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蒼風のヘルモーズ  作者:
『ハザマの国』編

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第45話 VS女王蜘蛛《終》

 敗北必至の負け戦。隔絶している力と力。勝率はなんと一対九。

 もちろん、ソラが一割の方。

 それに賭けられているのは命である故、金銭で例えるのはあまり適しているとは言えないが。死闘に臨んでいる二選手にオッズを付けたなら間違いなく、女王は一倍以下だろう。

 人気を女王に奪われ、天文学的高倍率をほしいままにしているソラの方に賭けるのは、万が一に人生をベットすることを憚らない気狂ったギャンブラーと、親しい人達くらいに違いない。

 いや、違うな。ソラと親しい人達であれば、即座に辞退して逃げろと言うだろう。

 何故ならみんな、そこまで血気盛んではないから。

 まあ、あの爺ちゃんなら「やれぇい、ソラァ!」なんて券を握りしめながら言いそうだが。


 ——閑話休題。

 

 僕は今、敗北と死を司っている『奈落』の淵にまで、その心身を追い詰められている。

 常人ならそのプレッシャーに耐え切れず、逃げるように足を踏み外してしまっているだろう。

 だけど、僕の足は確かに大地を踏み締めていた。

 その二足と二対の眼差しは、確かに『絶殺の喚声』を打ち上げた怪物——魔の蜘蛛の女王を意識し、微動だに揺れることなく捉えている。

 絶望の色に染まっていない、相手。

 そんな現実を目の当たりにし、女王の怒気が一層高まる。

 なぜ、何人にも『負けるのはお前だ』と口を揃えられるであろう僕が、希望の光を目に灯したまま、絶望の化身たるヤツに立ち向かうことができるのか。


 それは、死への恐怖や逃避的な錯乱を理由に今から目を逸らすことをせず、尻尾を巻いて踵を返すこともなく、確かに『尊ばしい未来に続いている勝利への道』を認めているからだった。

 穴はある。

 勝利へと続いている、針の穴よりも細く狭く、僕が通れるか危うそうな通り道が。

 活路は開かれている。

 敗北という判決を下されそうになっている現実を覆す、逆転の一路が。

 ここには居ない才女の一撃が開拓してみせた勝利への道筋は、確かに僕の目の前に。

 状況はサイアクの一言。だが、戦場周囲の環境はサイコウと絶賛できる。

 だから、やれる。僕は戦える。戦え。戦え。戦え——立ち向かえ!!


『————ッギギャヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 始まった。ヤツとの殺し合いが再び。

 枯れ果てている死花の花束を強引に押し付けあう戦いが今に。

 死ぬまで終わらない死闘が空の下にて。

 弱肉強食の摂理が。また、この一人と一体で。

 それに挑んでおいてこう言うのは信ぴょう性に欠けるかもだけど。

 僕は別に死にたいわけじゃない。

 爺ちゃんのように長く、そして出会ってきた仲の良い人達と共に己が人生を歩きたいと思う。

 死に急いでもいないし、自分の命を軽く見てもいない。どこまでも、フラットなのだ。


 富を築きたいわけでもない。

 名誉を得たいわけでもない。

 異性同性問わず気に入った人間を数多く侍らせたいわけでもなくて。

 トウキ君のように強くなりたいわけでもない。……んー、まあ、あの友人の力に憧れを持っていないのは、嘘になるかも。僕だってドカーンっと塞がれている道を爆砕してみたいけども。

 でも。でも、僕はただ。

 少なくても、小さくても、精一杯頑張って人助けをして、その人から感謝をもらえれば。

 日当たりがいい野原に寝転がって、蝶々と戯れながら眠りにつければ。

 愛する家族や、親しい友人達と共に。

 お世辞にも贅沢とは言えない料理が並べられた、いつもの食卓を囲んで笑い合えれば……。

 ——本当に、それだけでいいのに。


『ギャジャァア——ッッ!!』


 天が震えて、地が唸る。凪の水面が浅波を打つ。

 耳を劈く不細工な叫びは『号砲』の代わりなのだろう。

 真正面から戦闘開始を知らせるように放たれたのは、チェイス時の急ブレーキが原因で先端部分がへし折れてしまっている左の第一脚を用いての、既視感甚だしい剛脚鞭打であった。

 ピッケルのようだった脚先端の鋭利さは欠けて失われている故に、貫通的な殺傷能力という点は多分に落ちているものの、しかし怪物。

 正面から受けずとも、ほんのちょっとの物理的接触、言わば『撫でられた』だけで被撃した箇所がごっそりと持っていかれることが容易に想像できてしまう『超威力』に違いはなかった。 さらに、僕の鏡面剣が発揮できるものとは比べるべくもない、その長大な攻撃範囲。


