をもった種族だ。彼ら同士も戦ってる。『存在の核』をめぐって」
存在の核?
「他の種族の『存在の核』を手に入れた個体はより強力な力を得る、らしい。『存在の核』を奪われた種族は全員が消滅する。人類にも『存在の核』があるが、今までは目に見えないものだった。ついこの前、目に見えるモノになった。その存在を感知して、モンスターが襲ってきた」
「じゃあ、なんでカメレオンやドラゴンは味方をしてくれる?」
「彼らはたった一人で『存在の核』を守っていた。他の仲間は、どうやら皆、死んでしまったと思われる。僕たちが彼らを見つけ、契約を持ちかけた。もちろん、遺跡から発掘した機械を使って、石板に書いてある通りにしただけだ。カメレオン、ドラゴン、それからもう一体、彼らの『存在の核』を一か所に集めて、我々と一緒に守ろう。そうすれば一体で守り続けるよりも確実だ、と。ただし我々がただの『地主』では、彼らは納得しない。だから、持てる知恵を使って一緒に戦わなくちゃいけない。そのために彼らに乗る、『契約者』が必要だった」
なるほど。
厳人は、大体、何となくわかったような気がした。
一気に言われて、全部は呑み込めなかった。
「すまなかったよ、厳人。僕達のミスで巻き込んでしまって」
「俺のミスです。すいません」
雑務の、東条茂が頭を下げた。
「いや、」
副長・手塚春菜が言う。
「こういう事故が起こる可能性を考えないで、東条に何も伝えなかった。だから厳人君が研究室に来てしまった。副長である私の責任よ。でも何とか契約を解消する方法を探すから」
「待ってください」
厳人は話をさえぎった。
「おれは契約者になって、戦えるようになって、すごいうれしいんですよ。だって人類を守る戦士になったんだから」
「厳人」
こんどは真市。
「遊びじゃないって言っただろう。危険なんだ、命の保証もできない。死ぬかもしれないんだ」
「でも誰かが、やらなくちゃいけないんだろ。俺はやるからには真剣にやるつもりだ」
「しかし」
「いいんじゃないの?」
神里愛が口をはさむ。
「この中の誰も代わりにはなれない。契約に年齢の制限があるからね」
厳人はまだその話は聞いてない。
「モンスターは寿命が長い。100年なんてあっという間で。自分に指示する人間がころころ変わるのはいやだ。だから、なるべく若く、幼過ぎない、ぎりぎりの年齢として15歳を選んだってわけ。わかった?」
「ああ、大体は。」
「私は別にかまわない。誰がなっても同じだし、戦う意思以外はいらないよ。あんたは嫌な奴には見えないし」
「そりゃあどうも」
「一刻も早く契約者をそろえたほうがいいでしょ?もう戦争が始まってるんだからさ」
「・・・しかたないな」
真市は、認めた。
副長も。
「確かに愛の言うとおりね。
厳人君、それじゃあ、頼むわね?私たちも全力でサポートするから」
「はい!任せてください!!」
厳人は笑顔で、そう言った。
その日の夜。
副長・手塚春菜は自宅のマンションで、夕飯を食べていた。
テーブルの向かい側の席に座っている少女も一緒に食べている。
歳は15。
春菜は少女と共に夕食をとりながら話している。
「それで、手違いでその男の子が契約者になっちゃったのよ」
「へえ、じゃあ」
少女は新聞をとりだした。
一面の記事。
よほどの望遠で撮影されたのか、かなり荒く、ぶれた写真。
ドラゴンとカメレオンが映っている。
「この赤い恐竜に乗ってたんですか?」
「ううん、その隣の、緑色のカメレオン。あ、この赤いのに乗ってるあの子の事はまだ話してなかったっけ」
「はい」
「そっか。まあとにかく、モンスターはあと一体いるから、あと一人必要でね」
「あの」
「なあに、真白」
真白と呼ばれた少女は、躊躇いがちに言った。
「その・・・私じゃ、だめですか?契約者」
「え」
春菜は驚いた。
真白は戦いを好むような性格じゃない。おとなしいし、優しい。
「どうしたの真白。あと一人必要って言っても、・・・真白はケンカとか嫌いでしょ?」
「でも、皆の役に立てるなら」
「だめよ。
真白がやることない。危ない、命をかける事だもの」
