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蒼風のヘルモーズ  作者:
『ソルフーレン』編〈1〉
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第9話 ウオウオとの因縁〈1〉

「ぅ、わぁ………………」


 フリューの地に足を踏み入れた僕の目をまず引いたのは、ソルフーレンの首都が魅せてくれる優美にして勇壮にして至極壮観な街並み——などではなく、郊外の町村とは比べ物にならないほどに幅広な作りをしている道路であるにも関わらず、それを容易に埋め尽くしてしまうほどの溌剌な活気に満ち溢れている『人混み』であった。


 聞こえる「ガヤガヤ」という近距離から太鼓を叩いているかのような大きすぎる喧騒が、驚愕によって心身を硬直させてしまっている僕の鼓膜を強強しく叩き、それに続いて何処からか漂ってくる直火焼きだろう香ばしい料理の香りが僕の鼻腔を突き、スカスカになっている胃袋に立腹中である腹虫が『ぐぅ〜』っと鳴き出してしまう。


 そんな空腹感を摩ることで一旦は誤魔化した僕が『いざ!』という意気込みを持って人混みの中へと混ざりて踏み行くは、混雑極まれりな『フリュー東区』の大通り。


 今まで立ち寄ってきた田舎と言っていい宿町村では見ることがなかった『人が作り出している波』に心躍らせながら、道行く人々に打つからないよう進んでいく僕は人ひとり分しかない道を歩きながら初めてきた首都の景観を思うがままに眺める。


「村とは比べ物にならないくらい背が高いなぁ」


 フリューに入ってすぐに見られる、ほぼ全ての建物は三階建て以上のビル的な造りになっており、ここに来るまでの中継として利用させてもらった各地の建築物と比べても、ここの建物は軒並み背が高くて、非常に堅牢そうであった。

 

 まさに上等である壮観な建物の造りを目に見える建築物全てが規則正しく揃えているとなると、都市管理をしているフリュー側が何らかの規定を施主に設けているのだろう。したらば一軒を建てるのに相当なコストが掛かってしまうだろうし、発注を受けた施工者は肉体的に、建築依頼を出した発注者は懐的に大変だったに違いないな。


 そういう何様の目線なんだよという太々しい思いと共に、当の経済的負担を和らげるための施策として、一階を商店のテナント、二階を居住用賃貸にし、それらで得られる多額の賃料で掛かったコストを回収しているんだろう——と、激しい喧騒に目尻を歪め、そして人混みに流されながら見上げられる目視にて確認した僕は、さすが風の都、ソルフーレンの政治経済の中心だけはあるなと、勝手に納得して頷いた。 

 

 そんなこんなで『ほげ〜』と、フリューの内で広がり尽くしている景観に感心しているのか、はたまた圧倒されて放心しているのか分からない、おそらく『何も考えていない』と思われる、口が開きっぱなしの呆けた面持ちをしながら道を遅めに歩んでいく僕は、無意識に風で漂ってくる焼き料理の香りに引き寄せられるように、通行人が数瞬の間だけ生み出す『空白』に身を捩じ込ませては腹の虫に操られるがままに大通りを左方へ逸れ、ズラリと軒を連ねた屋台が存在する脇道へと抜け出てしまった。


 ふらふらと入ってしまった周りを囲っている高層の建築物のせいで日当たりがすこぶる悪い脇道——路地裏には料理をその場で作って売っている屋台や曰く付きにしか見えない謎の骨董品、さらに手作りだろう装飾品を売っている幾つもの露店が規則性皆無に立ち並んでおり、そこは人が少なくて自由に散策できるほどの余裕があった。

 

 これくらい人通りが少ない路地裏ならば、大通りで起こっている『大渋滞』に巻き込まれて流されることなく、マイペースに食事を購入し、味を堪能できるはずだな。 

 爺ちゃんから預かっている信書を渡さなくてはならない、フリューの何処かにいる『モルフォンスさん』を探すという最重要使命は一旦、あっちに置いておいて……。 


 今から消耗している活力を得るための腹拵えをしよう。そうじゃなきゃ広大過ぎるフリューの内を出鱈目に歩き回るなんて出来っこない。うん、そうに違いないよな。


「——よっしゃ!」念願だった都会での買い食いだあ!!


 僕は自分の思いを信じ——猪突猛進に全信することによって暴走を止めるための最後の枷を外し、漂ってくる香ばしい匂いに引き寄せられるがままに近づいていった。


 食材を焼いている匂いと視界を阻むほどの白煙を遠慮なく辺りに流していた屋台のもとへと歩み寄った僕は、その屋台で作り売られている商品が『焼き魚』であるということが横目の視線で分かったため、今は魚肉じゃなくて牛とか豚とか鶏とか、家畜の肉を焼いた料理が食べたいんだよなぁ……と無視して横切ろうとした、その時。

 

 横目で見ても何料理か謎であった焼き魚を出している屋台の店主から、


「兄ちゃん、いらっしゃいッ!! ハイヨォ! ウオー! アイ!」という声を強引に掛けられてしまい、梃子を使ってでも僕に商品を買わせようとしている店主が披露する眼力の迫に負けたように、通り過ぎたその屋台の前へと戻ってしまうのだった。