 鏡面剣の刃渡りは七十五センチ。

 対して、女王の第一脚の長さは一様に二メートルを超えている。

 つまりは二倍強。

 それほどのリーチ差が彼我には存在していて、唇を噛まざるを得ない。 

 この鞭打の危険度は、僕的には二番位置。

 一番はもちろん口腔から撃たれる『弾岩』である。

 が、岩窟だった魔窟の外いる現時点では『弾』となる岩石の補充は難しくなっているだろうし、現状の最大警戒は『ヤツの脚での攻撃』であろう。


 生物兵器——よく言ったものだ。ヤツはまさに、その言葉に適した存在と言える。

 ただでさえ『反応速度とそれについて来れる瞬発力』が尋常じゃないってのに。

 計二つの反則級の武器まで持ち得ているなど、ヤツの巌のような剛体に対して『通用』し得る武器が限られているこちらからすれば、本当にたまったもんじゃなかった。

 できればそのまま死んでほしいくらいにウザったい。いや、死ね。


 故、ほぼ即死する攻撃の範囲から逃げるように、喚声を浴びた僕は後方へと全力で跳躍する。

 しかし、間に合わない。回避が。

 僕は超速的な瞬発を発揮したのだが、単純にヤツとの距離が『近すぎ』た。

 冷静に細められた双眼で今の状況を認め、事実を見定める。

 そうして算出され、得られた情報が、絶望を怪音を波及させる喇叭を吹き出そうとしていた。

 だが、僕はその喇叭を取り上げ、雑に踏み潰す。

 死角は潰し、不覚は疾うに殺して機能しない。頭の中は澄み切って、光景はスローに。

 数瞬後に胴体に直撃。上下で二つの僕を作り出そうとしている鞭打を、目は真に捉えている。

 ——全て、問題無し。


「————ズァアッッッ!!」

 

 迫る異端の大塊。それに乗るは豪速。威力把握と軌道の予測を開始。

 迎撃方法と自己生存を導き出すための無限回のトライアンドエラー。

 辿るは大右振りの一本道。それを踏破する『タイミング』の見極め。

 たったの一瞬。そんな空隙に捩じ込まれる己の思考と反応。総じて、至極完璧。

 人間がいるというアクシデントが起き、当初の計画は崩れてしまった。

 しかしそれでパニックに陥るなんてことはなく。

 剰え何事も無問題と言うように、即座に己が不定を律し、ゾーン状態へと突入した。


 内と外。頭と体。自分を形成している全てが超加速し、だが完全にシンクロしている。

 超速の体現者に置き去りにされて、とてもゆっくりになっている世界の中。

 右肩を急激に膨張させては全力で剣を振るい。ミシミシッと、味わわされた超威力により肩を嫌に鳴らしながらも、僕はすぐそこにあった『死』の回避——鞭打の打ち逸らしに成功した。

 戦場を燦々と照らしている太陽にも比肩できよう鮮烈な火花が、一人と一体の眼前で、散る。

 

「————グゥッ!?」


『————ギィイ!!』


 ギャイィィィン、と。ただ飾られるだけで、短かったり長かったりと千差万別な生涯を経て終わるガラスの工芸品。それが苛立ちのまま叩き割られた時よりも強烈で痛烈で猛烈な。

 言うならば偏頭痛ばりの痛みを催させるほどの非常に鋭い音が、両者の衝突により世に生まれ広がって、一里先の村にまでその産声を響かせる。

 死に際に出る絶叫よりも甚だしい音塊は、今に戦場を踏み荒らすだろう二つの強大な個の鼓膜を揺らした。その行為が命取りになることも知らないような笑顔で。

 今にも誕生祝福のロンドを踊ろうとする音塊を、邪魔だと言わんばかりに交差する天衝いた殺意をもって噛み殺したのは、互いに対してそれぞれの思いを抱いている、ソラと女王である。


 疑う余地もない超威力の鞭打。

 それよりは劣っているが、しかし高威力の斬撃。

 それらの正面衝突の余波で、噛み殺された音塊の代わりに、恐怖の叫び声を上げることができない周囲の木々が、僕達に対して心底恐れ慄いているような『ざわめき』を起こす。 

 だが、周囲の自然よりも衝撃を受けていたのは、真っ向から打つかりあった両者だった。

 根本から、決して相容れることがない一人と一体。その目はただ驚愕の色に染まっている。


 圧倒的な暴力。比肩するものなき強大。生まれながらの支配の魔物。

 驕り高ぶりを然るべきとするその覇剛。

 思うがままに死を振り翳す、まさに暴君と言うべき魔窟の主。蜘蛛の女王。

 それと相対するは。

 暴力を以て死を振り撒く敵の前。しかし微塵も恐れることなく。

 真っ向から真紅の眼光を散らす『真正の怪物』に不屈を見せつけているのは、女王以上のポテンシャルを内に秘めているものの、だが未だに羽化へと至れていない、真の神子、風の寵児。

