表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼風のヘルモーズ  作者:
『ソルフーレン』編〈1〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/53

第23話 様子がおかしい『エリオラ』さん

 ほぼ防戦一方であった、あまりにも過酷すぎた模擬戦の末に活動限界を疾うに迎えてしまった僕は、フリュー大森林の奥地で気絶。

 そのまま大地と抱擁を交わして眠りに着いた。しかし野外に晒されている状態とは到底思えぬほどに僕の無防備な肉体は、肉体の内側で眠る心魂はこの上ない暖かさに満ち満ちていた。

 まるで春の中程、その陽気な日差しを全身に浴びているような、高級な毛布で全身を優しく包み込まれているかのような安心できる温もりを心身に感じている。

 とても気持ちがいいし、とても心地がいい。故に、薄らと外の光が見えている目を僕は閉ざそうとする。


 が、しかし。 


 長閑な春の日差しと言い得る、柑橘系の匂いを感じられる暖かさに溺れていると、次いで壊れてしまっている肉体の箇所がゆっくりと元の形に戻っていくような、普通ならばあり得ない速度で治っていっているような感覚に見舞われて、それに再度閉ざそうとしていた心の目を薄らと開けた僕は、尽きていた体力が回復していることに気が付いた。 

 ほぼ万全であると声を大にして言えるくらいの状態まで、おそらく僕の知り合いだろう『くそ生意気というのが欠点なだけで、それを抜きにすれば非常に優秀な魔法使い』によって魔法的な治癒を施された僕の肉体は、活動限界が起因となった昏睡状態からの復帰を可能にしていた。

 しかし僕の善心は『心地良いからまだ寝ていようや』という甘言を果てしない暗き海原の底で揺蕩っていた僕の耳に入れて、それに僕も満更でもないニンマリ顔で表情で頷いてみせた——のだが、僕の善心とは裏腹に悪心は即時復活を求めていて。

 

 あまりにもスパルタ過ぎる悪心に対して、善心はソラ・ヒュウルはそんなキャラじゃないだろと肩を竦めてみせ、そのまま薄らと開けていた僕の目を閉ざそうとする。

 

 あれだけ殴られたんだから少しくらい休んでも良いじゃないか。誰も怒る人はいないってば。

 と、善心の甘言を聞いた僕が春のような温もりを享受せんと目を閉ざしたまさにその時、強引に覚醒を成し遂げんとした悪心は心臓を強くノックして、無い目を剥いている善心共々、驚愕を禁じ得ないでいる僕を睡眠の海底から強く引っ張り上げた。

 もはや言葉もない悪行。悪心が行った最悪の力技。それに圧倒された善心が『もう駄目ダァ』と情けない諦言を呟けば、それを聞く僕は諦めた風に儚く目を閉ざして。 

 徐々に明瞭となっていく外界。そこへの復帰を受け入れた僕がゆっくりと両の瞼を開けてみれば、僕の目前には『謎に怒った顔をしているアミュアちゃん』の姿が。


「ぁ……ぅっ……ぁ、アミュア……ちゃん…………?」


「あっ! やっと起きた!!」


 僕は、鼻先に唇が当たるかという近距離から顔を覗き込んできているアミュアちゃんと視線を交わしながら、寝惚けているせいで甚だ重たい頭を霞んでいる目を擦ることによってなんとか覚醒させて、なぜかギチギチに硬くなってしまっている首を無理やりに動かし、今の状況を確認した。


 周りをよく見てみると、どうやらここは『フリュー大西門』近くに用意していた『魔獣捜索討伐の拠点』のようで。

 いつもの奇抜なタイツを穿いていないアミュアちゃんの生膝を枕にしている僕がこうして横になっているベットは、周りに大量の化粧品やら衣服やら謎の人形やらが散らばっていることを鑑みるに、あまりにも低過ぎる膝枕を提供してくれている彼女が使っていたベットで間違いないだろう。


