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突然ですが最終回です第10話「罪」

予告もなしに最終回にしてしまい、申し訳ありません。予告するのをすっかり忘れていました。

モンスターライダー


第10話「罪」



 昼過ぎ頃の研究所。


 春菜と真市は休憩所にいた。

 先程まで、研究室で作業をしていた。機材の調整等、常に何かしら、仕事がある。

 一仕事終わったので、とりあえずの休憩時間を取っている。

 春菜は椅子に座って、音楽プレーヤーで洋楽か何かを聞いているようだ。

 真市は、携帯電話を操作し、クロスワードパズルを解いている。


「そういえば浅城さん」

 春菜が、耳からイヤホンを外して話しかけてきた。

「何ですか?」

 真市も、携帯電話をいったん閉じた。


「厳人君は最近どうです?」


「何ですか、いきなり」

 真市は戸惑いつつも、答える。

「良く知りませんが、友達もいるみたいだし、調子良い風に見えます」

「やっぱり厳人君とあまり話して無いんですね。気にならないんですか?」


 真市は、春菜が深く聞いて来るので余計に戸惑う。

「本当に、何ですか……いきなり。親じゃないんです。僕は育ての親じゃない。厳人にあれこれ関わ

らない方がいいでしょう」

「でも一応、生みの親なんでしょう? 厳人君と一緒に住む事は、全く考えてなかったんですか?」


「自信が、ありませんでした。そもそも、厳人を兄の家に預けたのも、自信が無かったからです。経

済的には、充分育てられる給料は貰ってた。まあ、僕が酒びたりになってた事もありますが」

「良かったら、聞かせてもらえませんか? 事情を」


 真市は不思議に思う。

 今まで、春菜と一緒に働いてきたが、そういった事は全然話さなかった。

「なぜ、今になって、そんな事を聞くんです?」

「わたしが今まで見守ってきたものが、見守る必要が無くなったからです」

「真白ちゃんの事ですか?」

「ええ。真白をずっと見てました。でももう、心配いらない。真白には、愛が付いている。そして」

 春菜は、真市を指さした。


「次は、あなたです! 」


 お前は名探偵か、と真市は心の中で思った。

 同時に、この人は他人の事ばかり気にするんだな、とも感じた。

「世話好き、なんですね」

 そうです、と春菜は誇らしげに言った。

「わたしには弟が二人。妹が一人。隣に住んでいた男の子も、わたしにとっては弟みたいなものでし

た。あと、犬を三匹飼っていて、そして両親は共働き。昔から、他人の面倒ばかり見ていたんです」

「それは、大変でしたね」

「そうでもないですよ。楽しかったし。さて、浅城さん」

「なんでしょう」

「わたしが身の上話をしたのだから、浅城さんもお願いしますよ」


 断っても、しつこく聞いて来るんだろう。

 そう思って、真市は話を始めた。


「、兄がいました。兄は僕と違って、勉強も運動も得意で、将来は音楽家になると言っていました。

実際、今では作曲家として活躍しています。それに比べて、僕はだめでした。落ちこぼれだったんで

す。それでも、高校の頃、考古学に興味を持ち、発掘調査隊に加わりました。その発掘調査隊で、綾

子さんに出会ったんです」


 真市は、笑顔になっていた。

 自分でも、その事に気付いていない様に見える。


「それまでの僕は、自分が嫌いでした。兄と比較され、比較されるまでもなく無能で、どうしようも

ない人間でした。今でもそうです。ですが、綾子さんは僕を見てくれた。僕を認めてくれた。救って

くれたんです。僕にとって、綾子さんは女神様でした。彼女と居る限り、僕は輝ける気がしました」


 真市は、幸せそうな顔で喋っていた。

 幸福だった日々に、この瞬間、もう一度戻っているようだ。

 真市は、綾子と言う女性が本当に好きなんだな。春菜はそう感じた。


「しかし……」


 真市は、一転して暗い表情になった。

 無理もない。現実には、綾子と言う人物はもういないのだ。

 春菜は知っていた。発掘中の事故で、綾子は死んだと。


 聞いても、良いのだろうか。

 辛い過去を話させて、蒸し返して、真市を苦しめる事になるのでは。そういう風にも考えた。

 だが、真市は最初に、話す事を拒まなかった。それは、真市も心のどこかで、それを話したいと思っ

ているからじゃ無いのか。

 自身に出来る事は、それを受け止める事だけ。春菜は、全身全霊を持って、真市の話をただ聞いて

やろうと思った。


「綾子さんは……。あの時、発掘現場で岩が落ちて来た時、その下にいたのは僕でした。僕は、間に

合わなくなるまで、その岩に気付かなかった。でも僕は助かった。綾子さんが、僕の代わりになった

からです」

 真市は、涙は流さなかった。

 真市は、涙も枯れたような目で、この世のどん底に居るような表情をしていた。

「僕は、綾子さんを死なせてしまった。僕の無能さが、綾子さんを殺した。僕の一番大切な人を。そ

の時、僕は自分の事を今までで一番、嫌いになりました。僕はその日から酒びたりになった。何もか

もから逃げ出したかった。厳人を兄に預けて、僕はただただ酒と仕事にのめり込む様になりました。

皮肉なもので、その結果出世し、今の地位に居るんです」


「浅城さん、知っていますか?厳人君には好きな人がいるんですよ」

「? ああ、美穂ちゃんですか?」

 真市は、なぜ今春菜がその話を持ち出したのかは、分からなかった。

 春菜も、ただ何となくそう言ってみただけかもしれない。

 