 そんな一者と一体。

 彼らは一様に撃を交わし合い、互いが有している『互いの高すぎる力量』を再度認め合った。


「クソッタレ……ッ!」


 痛え。たったの一発でマメができるかと思えるくらいだ。右手の痺れが尋常じゃない。

 腕を体で敷いた状態で寝転がって、何も感じなくなった時みたいに、気を抜くと柄が抜ける。

 なんで上物の愛剣の刃と正面から『脚』で打つかったのに、切断されることもなく。

 剰え『火花』なんてものを散らすんだよ、何度でも言うがただの『脚先』が。

 テメエの体が金属かよクソが。どう見ても石だろ。ならその辺で落ちてろよ。

 糞で出来た泥の雨にでも打たれとけや。


 僕が繰り出した『逸らすための斬撃』を難なく弾いてみせた女王の脚先は、真珠のように美しくある、宝石のような光沢をしている黒色の何か——。

 おそらく、硬質な『爪』で覆われている。

 にしたって、金属と同等異常の強度なんざ馬鹿げている。

 僕の爪にそんな攻防力は無いぞ。その爪自前で生やしてんのかよ、テメエ。

 クソッタレが。逸らすことに心血を注いだと言っても、こっちは『全力』だったんだ。

 全身全霊渾身の斬撃だったんだ。なのに、それをちょっと驚いた程度で……!


 傷の一つも与えられなかった。

 そんな目も当てられない事実に忸怩たる思いを抱いて、僕は大きく舌を打つ。

 そして、ズザザ——ァ、と。

 初を打ち交わした際の衝撃のほとんどを背中へ流し、器用に後方への跳躍の後押してみせた僕は、女王から約二十メートル離れた地点に、地面を削りながら着地した。


『ギャギャギィ……ッ!』


 対し、片面を歪める僕と同じように『敵の強さ』に歯噛みをしていた女王は、口から分厚い樹皮をガリガリと削ったような音を出す。

 爪で引っ掻いた、と言うにはそのあまりにも音は大きく、奇怪で、おどろおどろしい。

 それは、個体として格段に劣っている僕が魅せた、こと『本番』に対する強さ。一度見ただけの攻撃を完璧に捌き切れる技量。圧倒的格上にも噛み付きに行ける超胆力。

 それらを『不覚』にも認めて出てしまった、この上ない不快的な表現である。

 女王は『まだ痺れている右脚』の状態に苛立っているように、片足を地面から離していた。

 攻と防。開戦と同時に発生した『暴』と『武』の激突。

 その結果はまったくの不変。つまりは膠着。

 しかし女王が繰り出せる鞭打の範囲から僕が脱出したことで、盤面は次のフェーズへと動く。


『ギジャァアァ————ァッッ!!』

 

 仕切り直し。一度駒は片されて、盤面は平らになった。

 どう動けば有利になるか。どう動けば相手は不利になるか。導く数瞬の思索。それを本能を以て『不要』と放棄し、機先を制すれば良しと言わんばかりの俊敏を見せたのは、絶怒の女王。


 ——などではなく。


 時の歩みが生む経験というものが十分に培われていない故、より強くある野生の本能を働かせた女王が、一目で丸分かりな予備動作に入り込んだその瞬間に。

 まさに『光』と呼べる速さで『自身が有利になる盤面』を導き出した『僕』が、タンッと軽快な音を奏でながら、先んじて動きを見せる。


『————』


 迫り来ようとしていた超暴威。そこに愛など微塵もないが、慈愛の抱擁で受け入れるなんて不可能なそれを認め、僕は飛ぶ。

 女王から離れすぎてしまうと、僕が『標的』から外されてしまう可能性があった。

 女王から距離を取ろうとして下がりすぎてしまえば、逃げている冒険者達とそれをわざと追おうとする女王との間にある折角の距離が殺されてしまう可能性があった。 

 だから、タンッ、と。

 何の躊躇もなく。僕は『真左』へと向かって、地面を蹴ったのだ。

 真左。つまり、戦場の横手に広がっている『大湖』の方へ。


『ギュギィ!?』


「ハッ」


 パシャパシャと、陸地から飛んだ僕は『水の上』でステップを踏む。

 それを見て、今に突貫しようとしていた女王は驚愕し、ピタッと硬直した。 

 僕はその光景を前に、心底相手を馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 今までになく滑稽なヤツの姿。そしてこの状況を持ち込んだ一手から出る、笑みだった。

 僕が立っている湖の深さはざっと、二メートル強。

 それは、岩殻を含めた女王の体積の『約五分の一』を沈められる深さである。

 さらに『水中』という陸上環境の超激変。これが最も僕にとって美味しい。


 水が持っている『抵抗力』は空気なんかの比じゃない。

 それは、空気と風以外で抵抗がない陸上を走る際と、腰から下を水に沈めた状態で走った際に掛かる『負荷の違い』を知れば明白な事実である。

 さらに僕とは比べ物にならないヤツの体面積だ。

 それで生じる負荷は凄まじいのは疑いようもなく。

 だからこの一手。

 僕自身も水の中に入るなら、この作戦は言葉通り『水の泡』となる。

 だが、その問題をつつがなく解決できる『神力』を、僕はこの身に宿していた。

 だから浮けた。だから走れた。風の上に乗ることで、魔窟内という敵の地の利を脱した僕は圧倒的なアドバンテージを手に入れられた……!