「でも春菜さん、私は」
「この話はおしまい!!」
春菜は食べ終わった食器を持って立ち上がった。
「ありがと、今日もおいしかった。食器を洗うのはわたしがやっておくからね」
春菜はそのまま台所へ行く。
「・・・はい」
真白も、しぶしぶ立ち上がった。
春菜は、今まで真白に仕事の話を聞かせてきたのは間違いだったかな、と思った。
真白が契約者になりたいなどと言い出すとは思っていなかった。
だが真白が人の役に立ちたがる子だって知ってた。読みが甘かったか。
同じころ、浅城真市のマンション。
「荷物はそれだけか」
真市が厳人に聞く。
「うん、二泊ぐらいはするつもりで」
厳人は大きめのバッグを背負っている。ここに来た時は、父親・真市に会って、何か話をして、少し泊まって帰るつもりで来た。バッグには着替えや歯ブラシなど、最低限のものしか入っていない。
「兄の家には電話を入れてきた。ここをお前の部屋にする。まあ、僕は最近は殆んど研究所に泊まってて、ここには帰らないけど」
「じゃあおれも研究所に泊まるよ」
「無理しなくていいんだ、厳人。気まずいだろ?何年も会って無い、実の父親と一緒に住むなんて」
「そんな事は」
「ここだって、とりあえずのって所で。今お前の住む場所は他に探しているところだ」
真市は厳人を避けようとしている?
厳人にはそう感じられた。
だから、聞いた。
「もしかして、おれが父さんの事恨んでるかも、とか思ってる?」
「恨む?どうして」
厳人の思惑は外れたようだ。
「僕は何か厳人に恨まれるような事したか」
「ほら、よくある話じゃん。小さい頃にどこかへ預けられた子供が、親に捨てられたと思って親を恨んだり、トラウマになる話。だから父さんも、おれがそういう風になってるって思ったかと。まあおれはそんなの思って無いけど」
「どうしてそんな事」
「おれを避けようとしてるんだろ?」
だから住む場所を別々にしようと。
「違う。 本当は、僕は自信が無いんだ。綾子さんが・・・お前の母さんが死んでから、僕はお前の父親としてやっていける自信を無くした。だから兄さんの家族としてお前を引き取ってもらった。
兄さんは僕よりもずっと、人間として優れてる。だから、兄さんのほうが、お前の父親としてふさわしいんだ。
何が言いたいのかって言うと。僕は父親失格だから、お前に会っちゃいけないって思ってた。今も他人として距離をおきたい。気まずい感じもするし。
何で、ここに来ちゃったんだ、厳人。ここはお前の居場所じゃない。兄さん達の所にいれば、お前は僕とは違う、いい人間になれたはずだ」
いい人間?
「僕には能力が無い。他人よりも劣っている。良い所がない」
「組織のチームの一員だろ?」
「そんなのは誰にだってなれる」
真市は厳人と同じだ。
やはり自身のルーツはこの父親にある。厳人はそう思った。
「おれは、父さんと同じだ」
「同じ?」
「おれも、自分がすごく価値が無いって思った。おれは何をやってもダメで、なにも取り柄が無かった。だからここに来たんだ。
兄さんは俺と違って何でもできる。兄さんの親は俺の親と違う。おれの本当の親は俺と同じか、違うのか。それを確かめたくてここに来た」
「そうか・・・」
真市は数秒、黙った。
「 だが。そういう遺伝って、僕には信じられない。人を決めるのは遺伝だとは信じない。お前はまだ自分の才能に気付いてないだけだ」
「そうかな」
「とにかく君は、ここに来るべきじゃなかったんだ」
真市は玄関へ向かう。
「僕は研究所のほうに戻る。明日は施設の案内をしたいから、9時ごろ迎えに来るから」
真市は去って行った。
真市は、厳人の事は何も知らない。
厳人はそう考える。何年も会ってないから、知りようがないはずだ。
「おれは本当に何も無い。俺がここに来たのは、正解だ」
そう思った。
翌朝。
手塚春菜の自宅。
「それじゃあ言ってくるわね、真白」
玄関で、靴を履きながら春菜は言った。
「いってらっしゃい、春菜さん」
食器を片づけていたためにエプロン姿の真白が言った。
「行ってきます。夕飯はホワイトシチューがいいなあ」