 なんでこうなっているんだろうな……。たしか、僕の内側で封じ込められていた『風』を覚醒させて、出鱈目に爆発させた後、体が『ピキッ』って攣ったように動かなくなって、そのまま倒れて……気を失ってしまったんだっけか。

 ということは、大地と抱擁を交わしていた絶賛気絶中の僕を誰かがこの拠点まで運んでくれた——ってことだよな。っていうか、森の奥地で倒れていた僕のことを『拾って拠点まで届けてくれる人物』なんて一人しかいないよなぁ。

  

「痛いところある? あるなら治してあげるけど」


「え? あぁ、首がギチギチに硬くなってるんだけど」


「治癒魔法をかけると筋肉が硬くなるのよね〜〜〜。だからそれを治すのは無理。他にはないの?」


「ああ、そうなんスか……んんー、他にはなさそう?」


「あっそ。このまま寝とく? それとも起きる?」


「お腹空いたし、起きようかなぁ……っしょと」


 僕の呆け顔を間近に覗き込みながら『まだ寝とくなら膝貸してあげるけど?』という旨を暗に伝えてきている、思いの外に親身なアミュアちゃんの言葉を聞いて、数瞬の間だけどうしようかと悩んでしまった僕は『僕の悪い心は例え眠ったとしてもすぐに起こしそうなんだよなぁ』と思い、案外に寝心地が良かったアミュアちゃんの膝枕に置いていた頭を離して、そのまま横になっていた上半身を起こした。

 そして『ズーン』という言葉も出ない怠さが伸し掛かっている頭をブンブンとに横に振って、なんとか払い除けた。


「なんか、全身が重いんだけども…………」


「当然でしょ! 治癒反動を度外視した即効性の治癒魔法を全身にかけたんだから。っていうか、盛大に感謝してもらわなくちゃ割に合わないっての! 嵐に巻き込まれたみたいなエリオラと、エリオラが抱えて持ってきたソラもボロボロだったんだからさ。そんな二人に治癒魔法を使った私の魔力もうスッカラカンだわ! もうっ!」


「あぁ……どうも、ありがとうございましたぁ」


「ふふん! もっと褒め称えなさいな」

 

 その後、土埃だらけになっている服を着替えた僕は、着替えしている時は赤い顔でそっぽを向いていたアミュアちゃんと共に二人しかいない部屋を徘徊し、そんな僕の跡をついて来ているアミュアちゃんが「私を褒めろ!」と言ってしつこかったため、それに草臥れてしまった僕は仕方なく「すごーい」や「さすがー」などの心無い賞賛を贈った。

 最初の方は「心が篭ってない!」と彼女は怒っていたものの、ずっと褒め続けていた僕に満更でもない様子をし、さらにしつこくなってしまったのは言うまでもない。

 

 そんな彼女を尻目に、僕は部屋に居ない『二人』を探す。

 

「ねえ、アミュアちゃん。リップさんと…………エリオラさんはどこにいるの?」


「リップは『薬屋』に切らしちゃった軟膏を買いに行くって出てったわよ。エリオラは————」


 何かしらの心当たりがある様子を見せたアミュアちゃんがエリオラさんの『居場所』を口にしようとした、その時。

 バンッ! と三人用の部屋に備え付けられていた浴室の扉が勢いよく開き、素っ裸の何者かが部屋へと入ってきた。


「私はここだよ」

 

 薄暗く、この上なく静かだった部屋の中にあるには場違いとしか思えないくらいの高揚感を持っている、えらく聞き覚えのある声が部屋中に響くと共に、ギョッとしている僕とアミュアちゃんの視線の先に現れたのは、服も下着も身に付けていない『生まれたままの姿』をしている、僕が部屋中を歩き回りながら探していたエリオラさんその人で。

 そんな彼女は意味不明でしかない自信満々な様子で、自身の最上肉体美——美しく引き締まった全身の筋肉や割れた腹筋、女性特有の膨らんだ乳房を異性である僕に堂々と晒していた。そんな彼女に対して僕とアミュアちゃんは言葉を発することができす、気圧されるように尻餅をついた。