「おいおい、何してる!? こっちに来ないのか!? なにを足踏みしてんだよ!?」

 

 削ぐ。女王が暴力の一端だけでも、自然の力で削ぎ落とす。

 

「まさか怖気付いてるのか!? まさか水が怖いのか!? おいおいおいおい!?」


 故に煽れ。


「敵は『神様に介護されてるヤツ』だって、ようやく理解できたか!? それを相手にするのは怖いか!? 怖いよな!? そうだよなぁ!? 僕と違って『小心』なんだもんなァ!?」


 煽り倒せ。


「テメエの殺意は水で溶けるくらい柔なのか!? テメエの思いはそんなもんなのか!?」


 そうしたら乗ってくる。必ず。間違いなく。絶対に。ヤツは乗せられる。

 

「————んなわけねえよなアァ!?」


 この馬鹿は自分の国や命よりも。


「ほら、そうビビってねえでこっちに来いよ、クソブツ!!」


 ただのプライドを取る『クソの王』なのだから、疑いようはない。


「足踏みしてねえで動けよボケが!! 僕を殺すんじゃねえのかよテメエ!? アアァ!?」


 雲。白雲でも暗雲でも灰雲でも。一つに纏めて喩えるなら『空の染み』と言うべきだろうか。

 それ以外に適した言い方はあるのか……。それは、今の僕には分からなかった。

 白化粧。その言葉が適している気はするが。

 今はどうしても冷静になれないから、よく考えつかない。

 だが。

 たとえ『染み』があったとしても、不必要な白化粧をしていたとしても。

 この『美景』が霞むことはないだろうと、疑いようもなく思えてしまう。

 そんな蒼一色の、思考に意識に記憶に魂までも、一様に吸い込まれてしまいそうな、あまりにも壮大すぎる天空を、まるで鏡のように映している、凪が荒れつつある大湖の上から。

 唯一無二の美しさがある自然の中に存在すること似付かわしくない。

 何とも聞くに堪えない『罵詈雑言』が響き渡った。


 僕のことを知っている、爺ちゃんやサチおばさんやカカさんが聞けば、瓜二つの別人に入れ替わっているなんて疑うことだろう、そんな大声と言葉を聞いて。

 大して『僕の身の上』は知り得ていないものの、だがしかし、世界中の誰よりも今一番『僕の根底』を見知っているだろう蜘蛛の女王は、ピキピキと頭部に張る石の膜に罅を生じさせた。

 そして、僕は内心でほくそ笑む。冷や汗を全身から噴き出させながら。

 まるで悪党のように殺伐しい僕の思惑通りに、女王は弾けた。爆発した。


 ここからは——。


 いや、ここからも命懸け。

 もっと大胆に、ヤツは絶怒のままに僕を殺しに掛かってくる。

 だから気合だ。もうそれしかない。

 死ぬな、僕。負けるな、僕。勝つんだ、僕。

 この憎悪のままにヤツを殺せ、ソラ・ヒュウル。


『〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッギィギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』 


 発狂。絶叫。大憤怒。死んでも殺す標的は、茶髪の人間ただ一人。

 死を、死を、死を。ヤツに死を。身の程を知らぬ風の神子に終焉を。

 ただでさえ常軌を逸していた蜘蛛の女王の怒りの丈が、正真正銘、紛うことなき弱者が行ってみせた『渾身の煽り』を経て、ついに許容限界を、ガラスのように薄かった天井を突き破る。