「3日前に食べたじゃないですか」
「あはは」
春菜はドアをくぐって、研究所へと向かった。
研究所に着くと、まずは、神里愛の部屋へ向かった。
神里愛は研究所の中に住んでいる。春菜は朝、研究所に来たら 必ず愛の様子を確認することにしている。
扉を開けた。
「おはよう。見に来てあげたけど。調子はどう?」
神里愛は、ソファーに座ってテレビを見ていた。
何かの、バラエティ番組を朝からやっている。
「それ、おもしろい?」
「ううん。暇つぶし」
愛は見るからに退屈そうに答えた。
「そんな事より春菜」
「春菜<さん>でしょ」
「3人目の契約者はどうなってるの?」
「本部からもうすぐ送られてくると思う」
「まだ決まって無いのね。早くしないと。あれが三体の内で最強の切り札なんだからさあ」
愛は立ち上がった。
「どこ行くの?」
「散歩」
愛は廊下へと出て行った。
春菜も愛の部屋を後にした。
一方、研究所の入口。
雑務担当の東条茂が、警備員の制服を着て立っている。
モンスターが襲撃してこない限り、ずっとこうだ。彼はデスクワークが苦手だから。
「あのー・・・」
気がつくと、東条の前に、一人の少女が立っている。
「あれ、君は誰だい?」
「私、手塚春菜さんと一緒に住んでいる、真白といいます」
真白は頭を下げた。
「ほお、手塚さんにもお子さんがいたのか。なに、手塚さんなんか忘れ物でもしたの」
「はい、ちょっと書類を」
「そっか。じゃあ俺が届けておくから」
「いえ、どこに春菜さんがいるか言っていただければ、自分で届けますから」
「そっか。じゃあ頼むよ。たぶん地下3階の事務室にいると思うから」
「ありがとうございます」
真白は入り口をくぐって、奥へと走っていった。
「・・・」
東条は、何か忘れているな、という気はした。
しかし、気がついたのは、それから20秒ほど経ってからだった。
「しまった・・・これじゃあ厳人君が来た時の二の舞じゃないか!!」
東条は走り出した。
その頃、真白は、廊下を歩いていた。
真白が探しているのは、春菜のいる事務室じゃない。
この建物のどこかに、モンスターと契約するための機械があるはずだ。それを見つけ、真白は契約者になる。そのためにここに来た。
春菜を説き伏せる事は、真白にはできない。なんだかんだと言いくるめられてしまう。春菜が真白に契約者になってほしくない理由は、真白も理解している。危険だという事。心配してくれたのに、春菜をだましてここに来てしまって申し訳ないとも思っている。
しかし真白は、どうしても契約者になりたい。人や社会に、大きく役立てる存在に。だから勇気を出して、普段の真白なら絶対にやらない、こんな潜入のような事をやっている。
向こうから、話し声が聞こえた。
真白はとっさに、すぐ横にあった倉庫のドアを開け、そこに隠れた。
そのドアの前を、話し声が通り過ぎていく。
「この向こうが会議室だ。まあお前には関係ないかもしれないが」
「うん」
中年の男性の声と、少年の声。
春菜さんが話していた、契約者の子だろうか、と真白は思った。
「どうして隠れているの?」
不意に後ろから声がした。
真白は驚いて振り返る。
するとそこには、自分と同じくらいの歳の少女が立っていた。
真っ赤なワンピース・スカートを着ている。なぜか倉庫の中にいる。
真白は思わず聞いた。
「誰?」
「こっちのセリフ」
言い返された。
どうしよう。なんて言おうか。
真白は、とりあえず嘘をつく事にした。
「私は、北岡真白。契約者に選ばれて、ここに来たの。春菜さんから聞いてない?」
「嘘。」
やはり、見破られた。
「だってそれなら、隠れる必要、無いじゃない」
真白は言い返せない。
「契約者になりたいの?」
真白は観念して、ホントの事を言おうと思った。
「うん、なりたい」
「それで忍び込んできたんだ」
「・・・うん」
「わかった」
少女が、真白の手をつかんだ。
「え」
「じゃあ、わたしが案内してあげる」
そのまま、少女は真白を引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと、案内するってどこに」