「話を聞いて、何となく思った事があります。言ってもいいですか?」

「どうぞ」

「浅城さんはやっぱり、厳人君に似てますね」


「そんな事はないです」

 真市は、立ち上がると、出口の方へ歩き出した。

「あれ、どちらへ」

「ちょっと、コーヒーを買いに」

「またですか。よく飲みますよね」

 真市は既に缶コーヒーを三缶は空にしていた。

「酒はやめて、代わりにカフェインに依存しているんですよ」


 真市は扉を開けて、そして振り返らずに言った。

「話を聞いてくれて、ありがとうございました」


 真市は出て行った。



 通路横の自動販売機に硬貨を入れ、真市は出てきた缶を手に取った。


 そのまま休憩室へ戻ろうと思った。その時、通路の向こうから、東条茂が歩いてきた。

「あ、浅城さん」

「東条さん。お疲れ様です」

「ちょうど良かった。なんか隊長が話したい事があるって言うんですが」

「え、定期報告ならこの間しましたよね」

「いそれとは違う事みたいで。休憩中すいませんが、手塚さんも呼んで来てもらえませんか」


 隊長は、ここにはいない。

 どこか遠くから、監視カメラとマイクを使ってこちらに指示を出してくる。

 日本社会の陰の権力者の一人らしい。佐野翔をスパイとして送り込んできたのも、隊長の属する謎

の組織だった。


 浅城厳人、手塚春菜、東条茂。三人は、研究室に集まり、通信機のスイッチを押した。

 隊長の声が聞こえてくる。


『やあ。副長。浅城。東条。』

 隊長のあいさつに、副長の春菜が答える。

「どうも。それで、どのような要件ですか?」

『ああ。私の、と言うより、私達の意思を伝えるために、時間を取らせてもらった』


 3人は、珍しい事だな、と思った。

 隊長はいつも、殆んど必要最低限の事しか伝達しない。現場は春菜達に放任していた。

 その隊長が、今になって何の意見を言うというのか。


『もうそろそろ、良いだろう。防衛から、攻撃にシフトしていく頃だ』


 春菜達には、隊長が何を言っているのか分からない。


『分からないか? 5体ものモンスターが、味方として揃ったのだ。我々人類も、攻めて来る敵に倣

い、逆に攻めるべきなのだ』

「なぜそんな事を?」

『彼らも、その必要があるから攻めてくるはず。敵の存在核を手に入れた時、より強固な守りが実現

する。そうだろう?』


 春菜も真一も、難しい顔をした。賛同する事が出来ない。

 真市が先に、反論する。

「我々以上の科学を持ち、我々の様にモンスターと契約していた古代人も、滅んだんですよ。可能な

限り、守りに徹するべきじゃないですか?」

 敵地に攻めると言う事は、その守りを減らしてしまう事になる。

『だが、攻める事は、やらなければならない事だろう。その証拠に、何体ものモンスターが攻めて来

たじゃないか』


「わたしは、それも違うと思います」

 今度は春菜が意見する。

「なぜ、モンスターは一体ずつで、大群による攻撃をしないと思いますか?」


 鳥と、虎のモンスターは二体で攻めてきた。

 しかし、モンスターは本来、一種につき何万体もの個体が存在する。他の種族を攻めるのに、たっ

たの二体では確実な勝利は期待できないだろう。


「存在核を手に入れて、パワーアップするのは一体だけです。モンスターは、何か個人的な事情で攻

撃して来るだけじゃないんですか?」

『個人的だと? これは戦争なんだろ?』

「わたしも戦争だと思っていました。愛が、戦争だと言ってたから。でも、例え話として戦争という

表現を言ったに過ぎない。弱い人類にとっては戦争と同じ、という意味で。これは防衛であり、警備

なんですよ」


「だが俺は、攻めるべきだと思う」

 茂が口を開いた。

「ずっと守っているだけなんて永遠には続かないっすよ」

「それでも、それを確実に長引かせていくべきだと、わたしは思う」


『ええい、思うとか思わないとか! 理屈を言うな、これは命令なんだよ』

「わたしは、副隊長として、命令に従えません」

『なんだと、部下のくせに』

「わたし達にこの仕事を任せたのは、あなた達が周りの理解を得られなかったからでしょう。少なく

とも、実際にモンスターが現れるまでは」

『そうだ。それがどうした』

「権力を守るために、民間にそれを負わせたのなら、最後まで任せて欲しいものですね」

『……逆らう気か』

「研究所の責任者はわたしです。こっちには契約者がいますし」

『だが、そのうちの一人は、私の側の者だという事を忘れるなよ』


 隊長は、通信を切った。



 その日の夜中。

 