 これにより、少なくとも確かにあった冷静さを、女王は完全に捨て去った。 

 もはや『僕を殺す=己も死ぬ』であったとしても、進んで『絶対に殺す』に方にベットすると思わせる超気迫。

 そうなるように必死で誘った僕も、流石に『震え』を感じざるを得なかった。

 だが、これは武者震いだと。

 プレッシャーに押され、後退しそうになる足を無理矢理に叱咤。

 そうして震えていない万全の両足を認めた後、僕はスッと腰を低くして、何人も正面から止めることなど不可能な『捨て身の特攻』への即座対応用意を完了させた。


 そして——。


 これから、今まで以上に苛烈な死闘が始まることを予感しているのか。

 ビリビリと、ただ静観をしていた空が、巻き込まれるわけでもないだろうに恐怖で震え出す。

 女王が打ち上げた大喚声。その余波だけで水面はザザザと波立ち、森は新緑の葉を散らした。

 もはや静寂とは正反対の様相を呈している世界の中で、僕は極限まで濃緑の瞳孔を開かせる。 瞬後。


『ジャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア——ッッッ!!」


 大絶叫。直後に、ドォンッ、と。

 わざわざ量ろうとも思えない規格外の超重量のせいで、立ち止まっているだけでズクズクと脚先が沈んでいってしまっていた、八つの鋭脚。

 それが刺されていた大地は、ただ女王が突貫しようとしただけで、事実ただ後ろに蹴られただけで、芽が出たばかりの野花もろとも、言葉そのままに、木っ端微塵に『爆散』する。


 女王は比喩抜きで、その真紅の八眼から鮮緑色の血涙を流していた。

 おそらく頭に昇った血が沸騰して、内側から漏れ出てきたのだろう。

 無造作にそれを周囲に撒き散らし、自然を汚して、つい舌打ちをしそうになった。

 が、その鮮緑血は大湖の水を通したことで混ざり、透明の中に溶けて消え。

 本当に、たった一瞬の出来事。


 それを正確に目で捉えていた僕は、目前の光景を見て思う。

 言い表すならば、まさに爆進怒涛。

 嵐を纏う大海でうねる鯨波を体現したようなその突撃は、瞬く間に僕の視界を埋め尽くした。

 脳髄を途切れることなく打ち付けている警鐘が、もはや有音と無音の境目を無くす。

 だがしかし、僕は絶望に塗れることなく——不敵に笑った。


『ギャジャアァァアアア!!』


「ヅァアッッッ!!」


 鞭打。斬撃。真っ向から、衝突。末に相殺。喊声。喚声。混ざり合い、消滅。数瞬で続誕。

 止まらない。止まらない。止まらない。止まらない。

 永遠に疾く駆け、延々と強く打つかり、無限に死を押し付け続ける。


〝〝コイツ、やはり強い——!!〟〟


 まさに爆波。

 立つことも儘ならないそんな戦場の中で、隙を縫う鏡剣の二閃が怪物に迫った。

 狙われたのは、瞼がない故に防御力に乏しかろう、ギリギリで水から出ている副眼の一つ。

 女王は矮小弱者たる僕を『跳ね殺す』ために『ブレーキ=停止』を選択肢から外している。

 それが理由となり、斬撃に対して『防御』ではなく、鞭打での『迎撃』の予備動作に入った。

 怪物以上の速度で後退しながら、しかし間合いから外さない僕はその判断を見逃さず。


 激速追走。


 第一脚のみを武器にするのでは、この超速的な戦闘を戦い切れぬと直感。

 そして『最も強靭で強力な第一脚以外での鞭打』でも、鍛えるということをしてこなかった僕が嫌嫌に備えてしまっている耐久限界を超過できることを確信。 

 適を導き出したのは思考ではなく本能。まさに最悪の害蟲。

 眼光を軌跡に残す女王は、僕の速度的な有利、つまり『ヒットアンドアウェイ』と『攻撃の連続力』を、おそらくは意識して潰していた。

 格段に増加した、単純計算で『二倍』になった女王の手数。

 現に、鏡剣の二閃とすれ違った『第二脚での鞭打』が、僕の人生に対して終幕を煽っていた。


 今までの第一脚での鞭打と比べれば、そのリーチは短い。

 打ち合ってみた感じ、威力も大きく落ちている。 

 だが、もし直撃を許せば『即死』するのに大した違いはなく……。 

 キツい。身も心も。

 息が苦しい。肺が全然動いてねえ。心臓ももう止まっている気さえする。

 その思考は『停止しないぞ』という非情すぎる脅迫を真正面から受けているのが理由だった。

 掠った。肩は折れてない。でも痛え。

 左の肋が一本逝った。生皮も剥がされた。熱い。痺れる。でも、大丈夫。

 それは、一発目を肩を掠らせるのみで回避に成功した僕の鳩尾を狙っていた二発目の鞭打を、ほんの少し身をズラすのみで避け、僕自身の斬撃を不発に終わらせないようにした結果だった。 総じて問題なし。