「契約したいんでしょ?契約の機械は研究室にあるから」
二人の少女はエレベーターの方へと向かった。
東条茂は警備員室へ入った。
真白という少女が今どこにいるのか、監視カメラの映像で確認するためだ。
茂はモニターを見まわした。
そして見つけた。真白は今、エレベーターの中。
「あれ?」
真白は一人ではない。神里愛が一緒に乗っている。
真白は手塚春菜に書類を届けに来たと言った。茂は、春菜は地下3階の会議室にいると言った。
エレベーターは今、地下3階を通り越し、降下を続けている。
「くっ!!」
茂は警備員室を飛び出し、非常階段へと急いだ。茂の足なら、エレベーターよりも階段の方が早いからだ。
茂は考えた。二人は研究室へ向かっているのだろうか。神里愛は真白を契約者にするつもりか。とにかく捕まえなくては。
「東条、そろそろ休憩時間じゃない?」
警備員室に、手塚春菜が入ってくる。
しかし、東条茂の姿はない。
「あれ・・・ん?」
茂がメインモニターに映しっぱなしにした映像。
エレベーターの、監視カメラ。
「愛・・・それに、真白?」
真白は、謎の少女と手をつないだまま、エレベーターに乗っていた。
真白は思った。すごくきれいな女の子。この子は何者だろうか。
思い切って聞いてみた。
「あなたは誰?名前は?」
「わたしは、神里愛」
「あなたも契約者なの?」
「うん」
「そう・・・どうして私を契約者にしてくれるの?」
「契約者があと一人必要だったから」
「誰でもいいの?」
「なりたいっていう意思があればね」
12階に着き、エレベーターのドアが開く。
真白と愛は外へ出た。
研究室のフロアへ入るとほぼ同時に、非常階段のドアが開き、東条茂が飛び出した。
「間にあった!!」
茂は二人の前に立ちふさがった。
そして言った。
「愛ちゃん。その子を契約者にするつもりか」
「うん」
「ならば・・・俺を倒してからにしろお!!」
茂は不可解なファイティングポーズをとり、威嚇した。
愛も真白の手を離し、茂を睨みつけた。
だが、真白は愛の前に出た。
「!」
「神里さん、私がなりたいって言ったんだから、私が戦う」
「戦えるの?」
「少しは」
真白の前に立ちふさがる、筋肉とサングラスが特徴で、肌の黒い大男。
「真白ちゃん。君は騙されている!!」
「ううん、警備員さん。私騙されてない。あと、騙してごめんなさい」
真白と茂は、しばらくにらみ合った。
「来ないなら、こっちから行くぞ!!」
茂は真白を倒そうと、襲いかかってきた。
だが、警備員の視界から、真白が消えた。
「!?」
そして次の瞬間。
茂は投げ飛ばされ、壁に激突した。
「ぐはっ!!!」
そして茂は床に落ちて、気絶した。
(よかった、習ってた武術が役に立った。)
後ろから、拍手の音が聞こえた。
神里愛だった。
「やるじゃん」
愛は笑顔で言った。
「う、ううん、そんなこと無い」
真白は照れ臭そうにうつむく。
「そこまでよ」
手塚春菜が現れた。
そして、一緒になぜか、契約者・浅城厳人が。
春菜の手に拳銃が握られ、その拳銃が厳人の頭に突き付けられていた。
「この子の命が惜しければ、この部屋から出て行きなさい!!」
「たーすーけーてー」
厳人はセリフを叫ぶ。
「こら、厳人君。もっとちゃんと真面目に叫びなさい」
「嫌ですよ、大体どう見てもそれ、おもちゃのけん銃じゃないっすか」
「なんで言っちゃうの!!」
「ばればれですって。だいたい契約者になりたいなら、ならせてやれば良いじゃないですか」
「で、浅城なんか人質にしてどうするつもり?」
愛が口をはさんでくる。
「契約者は大事でしょ?だから厳人君は人質になるはずよ」
「春菜、そいつはあんまり大事じゃない。
浅城厳人よりも、北岡真白の方がいい。この子の方が強くて、しかもかわいいからな」
「「え・・・」」
照れる真白。
ちょっと傷つく厳人。
「だから人質にはならないよ」
「・・・真白はね・・・」
春菜が話し始める。