「おはようだね、ソラ君。元気そうでよかったよ」


「…………き、筋肉スゴっ!」


「そっちじゃねえだろっっっ!」

 

 多大に混乱しながらも、万人の目を惹きつけてしまうことなど容易かろうエリオラさんの肉体美を褒め称える僕に、アミュアちゃんはできる限りのツッコミを入れたのだった。 


 * * *


「実質的に『弟』だろうソラ君に、私の生まれたままの裸体を隠すような必要は全くないと思っているんだけどね」


「マジで意味分っかんないからぁっ!! バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」

 

 僕とアミュアちゃんは一向に服を着てくれる素振りを見せなかったエリオラさんに無理やり服を着させた後に、彼女が吐き連ねている『意味不明』な言い訳を聞いたのだが、やはりと言うべきか。案の定僕達には『理解不能』な言説であったため、先ほど彼女との会話を諦めたところだった。

 この『筋美的裸体晒し事件』に関しては、切らした軟膏を買いに行っていたとのリップさんも味方に付いてくれた。

 恥ずかしげもなく全裸を堂々と晒していたエリオラさんは僕に裸体を見られても特に気にした様子もなく、というか、もはや『裸を見せに来ていた』ような感じすらあった。

 明らかに様子がおかしいエリオラさんは、顔を真っ赤にしながらマジギレしているアミュアちゃんを前にしても物怖じすることなく相も変わらずヘラヘラとしていて、リップさんが軟膏ついでに買ってきた菓子パンを頬張りながら、受け取った新しい軟膏を手足にある小さな裂傷に塗布する。

 そんな感じの彼女に一体なにから話せばいいのやらなのだけど、僕はとりあえず頭の状態を伺うように口を開いた。

  

「あの。もしかして、模擬戦で頭とか打ちました……?」


 僕の言葉を聞き、先に反応をしたのはアミュアちゃんだ。


「はあぁ? 模擬戦ってなに? ソラもエリオラも、朝っぱらからどこに行って、なにをしてたって言うのよ?」


 眉を顰めているアミュアちゃんの問い掛けに対して無言を貫いているエリオラさんに代わり、僕はできる限り詳細に早朝から始まってしまったアレコレを詳細に——僕が風の加護を使えるようになるための訓練をしていたと答えた。


 アミュアちゃんは僕の話を聞いた後に「だからってやり方が強引すぎ! 下手して死んだらどうすんのよ!! アンタのせいで魔力が空になってるんですけどっ!!」とブチギレて、冷や汗を流すものの冷静な様子のリップさんは苦笑しながら、怒れる彼女のことを「まあまあ」と宥める。

 どうやら他二人もエリオラさんが取った行動に思うところがあるらしい。このことから、早朝に始まった模擬戦はエリオラさんの『独断』だったということが知れる。


「はぁあ……エリオラ。アンタはなにがしたかったの?」


 呆れ気味な問いかけをするアミュアちゃんに、顔を上げたエリオラさんは柔和な大人な笑みを顔に浮かべ、答えた。


「私はただ、ソラ君に死んでほしくないと思っただけ」

 

「だからってさぁ…………!」


「ソラ君の今後を思いすぎたあまり性急になって、死ぬ寸前までの暴力に傾倒していた自覚はあるよ。それは心から悪いと思っている。だから謝るよ。本当に申し訳ない……。でも、私に悪意はなかったことだけは知ってほしいんだ」