 寮の部屋。厳人と翔は、眠っていた。

 翔は2段ベッドの下段で寝ている。


 不意に、翔の枕もとの携帯電話がバイブ音を発した。

 それは上段に居る厳人の眠りは妨げない程度の音量だったが、翔は目が覚めた。

 昼間から昼寝ばかりしている翔は、真夜中だろうとすぐに目覚める事が出来る。


 翔は携帯電話を開き、通話ボタンを押した。

 電話をかけて来たのは、隊長。翔の直属の上司でもある。


『夜分にすまないな。新しい任務だ。ドッグを動かして、研究所を占拠しろ』


「……お断り、します」


 隊長は驚いた。

 翔は組織の命令に逆らった事は一度も無い。翔だけじゃなく、10人の子供達は皆そうだ。

 幼い頃から教育を施してきた。組織に忠誠を誓い、そのためだけに動く事を徹底して刷り込んだ。

『どういう、つもりだ、翔。我々を裏切るつもりか』

 数秒、沈黙が続いたが、翔は話を始めた。


「……『鳳凰会』が、ぼくの全てでした。でも今は、違う。ぼくの主は、今はあなたではない」


 隊長は、またしても驚いた。

 翔が、「はい」「いいえ」以外の言葉を、自分の意思でこんなに喋った事は無かった。

 隊長には理解できなかった。なぜ、翔が命令に背くようになったのか。

 隊長は鳳凰会のメンバーだった。

 鳳凰会は日本を陰から支配する財団で、隊長はトップの内の一人だった。

 鳳凰会のメンバーは世襲制で、隊長も親から資格を受け継いだ。幼い時からエリートの教育を施さ

れ、名門両家ばかりが通う学校で学んだ。そして、大衆を見下し、彼らを軽視するようになった。

 通常の学校や、社会生活の中に出た事が無い。だから分からなかった。翔を永遠にコントロールで

きると思っていた。だが現実には違った。

 他人との触れ合いの中で人の心が変わっていく事など、小説や映画の中の、ただのフィクションだ

と思っていたのだ。


『恩知らずめ、育ててやったのに』

「ぼくは、人形じゃなくて、人間です。裏切りだって、しますよ」


 翔は携帯の通話を切った。


 翔は、はっと気付いた。ちょっと大きな声を出し過ぎていなかったか、と。

 厳人の眠りを妨げたかもしれない。翔は、厳人の方へ耳を向けた。


 起きてはいないようだ。

 厳人の、寝言のような音が聞こえる。

 うめき声のようで、苦しそうな声だ。うなされているのか。

 眠っている事は確実だ。だけれど、心配になったので、翔は二段ベッドの梯子を上った。


 厳人は、少し汗をかいている。

 うめき声のような寝言が続いている。苦しそうな表情で、頻繁に頭が左右に揺れている。

 翔は、起こした方が良いんじゃないかと思い、厳人を揺さぶった。


「ん……あ」

 厳人は、目を覚ました。

 視界に、翔の、心配そうな表情が映る。

「……翔……?」

「うなされてたから、つい起しちゃった」

 厳人は上半身だけ起き上がって、頭を押さえた。

「頭、痛いの?」

「いや、そう言う訳じゃない。なんか嫌な夢を見ただけだ」

「どんな?」

「いや……なんだっけ、忘れたけど」

 翔は、厳人の額に手を被せた。

 そしてその手で、自分の額も触ってみる。

「熱は、なさそう」

「別に、風邪じゃないから」

「大丈夫? 怖いなら、一緒に寝てあげよっか?」

「いいよ、子供じゃあるまいし。でもまあ、ありがとな」


 翔は再び下段のベッドに戻り、二人は朝まで眠った。



 そして次の日になって、また何時もの様に学校へ行く。


 休み時間になり、また厳人は美穂に勉強を教えてもらっていた。

 だが、厳人はぼうっとして、美穂の話をいつの間にか、聞いていなかった。

 先日まで、悩んでいた時と同じだ。