「わたしの、本当の娘じゃないの。いろいろあって一緒に住んでる。でもわたしにとってはホントの娘同然で、大切な、家族だと思ってる。大事だから、だから危険な目に会わせたくない。真白。契約者になってから契約を解除する方法は今のところ無いから。引き返すなら今よ」
真白は、春菜の目を見て、そして、頭を下げ、言う。
「でもやりたいの、春菜さん。
お願いします」
真白が春菜に、こんなに何かをやりたいって言った事は無かった。
そして、やりたいがために、人を騙したり、忍び込んだりすることも今まで無かった。真白はいつも優しくて、そして自信の持てない子だったから。
春菜は、うなずく。
「しょうがない。」
春菜は契約機械の方へ歩いていく。
「春菜さん?」
春菜は機械のスイッチを入れ、起動させた。
画面にたくさんの、古代語と思われる文字が浮かぶ。
真白の姿が画面に映った。
「これで、あなたは契約者になった。
真白。無茶は、しないでね」
「ありがとう、春菜さん」
携帯電話の、バイブ音が鳴る。
東条茂の、ズボンのポケットからだ。
気絶していた茂はその音で目が覚める。
茂は電話に出た。
「もしもし」
『おれだ』
「隊長?」
『モンスターが近付いている。気付いているか?』
「な、なんだって!?今すぐ戦闘態勢に入ります」
『頼むぞ』
茂は携帯を切った。
昨日は、神里愛がいち早く【鳥】の襲来を察知した。
「モンスターがやってくる!!愛ちゃん、何で教えてくれないんだ!!」
「屋外じゃないと、察知できないから」
「そうか。しかたない、厳人君と愛ちゃんは戦闘準備!」
「あの、警備員さん」
「なんだい、真白ちゃん!!」
「わたしも契約者になりました」
「な、なんだって!!止められなかった!!手塚さんに怒られる!!」
「東条。いいのよ、わたしが許可したから」
「な、なんだって!!まあいいや、話は後で聞きますよ!厳人君と愛ちゃんと真白ちゃんは戦闘配置につけ!!」
茂は、非常階段へ走る。
そして一気に階段を駆け上り、警備員室へと飛び込んだ。
中央大画面に、モンスターの姿が映っている。
道路をゆっくりと歩いて来る、巨大な黄色い、キノコのような姿。
足が短い。移動が遅いのはそのためか。
だがすでに、この街の中に入ってきている。
両腕と尻尾が、自在に動く長い、触手のような、鞭のような。ぱっと見て、武器はそれしか見当たらない。
「とりあえず、調整が終わったこのシステムを試そう」
茂はスイッチを押した。
モンスターの前方のいくつかの建物が、割れる。
この街は、政府によって住民や企業は別の場所へ移転してもらっている。無人の街で、建物は一部が改造してある。
戦車が。戦闘機が。数十台の兵器が建物の中から飛び出してくる。
全部が無人。自動攻撃システムだ。
「よし、攻撃しろ!!」
茂が再びボタンを押す。
砲弾、レーザー、ミサイル、爆弾、ありとあらゆる武器が雨のように、モンスターに降り注ぐ。
モンスターは雨を受ける家の屋根のように、攻撃をはじく。
そして、モンスターの鞭が高速で動き、兵器群は一瞬で全滅した。
その様子を画面で見ていた茂。
「く、まあしかたない!モンスターはアトミックでもノーダメージだ!でも無駄じゃ無かった!」
茂は所内放送のマイクを入れた。
『三人とも、聞こえるか!!今、無人兵器で攻撃してデータを取った!キノコの様なモンスターは、身体の表面にバリヤー、電磁防護壁らしき膜を張っている!!気をつけてくれ!!』
契約者の三人は、モンスターキューブの真上に立っている。
「気をつけろって、どうすりゃいいんだ」
厳人はつぶやく。
「自信無いの?」
愛が、馬鹿にしたように言う。
「うるさい、神里。おれだって契約者だ」
三人の立っているそれぞれの床が、だんだんと開いていく。
下からモンスターが、エレベーターによって上がってくる。
真っ赤な、ドラゴン。黄緑色の、カメレオン。
「!」
全身が青く、頭部に2本の大きな角。
能面の、はんにゃのような恐ろしげな顔。
顔がすごく大きいように見えた。
胴体と顔の区別が無く、角の横から腕が、アゴから足が生えている。
その姿に、真白はちょっと退いた。
「怖い?」