「はぁぁあああぁ…………マジで。次やったら殴るから」


「君にも多分に迷惑をかけたね、アミュア。それで謝罪の意味を込めてさ、今から食事を摂りに行かないかな?」


「はぁ……? ま、まあ、いいっスけど…………」


 唐突な食事の誘いを受けて、リップさんは渋々了承する。


「エリオラの奢りね」


 アミュアちゃんは乗り気な感じで、怒髪天の意識を切り替えて——というか忘れてしまっている風に髪を背に流す。


「ソラ君も一緒に行こうね。お姉ちゃんがいいもの食べさせてあげるから」


「お、お姉ちゃん…………?」


 この人マジで、僕が撃ち放った風で頭を樹木にぶつけて、しかも打ちどころが頗る悪かったんじゃないだろうな……。


「キッショ!」


「エリオラ姐さん、頭打っちゃったんすか…………?」


「二人のことは無視して行こうか、ソラ君」


 僕は何が何だかよく分からないまま、姉を自称している満面の笑みのエリオラさんに手を引かてれ、エリオラさんの選りすぐりだという料理屋へと向かうのだった。


 * * *


 エリオラさんの奢りだという選りすぐりの飲食店へと向かった一行が到着したのは、西大通りにある中々に小洒落た『レストラン』であった。ここは以前、馬車での移動中にアミュアちゃんが気になってると言っていたところだな。


 白の石版の四方の壁と濃茶の木枠をした作りの建物に掲げられている看板には、やたらとクネクネしている文字でレストラン『ソルソース』と描かれており、それが非常に読みづらく、アミュアちゃんと揃って『アレ、なんて描いてあんの?』という小話をしたのは言うまでもないだろう。


 そんな『レストラン・ソルソース』の中に入ってみると、吹き抜けているおかげで厨房が丸見えな店内には、熱血にして爽やかな雰囲気を醸し出している赤茶色の顎髭を蓄えた『シェフ』だろう男性が鉄のフライパンをせっせと振りながら「フリューで一番の味だよォ!!」と声高に吠えていて、暑苦しいレストランだなと僕は思った。


 非常に暑苦しい店でも客足は思いの外に多く、四人が一緒に囲むことができるテーブル席が空くまで三十分以上も待つことになってしまった。

 そうなるとやはり文句を言うのはアミュアちゃんで。彼女の『長いなぁ!』という御立腹を紛らわすために苦笑していた僕はアミュアちゃんと『ババ抜き』に勤しむ。


 そんなこんなで三十分後。ババ抜き勝負は僕の九勝一敗、アミュアちゃんの一勝九敗にて、女性店員の「お待ちのお客様〜!」という終わりを告げる一声によって幕を下ろした。初めて『最下位』という底なし沼から脱出したことによって忽ち上機嫌になったアミュアちゃんに僕達は続いて、用意してもらったテーブル席に着く。


 僕は斜陽が入り込んでくる窓際の席。アミュアちゃんは僕の隣に。僕の対面にはエリオラさんが嬉々として座って、そんな彼女の隣に苦笑しているリップさんが腰掛けている。

 全員で小洒落ている席に着いた後、卓上に用意されていた細かく料理が書かれている一冊のメニュー表を回し読む。


 僕は、強請ってくると理解できる狩人の目をしていたアミュアちゃんに激推しされる形で、激濃厚チーズパスタなる料理を『結構に重いものを……』と思いながら注文した。それに微笑んでいるエリオラさんも僕と同じものを注文し、そして食前か食後のデザートなのだろう苺のショートケーキを一つと注文を取りに来ていた女性従業員に伝えていた。

 僕の昼食兼夕食を横から掻っ攫おう下心が見え見えである当のアミュアちゃんは、ソルフーレンの国旗が突き立てられているお子様ランチ——じゃなくてオムライスを頼み、誰よりも早くに注文するものを決めていた様子であったリップさんは、めちゃくちゃ『激辛』らしい緑色のスープを。


 しばらくして出来立ての料理が僕達のテーブルに並べば、誰が頼んだのかが一目瞭然である、一つどころではない大量のケーキが旗付きオムライスを前にするお子様の御手元で群れを成した。

 エリオラさんの奢りだからって、どうせ食べ切れないのに羽目を外しすぎなんじゃないだろうか? こんな量を食べきれるのか? 