「厳ちゃん、悩み、無くなったんじゃ無かったの? まだなにかあるの?」

「いや……その」


「やっぱり、あの夢の事?」

 後ろの席にいた翔が、話に割り込んできた。


 美穂はその話を知らないので、キョトンとして、聞く。

「何の話?」

「厳人は、夜中にうなされてた」

「なになに、どんな夢見たの」

「覚えてないって言ってた」

「本当? 厳ちゃん」

 美穂も心配そうに厳人を見つめる。

「うん。覚えてない。覚えてないんだけど……」


 夢を見て、翔に起こされ、もう一度寝たらもうその夢は見なかった。

 しかし、何故うなされる夢を見たのか。何か、不安があるのか。怖い事とか。

 それを、朝起きてから今日考えていた。そして、何となく、不安の尻尾を掴んだ気がしていた。


「おい!」

 厳人は、前の方の席で楽しそうに話をしている、真白と愛に手招きした。

 二人は、何だろう、と言いたげな顔をして、厳人の席にやってくる。


 厳人は4人を前にして、言った。

「皆に、話したい事があるんだ。だから、放課後ちょっと、集まってくれないか」

「どこに?」

「研究所に」



 そして放課後になり、厳人達5人は研究所、作戦会議室に集まった。

 真市と、春菜と、茂も呼んだ。大人達は、何の用事があるのか不思議に思いながらも集まった。


「皆に、出会えてよかったとおれは思っている」

 突然の厳人の言葉に、全員が戸惑った。


「契約者になって、人々の為に戦える。友達も仲間も、いろいろと、出来た。本当に、良かった。」

 だがしかし、厳人は不安になっていた。

 美穂のおかげで、最大の悩みも消えた。厳人は今、今までで一番幸せだ。

 今までこんなに幸せだった事など無かったから、幸せすぎて怖いのかもしれない。だから、こんな

事を思ってしまうのかもしれない。


「本当にこのままで良いのか。おれは自分の事を好きになれた。初めて、自尊心を持てた気がする。

でも、そのために彼らは死んでいったんだ!」

 厳人は、モンスターを殺した。

 戦いの中で、確かに厳人は、仲間たちと共に、命のあるものを消していった。

「人類を守るためにした事でしょう」

 春菜が割り込んできた。

 向こうが、こちらを滅ぼすためにやってきた。生存するために、仕方なく戦ったまでだ、と。

 しかし、厳人の考えは違っていた。

「皆はそうかもしれない。でも、おれはそうじゃ無かった。初めから、無能じゃない存在になりたく

て、自分の為だけに彼らを殺してきた。命には関わらない、この程度の理由で」


「契約者を、辞めたいのか?」

 今度は真市が聞いた。

「違う。そうじゃなくて、おれがこの話をしたのは、皆にも協力して欲しいからだ。どうすればいい

のか分からない。せめて、供養でもすればいいのか。このままじゃ、おれには耐えられないんだ」


「厳人君は、すごいね」


 真白は、感心していた。

「私は、そんな事思いもしないで戦った。優しいのね、厳人君は」


 いつもの厳人なら、照れて横を向いてしまうが、今は違う。

 ただ、悲しそうに俯くだけだ。

 残念ながら、この気持ちは、優しさとは違うものだ。厳人はそれを何となく理解していた。


 真白は厳人の表情を不思議に思いつつも、続ける。

「私も、愛ちゃんに出会えた。私も幸せになってる。愛ちゃんもそうでしょ?」

 愛は、頷いた。

「わたしは、戦いが好きだった。だから、厳人の気持ちはあんまり理解できないけど、でもわたしも

真白に出会えた。」

「ぼくも」

 今度は翔が前に出る。

「美穂さんと、厳人に会えた」

「そうね」

 美穂もそれに続く。