「安いよ安いよ! 見てって、兄ちゃん!! アイッ! ウオッ!」


「う、うお……? は、はあ…………?」

 

 ピチャピチャという音がしそうな汗濡れの捻り鉢巻を額に巻いた、袖を捲っているせいでタンクトップみたいになっている汗透け状態の白ワイシャツを着用する屋台店主のおじさんの熱烈な売り込みをされてしまった僕は『見てってよ!』という熱声に促されるまま香ばしい匂いを周囲に発散している『謎の魚料理』を真正面から見た。


 見たっちゃ見たのだが……その正体は結局のところ不明だ。

 

 これは一体なんなんだ? こんがりと皮側を焼いた魚の開きに、さらに同じように焼かれた同種の魚が挟んである。焼き魚を同じ焼き魚で挟む料理? そこは板パンとかを使っての『フィッシュサンド』じゃないのか、普通は。これじゃあ魚魚だぞ。

 これはこれで『フィッシュサンド』には違いないとは思うけどさ、普通であれば主菜だろう焼き魚を無理やり主食に置き換えた焼き魚で挟むのは、あまりにも強引というか、あまりにも尖っているというか、独創的というか、珍料理が過ぎるというか。


 この料理は一体全体、どういう考えで作られた物なんだよ。

 

「あの、これは、えっと…………なんですか、これ?」


「ふふふ……これはフリューの名物『ウオウオウンマ』だ」


「…………………………は?」 


「ちょいちょい、疑ったような沈黙がなかったか、今? 疑うところなんざ一つもねえ。事実、名物だからよォ!」


「……………………」


 ウオウオウンマ…………って、恐れ知らずに『名物』を自称している謎料理の名前は間違いなくダジャレの類だよな。しかも飲んだくれているような親父がする親父ギャクだったぞ。もしかしてもしかしなくとも、この魚魚は今も正々堂々と胸を張っている店主のおじさんの創作料理なんだろうけど、でもおじさんは『ウオ以下略はフリューの名物だ』って燃えたぎった真っ直ぐ過ぎる眼差しでほざいていたしな……。


 フリュー初日である僕が単純に知らないだけというのは甚だ思てしまうのが正直なところだが、おじさんが誇大誇張している臭いがプンプンと漂ってくるんだよなぁ。

 だって『フリュー名物ぅ!』って言っているくせに、売っている屋台がある場所がこんな人気の少ない路地裏ってさ……どう? どう考えたって胡散臭すぎるでしょ。


「うーん………………」


 おじさんのことを怪しみまくる僕が目前のウオウオについて腕を組みながら考えていると、当のおじさんは素知らぬ顔でテキパキと、焼き立てのウオウオウンマを油紙に包み込み、そしてそれを考えに耽っている僕に手渡してきた。


「はい、八十ルーレンね」


「へ? ええっ!? え、いや、頼んでないですよ!」


「んあ? でももう作っちまったからなぁ。ほらほら!」


「えぇ…………八十ルーレンって適正価格ですよね?」

 

 八十ルーレンって最初の宿屋の宿泊料とピッタリ同じ額なんだが。それが一食分の食費ってさぁ……まさかとは思うけど『ぼったくって』ないよな、このおじさん。

 地方の宿町村での食費は高くても『六十ルーレン』とかそこらだったぞ? 一泊七十ルーレンで簡素だったが朝食付きのところもあったし、大都会のフリューであることを加味したとしても、おじさんの言っていることの信憑性が乏し過ぎるんだよな。


「あ、ああっ、当たり前だろうがよいっっ!? ウオいが嘘言ってるってぇ!?」


 汗を散らすような反応されても、図星を当てちゃったみたいにしか思えないって。屋台に値札も掲げられてないし、絶対に人を見て値段決めてるだろ、このおじさん。

 

 でももう作っちゃってるみたいだし、僕もお腹が減っちゃってるし、実のところ気になっちゃってるしで、ここは取り敢えず買って食べて調べてみるか。自称フリュー名物、どこからどう見ても『迷物』の類だろう『ウオウオウンマ』の味とやらをな。


「………………怪しいけど、はい。八十ルーレン」


「えいぃ、毎度ぉ!! おおきになあ!!」


 ルーレン銅貨一枚を、お金が好きと一目で分かる満面の笑みを浮かべながら差し伸べてきているおじさんの汗光りの手に握らせた僕はお釣りである十ルーレン紙幣二枚を渋々という表情で受け取って、あまりにも強引すぎた買い物の支払いを済ませた。


 歳若き女性なら『半額程度』で売っていそうな、女性客に鼻の下を伸ばしている場面が容易に想像できてしまうおじさんの様子を見ると、八十ルーレンって強気な価格は結構な割高のような気がしてしまうのだが……これは、値段に見合うくらいに美味しいんだよな? フリューの名物を騙ってるくらいなんだから味は良いんだよな? 