 この肉体はまだ活動の続行が可能。この意思はまだ不屈を貫いたまま。

 ならば、まだ。ヤツを殺せる余地はある。


「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」


 ギリギリと歯を噛み締めては、腹から叫びを出す。

 形相は鬼気迫り、右腕と肩が僕の思いに呼応したように今までになく隆起する。

 絶対に手放さないようにと柄を力強く握りしめている手が、自熱で癒着した気さえした。

 深く吐かれた熱い息は、太陽の如き『炎』を幻視させるほど。

 気迫。もはや言葉にするまでもない全身全霊。

 それらを集約し、僕が繰り出したのは、二を超えて突き進む、たった一つの閃き。


「ァガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 


 女王は先の二閃に対して、左右の第一脚を水を掻き分けるように薙ぎ、難なく払い除けた。

 そして、バシャーン、と。迎撃の過程で巻き起こり、目前に大きく打ち上がった、水の幕。

 直された第一脚が目の前から退いて、それだけが広範な視界を埋め尽くしていた。

 しかし己が巨体での不止たる突撃により、それはほんの一瞬で跡形もなく引き裂かれる……。

 

『——————』


 居た。居た。居た。見えた。見えた。まさか見えないわけがなかった。

 己が脚、そして水の幕を挟んだすぐそこに、居た。

 ヤツは、居た。

 ヤツは己の一撃に怯むことなく、退かず『前』へと出ていたのだ。 

 裂かれた幕を抜けた瞬間に、己の視界の全てを奪ってきたのは、矮小脆弱な一人の戦士。

 だが、疑いようもない、史上最強最高最大の難敵。

 それが、己の前で『陽光を映す剣』を振り翳していたから……バギッと。


 ——たかが骨折程度の負傷は覚悟の上。

 死傷以外は必要経費と割り切った。死ななければ何の問題ない。

 そんな破滅的肉薄を体現し、僕が撃ち放った大上段の斬撃は、計八つの女王の眼。

 その一つに深々と、届く。


『ギャァィ————ッッ!?』


 ドンッ。ザパァッ、と。

 謎の衝撃音と同時に斬り裂かれた女王の左主眼から、蒼穹を映している太湖の透明さえも濁さんばかりの鮮緑色の血液が溢れ出す。

 あまりにも痛打。取り返しがつかない致命。女王の止まらずだった脚が、ピタリと停止する。


 そして、ヒットアンドアウェイ。


 実質的に封じられていた俊足持ちの十八番。僕は確かな手応えが、ジンジンと心臓が刻むリズムのように残っている『大金星の右手』を引きながら、水の上で風を蹴って、後方へと跳躍。

 機能停止した左の主眼球を両の脚先で面白おかしく押さえようとしている女王を認めながら、女王から十メートルほど離れた場所に着地した僕は——。

 限界まで見開かれている両目と、自制できない細かな震えを見せている左手。

 それを『凶弾』が突き刺さっている己が腹部へと向けて。

 吐瀉物などではない真っ赤な『鮮血』を湖に吐き、ガクッと片膝を水面にある風上についた。


「…………ァガハッッッ!? ゴポッ……うぷっ、ごはっっ!?」

 

 五分経過。命懸けの時間稼ぎ完遂。逃走実行可能状態へと移行。冒険者三名の避難完了。

 セットしていたタイマーが、そう脳内で鳴り響いている。

 ギリギリで生命活動に必須な『重要臓器』は避けている僕の臍より上部に、女王の口腔から放たれた凶弾がめり込んでいた。

 黒曜石のような。そう、ヤツの爪が纏っているものと同じような見た目をした、しかしそれよりも強度は上だろう『何か』が、深々と僕の皮肉を穿ち、疑うようもなく突き刺さっている。


 女王の口元には細心の注意を払っていた。

 だから、弾を装填すればすぐに分かったはずだ。

 にも関わらず、撃たれた。此処ぞという時に、当てられた。完璧に、してやられた。

 まさか、残していた? 

 僕が勝利を確信して、ほんの一瞬、緊張を緩めた『隙』を狙って?


 いや、違う。用意したんだ。自分の体を削って、癒えぬ傷を作ってまで、今。

 悦楽と酔いの絶頂、勝利という名の絶峰に手を掛けていた僕を、そこから撃ち落とすために。

 巌すらも噛み砕ける己の『大牙』を噛み砕いて、それを弾にし。鞭打以外の攻撃に対して『回避』が間に合う体勢ではない僕に、命中させやがった……!?

 予想外。想定外。想像の埒外。あまりにも『まさか』過ぎる、女王の奇手。それが、被害者救済の時間稼ぎよりも、女王の『殺害』に傾倒していた僕の、敗因——。


「ゔぶっ……ぐぞっだで…………っ!?」

 

 繰り出した斬撃が女王の左主眼を斬り裂いて、後退のための跳躍に移った瞬間、撃たれた。

 懐に踏み込み過ぎたせいで『コレ』を頂戴したというわけだ。

 しかし追撃を選択せず、即座に後退をしたおかげで、あとおそらく体内にも『風』が回っているのもあって、被弾の衝撃で負傷箇所の周囲にある内臓にダメージが入るのは免れた。