「あたしも。彼らを殺して、その結果幸せになったなんて、悲しいもんね」


 皆は、納得してくれたようだ。

 だが厳人は、皆の気持ちと自分の気持ちに何か、決して小さくは無い、ずれが有るように感じた。


 とにかく、8人はモンスターの死んだ場所へ行く事にした。



 まずは、最初に現れた、鳥のモンスターが死んだ場所へ、ワープポイントを使って移動した。


 その場所は、既に工事され、破壊された建物や道路はもう無かった。

 より丈夫になるように、外見がただの建物じゃ無くなっている部分もある。しかし、その場所で巨

大な生き物が死んでいたという痕跡は、どこにも無かった。


 厳人は、下を向いて、目を閉じた。

 何となく自然に、両手を合わせ、握りしめた。

 他の7人も、それぞれが祈るような格好をして、黙とうした。


 厳人は、魂が震えるような気がした。

 それは、罪悪感だと最初は思った。

 しかし、罪の意識とは違うような、似ているような感じがしていた。

 その正体を、厳人は何となく分かっていて、でもまだ言葉には出来なかった。


 地面が、微かに揺れた。


 全員、それに気付いて、身構えた。


 数秒後、異変が起こった。


 厳人達よりも100メートルほど離れた、コンクリートの地面が割れた。

 そして、割れ目から、真っ黒なガスが噴き出した。


 毒ガスか。そう思って皆、ワープポイントへ走りだそうとしたが、その必要は無かった。


 黒いガスは、まるで命を持っているかのように、一塊りになり、空へと飛んで行った。

 そして、見えなくなった。


 春菜は、そのガスについて愛に聞いてみた。

 しかし、愛も知らないという。

 付近にそのガスは、もう残ってはいなかった。


 8人は次の場所へと移動し、そこでも黙とうをした。

 また、ガスが現れ、消えた。

 正体が分からない。しかし、メンバー全員が、有害な物では無いという事を直感で理解していた。


 それが魂と言う物なのか、あるいは呪や、感情の塊なのか、それは分からなかった。


 そして、蟹のモンスターが死んだ場所も巡り、全ての殺害現場を回り終えた。

 辺りはすっかり、真っ暗になっていた。



 皆、静かな気持ちで、一言も話さなかった。

 今日の行動の意味を、全員が何らかの形で考えていた。


 静寂を破ったのは、春菜だった。

「厳人君」

 春菜は厳人の前に立つ。

「わたしの、考えを聞いてもらえる?」


「どうぞ」


 春菜は、あくまでも全員に聞こえるように、話し始めた。

「わたしは、いろいろ考えていた。何故モンスターは一人ずつしかやって来ないのか。これは本当に

戦争なのか、とかね」

 それは隊長にした話と一緒だった。

 だが隊長には詳しく話さなかった、推測の中身は。


「彼らは、その種族の社会の、はみ出し者とか、『落ちこぼれ』だったんじゃないか」


 厳人は、その言葉に、鋭い衝撃を受けた。

 厳人が何となく感じていた何かを、春菜のその言葉が深くえぐり取ったからだ。


「何らかの理由で、社会に馴染めなくて。そんな人達って、得てして特別な存在になろうとするじゃ

ない。彼らもなろうとした。存在核を手に入れる事で」

 厳人が、契約者になったように。

 彼らも、居場所が欲しかったのか。特別な、誰からも必要とされる力を手に入れる事で。


「厳人君。わたしの言ってる事は、ただの推測で、想像よ。だけど、もしこれが正しいとしたら。厳

人君が事あるごとに言ってた事。もしかして、厳人君は」


「手塚さん」


 厳人は、春菜の話をさえぎった。

「ありがとうございます。自分の、気持ちの意味が、ようやく分かりました。だから、今度は俺の話