 

 そんな訝しむ思いを胸中で強強しくバウンドさせながらも僕は支払いを終えた後に手渡された焼き魚魚挟み——ウオウオ以下略を見る。

 

 赤光の黒炭でじっくりと焼かれているおがげで、今まで見たことがない『毒々しい紫の魚皮』をパリパリにしている、赤身でも白身でもない謎の青身魚には、色々な香辛料が過剰なのではと思えるくらいに振り掛けられていて、匂いと見た目、そして僕の味の好みを多分に含めての判断をするとなると『普通に美味しそう』であった。

 

 塩や胡椒に唐辛子、マカマカ臭木の花から取れる種子を粉状になるまで磨り潰した『マカジ』という、子供が嫌うピーマン以上の苦味がある香辛料、南方大陸の東部にある『ララバ』という国が原産で、たまーに行商が卸したやつを売ってくれる『ショクコク』って、胡椒のパンチを最大限にしたような使い道が全くない調味料、それらを程よく使って作られた、スパイスがまあまあ過剰なくらいに効いている味の方が僕は好みであるから、もしかしてだけど、ウオウオは意外とイケちゃうかもしれない。


 …………というか、ウオウオウンマなる料理の主材になっている『紫の魚皮』をした魚なんだが、この魚って食べても良いやつなのか? 顔はアンコウに似ているけど、目玉が飛び出さんばかりに出ているってことは、これ深海魚ってやつだよな?


 故郷から真東に離れたところにある小さい『漁村』の水揚げ祭に後学を得るという理由で参加させてもらったことがあるから、その時に多種多様な魚の実物を僕は見たことあるんだけど、こんな奇抜な青色の身に紫色の皮をした魚なんて見なかったぞ。

 

 カカさん家で読んだ生物図鑑にもこんな魚なんて載っていなかった気がするし、まさかとは思うけど『毒』なんかないよな? 

 

 …………ええい! 怖いけど、もう八十ルーレンって大枚を叩いて買ってしまったんだ。今さら怖気付いたから食べるの辞めます、なんて食べ物を粗末にするようなことを言えるわけがない。いけ、ソラ・ヒュウル! 毒まで喰え、ソラ・ヒュウル!


「い————いただきます……はぁムッ……むぅん、んん…………」


 食す意を決心した僕は毒々しい見た目をしているウオウオウンマを、今までの人生で一度も見たことがない謎に満ち満ちている『青身紫皮の魚』を豪快に頬張った。

 しっかりと焼かれているのに意外と柔らかい魚肉を噛んだ瞬間にズアーッと広がるのは、過剰に掛かっているスパイスなのか、この名称不明の青身魚特有のものなのかは一向に判断が付かないものの、非常に独特な『生臭くはない良い香り』であった。

 

「んんっ…………美味しい!!」 


「へへっ、当たり前でい!!」


 魚が実らす青身を噛めば噛むほどに、少し力を込めれば簡単に割れてしまう皮を舌の上で踊らせる毎に、魚と、過剰なのではと思えていたがしかし、丁度いいと感嘆してしまえるほどの多種多様なスパイスの加減が最高に美味い!


「んん…………ゴクッ」


 美味に舌鼓を打っていた僕は、その耽りを邪魔するように口内に突き刺さってくる魚の小骨を何度も口から出しては手の皿に置く。魚に二匹分なんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、さすがに無防備な口の中を攻撃してくる小骨が多すぎるな。


 たった一口頬張るごとに、まるで『意思』を持っているような小骨の大軍が口腔内に攻撃を仕掛けてくるせいで、普通に食べづらいぞ。味は最高に良いんだけど、骨がなぁ。骨が無ければ百点満点の一品だったと声を大にして言える『逸品』だったな。


「うん。美味しかったです、ご馳走様でした」


「おお、兄ちゃん良い食べっぷりっ! じゃあもう一つ」


「へ?」


 購入させられたウオウオウンマなる珍料理を食べ終えた僕は、屋台の脇の方にあったゴミ箱に料理を包んでいた油紙を捨てる。すると、謎に不穏な言葉を吐き出したおじさんは、僕が間の抜けた声を発するのも全く気に留めることなく、残像が見えるほどの速さで『次のウオウオ』を完成させようとしていた。


「はいはいはいはいィ!! 次が出来上がるヨォっ!! むちょっと待ってて——」


「ご、ご馳走様でしたーーーーっっっ!!」


 僕は商売根性極まれりなおじさんから、二度目となる押し売りをされてしまう前に、その場から一目散に逃走する。そうして猛速の逃亡を図った僕の背中に、


「待ってよ! お客さーーーんっ!!」


 という声が浴びせられ、続いて僕のことを追いかけてくるおじさんの気配を強く感じるも、汗を散らす僕は出鱈目に土地勘のないフリューを走り続けるのだった……。


「待ってって! おいコラ待でやゴラァア!! 買えええええええええッッッ!!」


「ひぃいいいーーーっっっ!? たっ、誰か助けてえええええええええっっっ!!」


 やっぱり胡散臭かった通りだよ! とんだゆすり屋じゃないかぁーーーっっっ!! 

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