愛が、ドラゴンに乗りながら聞いて来る。
「ううん、大丈夫」
真白も青い鬼に乗り込んだ。
厳人もカメレオンに乗り込む。
三体のモンスターは地上へ向かって上昇を始めた。
『そのモンスターはね、』
「神里さん?」
愛が無線で真白に話しかけてくる。
『名前は、【パワード】。武器は両腕のハンマーハンドと、角から出る光線。三体の中で一番強い。真白。あなたが切り札だからね』
「う、うん。がんばる」
『それから、光線は真白の指示が無いと撃てない事になってるから』
ドラゴン、カメレオン、パワードが地上に出た。
敵がいる方角へ、歩く。
黄色い、大きなキノコが歩いて来るのが見えた。
真白はつぶやく。
「あれが、相手・・・」
敵の、触手がこっちに向かって動き始めた。
『北岡、先制攻撃だ、一緒に撃つよ!!』
「え、うん」
『ドラゴン、撃て』
「え、えと、パワード、撃って!!」
ドラゴンは、口から火炎弾を発射した。
パワードもほぼ同時に、二本の角から光線を放射した。
敵に命中し、爆発が起こる。しかし敵は無傷だ。
触手が高速で迫ってくる。
ドラゴンとカメレオンは、触手を避ける。三本の触手の内、二本はドラゴンとカメレオンを追いかけてくる。二体はさらに動いて回避する。
触手が邪魔で、キノコの本体に近づけない。
三本の内の一本はパワードにぶち当たる。
「パワード!!」
真白が叫ぶ。
パワードはドラゴンやカメレオンのように素早く動けない。敵の触手の先端、ナイフのような切っ先が、パワードの身体に直撃する。
しかし、パワードの頑丈な皮膚には傷一つ付かない。
パワードは両腕のハンマーで触手を振り払った。
神里愛は再び無線を使う。
『浅城』
「なんだ」
『奴はたぶん接近戦には弱いはず』
「ほう」
『やれるね?』
「もちろんだ」
カメレオンはビルの陰に隠れる。
「カメレオン、姿を消せ」
三本の触手がパワードとドラゴンに狙いを定める。
透明になったカメレオンはキノコに向かって突っ走る。
「やれ、カメレオン!!」
カメレオンの鋭い爪が、キノコの腹に刺さる。
「やった!」
しかし、深く刺さらない。
一本の触手が本体の方へ戻ってくる。
「わ!!」
カメレオンは触手に弾き飛ばされる。
「そうだ!
パワード、敵の足元を狙って!!」
パワードは光線を発射。
キノコの足元の地面が、えぐれる。
キノコはバランスを崩す。
倒れそうになったキノコは、触手を三本とも本体に戻し、杖のように体を支える。
『ナイス、北岡!!今だ!!』
ドラゴンは高速で走っていく。
太ももの、刃物のような角を真横に伸ばす。
そのまま、一瞬でキノコを通り過ぎた。
キノコの上半分が、地面に落ちた。
キノコの触手の動きも止まった。
三体のモンスターは再びエレベーターを下り、地下へと戻る。
三人を降ろし、モンスターキューブの中へと帰っていく。
愛が真白の頭をなでる。
「な、なに」
「初めてなのによくやった。えらいえらい」
「そ、そんなこと無いって」
厳人は不満そうにしている。
「あれ」
愛が気付く。
「浅城もよくやったよ」
「なにが。今回おれは、役立たずだったじゃんか。だがこの次は」
「違うよ」
真白が話に割り込む。
「浅城君の最初の攻撃があったから、相手はバランスを崩しやすくなったと思って、私は足元を狙ったの」
言った後、真白は慌てた。
「ご、ごめんなさい、生意気なこと言って」
厳人は、照れていた。照れながら、言う。
「・・・いや、ありがとう」
「うん、良いチームだ!」
愛が言った。
「「チーム?」」
「うん。この三人組なら、これから楽しくやっていける気がする!ねえ二人とも、
わたし達さあ、これから名前で呼ぶ事にしない?だって名字って他人行儀じゃん。仲間なんだからさあ」
「おれは嫌だな、恥ずかしいから」
「さびいしい事言うなよ、厳人」
「うるさい神里」
「あの、愛ちゃん、厳人君」
真白が言った。
「「おう」」
「その・・・これから、よろしくね」
愛は、満面の笑顔で、
「うん!よろしく!」
と言って真白の手を両手で握った。
厳人はただ、照れ臭そうにしていた。
続く