を聞いてください。」


 厳人は、全員に向かった。


「春菜さんの言う通りだった。おれはきっと、死んでいったモンスター達が、自分と同じだって気付

いたんだ。だから、こんな気持ちになった」

 今までは、決して気付かなかった。だが、厳人は幸せを手に入れた。欲しがっていた物がようやく

手に入り、ふと後ろを振り返った。そして気付いた。


「おれは自分の、兄弟を殺して、その死体の上で幸せだと叫んでいる」

 そんな錯覚さえ覚えた。


「おれも、特別な人間になりたかった。無能で、居場所が無いって感じていたから。そのために、契

約者になった。そして、彼らも同じだったんだ」

 その感情の、名前が何なのか、まだ厳人には分からない。

 後悔か。ただの、罪の意識なのか。


「彼らは、もう一人の、おれだった」


「それで、厳ちゃんはこれから、どうするの?」

 美穂が、心配そうに厳人を見つめてくる。


 厳人は、薄汚れたような眼をしていた。

 自分が汚れている事を知ってしまった。その事に、厳人は絶望していた。


 しかし、そうは言っても、話しはそこまでだ。厳人はまだ、死にたくない。


「死なないよ。もちろん。言い訳をするなら、彼らの死を、無駄にしないためにも、生きるべきだ。

しらじらしく聞こえるかもしれないけど」


 無論、厳人も本気でそう思っている訳ではない。

 罪を償う方法がただ一つしかない事を厳人は分かっている。

 どんなに理屈を並べても、それらはただの、卑怯な逃げでしかない。

 それでも、厳人は生きる事を選びたいと思った。

 汚れても、他者を犠牲にしても、幸せな気持ちを守りたい。そう思っていた。



 そして、厳人の戦いは続いた。



 真昼の空の下、モンスターが並んでいる。

 ドラゴン。パワード。カメレオン。ドッグ。シーサーペント。


 彼らの目の前に、巨大なロボットがいる。

 モンスターの10倍の身長を持つ、あまりにも大きな機械。

 金属製の体に、巨大な腕と脚、大砲を持つ。


 あらゆる方法で交信を試みたが、コミュニケーションは成功しなかった。


 ロボットは、大砲からビームを発射した。

 津波の様に大きなビームが、5体のモンスターを直撃した。


 だが、モンスター達は全くダメージを受けなかった。

 周りの建物が、押し流されただけだ。

 モンスターが反撃した。

 カメレオン以外の4体が、それぞれの技を放った。

 炎や光線が、ロボットの体を貫いた。

 しかし、ロボットは、動き続け、体中から誘導弾を撃ちまくった。


 機械の力ではモンスターには敵わない。ロボットではモンスターを倒せない。

 しかし、ロボットの方も、心臓部を壊されない限り、動きを止める事は無い。

 早くロボットを倒さなければ、都市が甚大な被害を受けるだろう。


 モンスター達は、行く。


『厳ちゃん』


 無線通信で、声が聞こえた。

『本当に、大丈夫?』


『うん。大丈夫』


 そう、返事を返した。

 厳人は、自分に言い聞かせた。

 厳人には、美穂がいる。翔がいる。皆が居る。

 戦える。戦うしかない。


 ドラゴンとシーサーペントが、空を飛んだ。

 どっしりと構えるパワードの横を通って、ドッグとカメレオンは走った。


 カメレオンは姿を消し、敵に切りかかって行った。



終わり

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。もしよろしければ、感想などお書きになっていただけると有り難いです。

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