 だが、カカさん家で見た人体図的に、臍の上辺り——つまり『小腸』にデカい穴が開いたな。

 もう少し狙いが逸れていれば肝臓や、最悪心臓をヤラレてた。その点は『不幸中の幸い』か。しかし『致命級の大ダメージ』なことに変わりはない。


 この痛み、出血量、突き刺さったままのヤツの凶弾。

 動きの精彩は間違いなく大きく欠ける。

 傷口からの出血と、腹から込み上げてくる血が止まらない。

 下手に呼吸すれば気管に血が入り込んで、まともな呼吸すら不可能に陥るだろう。

 腹に突き刺さったままの大牙の欠片——象牙のような鋭利な形状的に、牙の先端部分だろう——を無理に抜けば、蓋が除かれた穴からの多量失血による意識朦朧、そして失神もあり得る。

 

 総じて、最悪。 

 

 骨折や体表面削損傷を経験してなお、腹部を刺されたというのは今までにない感覚を与えた。これも熱いのか。そう思いながら、僕は巨の接近を感じ取り、下げていた視線を前に向ける。

 脂汗まみれの顔に、しかしヤツは笑わない。

 斬られ潰えた左眼も僕のことを射止めている。


『ギギギィィイィ…………!』


 終わったな。

 今だに『戦え、殺せ、討て、晴せ』なんて不撓不屈を掲げている僕とは裏腹な、しかし僕とまったく同じ声をしている昏い囁きが、ボソリと耳元でそう呟いた。

 荒れ荒れな呼吸と、酷く五月蝿い耳鳴りのせいで大して聴覚は機能していないのに、それはやけに鮮明で、ドクドクと腹の穴から抜けていく僕の命にまで、早過ぎる弔鐘を響かせた。


 腹にこれを突き刺したまま、戦えるか? 

 不可能だ。

 このダメージでヤツに走り勝てるか? 

 無理難題だ。


 僕がヤツに与えられたダメージは、八つあるうちの一つを失明に追い込んだだけだ。

 事実、それだけなのだ。将来的な支障を、攻撃力に乏しい僕が与えられただけ、大金星。

 慰めにもならないが、この手応えがくれる万感は、とても大きい。

 今に『死ぬ』と確信しても、今に『終わる』と理解しても、恐れをなくしてくれるくらいに。

 まさか、爺ちゃんや母さんより早く、僕が『天界』に昇るだなんて思わなかったな。

 あれ、親より先に死んだら、三途の川のほとりで石を積むんだっけ……。

 いや、天国と地獄の狭間でそこの管理者に自分が善か悪かを審判されるんだっけ……。

 なんか、色々あるんだよな……そうだったよな…………。

 

「うぷっ……ゲボッ……はぁ、はぁ……ぐぅっ、ゴボッ…………」


 バシャンバシャン、と。それはまさに、死神の足音だった。

 もはやそう思わざるを得ない。

 大湖の水に漬けられたその八つの脚をゆっくりと、まさか僕に対して『敬意』を表しているように厳かに進ませて、女王は一歩一歩とこちらに近づいてくる。

 そして、目の前で止まった。


『ギィイ————』

 

 右手は剣を握ったまま、左手へ負傷した腹部を抑えている。

 日の下で片膝をついたまま動けない僕に、今に召される僕のことを見ているだろうに、まだ出てこない死神の代行が、死の化身が、死を象徴するような一個の大塊が、その剛脚を掲げた。

 勝利宣言。一目で、その意図が分かった。

 目元が歪む。汗が落ちる。手が強張る。耳鳴りが止まる。血が口端から溢れる。

 それは痛みのせいじゃない。傷のせいでもない。

 死を受け入れざるを得ない弱すぎた自分への苦渋と、結果として敗北した悔しさ、そして母さんと会えないまま、家族や友人達と食卓を囲えぬまま、この旅を終えるという未練でだった。


「…………グゾッダレ」


 振り下ろされるは死の鉄槌。弔鐘を鳴り響かさんとする大槌が、迫る。

 あれだけ真っ向から弾いてやったのに、今は弾くなど無理だと思えてしまう極悪な鞭打。

 影は巨影に覆われて消えた。

 死相に塗れていた己の顔を映していた水面はまさに無な底を見せる。

 人生の終幕。一生の終わり。永遠の死。有限は無限へ。生命は逆行し『無』へと進む。

 それを言外に悟った僕の視界は、別のどこかの『白』を映した。


 勝ちと負け。強と弱。即ち生と死。死闘の勝者が結果(すべて)を決める。

 弱きを喰らい、強きはさらなる高みへ行く。

 自然の摂理。そこに非情はない。それは無情でもない。

 まるで僕がそれを受け入れているように思えるかもだけど、僕は別に受け入れてはない。

 この結果はもはや『受け入れざるを得ない』から、仕方なく落ち着いているだけ。

 だから僕はしっかりと前を向いて、全てをひしゃげさせる鉄槌を見た。

 頭部は西瓜のように弾けて散らばり、体は上と下という区分を無くす。

 一言、潰える。


 …………寸でで、響いた。 

  

「【雷砲】————ッッッ!!」


 光った。そう、光ったんだ。目の前が、何物よりも眩く。太陽よりも、煌々と。


『——————————————————ァァ!?』


 言うなれば、そう。目の前が、網膜が焼かれかねないほど、黄金一色に、光ったのだ。

 まるで、目にも止まらぬ『雷』が走ったように。たった、一瞬だけ——……。


「———…………トウキ君」 


 雷砲。ヒガンノ・トウキが行使できる『雷魔法』の中で『最強』の切り札。

 まさに奥の手。

 トウキは単独で『旧女王』を討伐していた。

 彼は『それが戦いだったとは口が裂けても言えない、真に一方的な虐殺』で出来上がった蜘蛛の亡骸を放置したまま、即座に道を戻った。

 そして、トウキと合流しようとしていたルルド達と、現女王の間へと続く道の途中で再会。

 一行の中に『ソラ』が不在の理由を問うたところ、緊迫とした表情で『救助』を求められた。

 その説明を簡潔に聞いた後に、トウキは再び単独行動へと移り——。

 

 現女王が通った破壊痕を導にして、ソラや女王の後を追い、塞がれている道を『拳』で爆砕。

 もはや障害物などこの世に存在しない彼は、その超速の駆け足を緩めることなく。

 ソラが処刑される寸前で、魔法を用いて割って入ることに成功したのだった。

 ——説明は以上。

 

 彼が駆け付けた時点で、既に『勝敗』は決まっている故に。


「あとは任せろ」


 もしかしたら彼は、瞬間移動を使えるのかもしれない。あまりの光量で目を庇った僕の前に、彼はいつの間にか立っていたから。

 まるで鋏で切り裂かれた画用紙のように。

 おそらく彼が来た、つまり魔法を撃ち放った方向から一直線に湖は引き裂かれ、二メートル強もあった水がその部分だけ乾涸びたように消失してしまっている。

 大雷の余波か。津波の予兆のようにまだ水は戻らず、トウキ君は僕達と同じように、一気に乾かされた地面に強靭な二足をついていた。


 どうしようもない弱者を守るように、この上ない強者である彼は、ぷすぷすと焦げるまで焼かれてしまった肌から白煙を吐き出す『死の化身』と相対している。

 殻を含めて十メートルもある女王の巨体と、僕と変わらない背丈をした彼。

 目に見える情報だけで比較すれば、トウキ君の方が『頼りない』なんてと思われてしまうかもしれない。

 だけど、もう大丈夫だ、もう安心していいと、僕は心の底から思えていた。

 それは、構えを取るトウキ君の全身から立ち昇る、女王を遥かに超える『強さ』を感じ取ったからだった……。


『………………ギィ……グギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 発狂し、絶叫し、問答無用で、突撃する。

 彼我との距離は、処刑に割って入るために撃ち放たれた『雷砲』に押されたじろぎ、ほぼゼロ距離だった処刑時よりも離れた、しかしたったか六メートル弱。

 女王からすれば、一歩二歩で踏み砕けてしまう距離である。

 が、もはや距離など意味はない。

 身の程を知らず、怒りのままに突撃してしまった時点で、否。

 彼が駆け付けた時点で、既に『勝敗』は——女王の『敗北』は確定していたのだから。


「鬼拳」

 

 浅く腰を落とし、左拳を脇腹の方で溜める。正拳突き、その名称がピッタリな構えを取った彼が、ルーティンである『技名』を厳かに呟いた瞬間。


 大爆砕。 


 剛脚鞭打を振り下ろし、僕諸共トウキ君を轢き殺そうとしていた女王は、先に頭部に直撃した『鬼拳』を受けた途端。

 殻も含めたヤツを形成する全てが、粉々に吹き飛ばされてしまった。

 それで終わりだった。真に、圧倒的だった。

 信じられないくらい呆気なく、あの強大な女王は、ただ一人に『討伐』されたのである……。


「無事か? ソラ」


「…………うん。ありがとう、トウキ君」


「んじゃ、ルルド達と合流するか。そこで傷も治してもらえ」


「……うん」


「腹のそれは抜くなよ。血を流しすぎるとやべえ」


「ふふっ」


「歩けるか? 肩貸すぜ」


「肩、助かる」


「行くか」


「うん。帰ろう、みんなのところへ——」

敵が異形。ソラ君との力の差。人語を喋れない。

これが当話の執筆の際に多大なる面倒を掛けていた。

キツかった。めちゃくちゃキツかった。ここまでキツくなるなんて予想外だった。

ここまで戦闘の執筆に手こずるなんて思ってなかった……。

でも、上手くやれたかなぁ。やれたかもぉ? って感じです。うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

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