 という風に僕が眉を顰めていると食前にデザートを食べるらしいエリオラさんがケーキの先端をフォークで切り取り、それを僕に差し向ける。


「はい、あーん」


「え、あ……僕、甘いもの苦手なんです…………」


「…………そっかぁ」


 意味不明に姉を自称しているエリオラさんに——というか、この歳になって年上の女性に食べ物を口に運んでもらうのは普通に恥ずかしいし、正直に言って甘物は超が付くほどに苦手なわけでして。そう僕に拒否されたエリオラさんはしゅんと肩を落とし、自分が取ったケーキを頬張った。

 そんな彼女を正面から見ながら苦笑する僕は、注文させられたチーズパスタを不器用にフォークで絡めて口に運ぶ。 


「————うん」


 黄色のチーズの濃厚な味が縮れた麺によく絡みついていて、とても美味しい。太めに製麺されているパスタも食べ応えがあって、舌だけじゃなく、腹にも満足感を得られる。フリューで一番の味を謳うだけはある。頗る納得の一皿だ。


「ね、一口ちょうだい」


「………………やっぱりっスか」

 

 事前に組み立てていた予想通りに、僕の料理であるチーズパスタを横から強請ってきたアミュアちゃんは、渋々ながら銀皿とフォークを差し出した僕に満足気な吐息を吐き、差し出された食器類を受け取らずに、その場で口を開けた。

 その様子に深い溜め息を吐いてしまった僕は、僕が使っていたフォークにパスタを絡め、それをアミュアちゃんの口へと運ぶ。

 僕に注文させたパスタを小振りな舌を使って味わっていた彼女はやはりと言うべきか、一口如きでは満足せず僕に何度も催促をして……結局、彼女が満足して平手を前に掲げたのは料理の十分の三ほどを平らげた時で。


「う〜ん。美味しかったわ。ありがとね〜〜、ソラ」


「はあぁぁぁーー…………」


 相変わらずな我儘お嬢様のせいであっという間に寂しくなってしまった僕の昼食兼夕食。それに海よりも深くて広い溜め息を吐くのを禁じ得なかった僕は、ふと、徐に周りを見回してみた。

 僕の斜め向かいに座り、注文した激辛緑スープと向き合っているリップさんは黙々とそれを啜り飲んでいて、見ているこっちも汗を掻きそうになる。

 そして対面のエリオラさんはいつに間にか自分が注文した分の料理を完食していて、上品に紙ナプキンで口元を拭いていた。


 それらを呆然としているような眼差しをもって認めた僕は『なんか、この人達とはつい最近出会ったなんて思えないな』という正直な所感と共に『皆んな本当にいい人達だ。今朝に殺されかけたけど……』と苦笑しながら首を折った。

 

 幸せそうに苦笑している僕に対して「ソラ君は……」と、真面目な顔をしているエリオラさんが言葉を掛けてきた。

 それに「はい?」と返事をするとエリオラさんは意味深気にしばらくの沈黙を置いてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ソラ君はさ、この後、どこに行く予定があるのかな?」


「この後、ですか…………?」


「そう。私たちは明日、フリューを旅立とうと思っているんだよ。だからこそ君に尋ねた。気になってしまってね」

 

 そうか。エリオラさん達は明日——四月の十八日に、現在地たるフリューを旅立って、何処かへ行ってしまうのか。

 モルフォンスさんが認めてくれている信書は『ハザマの国』への向かうためのものだったはず。だから僕が行くとすれば『北』になる。そうなるとエリオラさん達は?


「僕はモルフォンスさんから信書を認めてもらっているので、フリューを立ったらハザマの国へ向かうことになりそうです。エリオラさん達の方は……どっちへ?」


「…………私達、ソルフーレンの南西に存在している『アリオン諸国』へと向かうんだ。ちょっと目的があってね」


 アリオン諸国とはたしか、十の小さな国々が一つの塊となって呼ばれている、所謂『総称』で。しかし世界的な名称でもあったはずの国家群。

 アリオン諸国はここソルフーレンから『南西方面』に進んでいけば国境が存在している。つまり『僕が向かうだろう方向とは逆方向』になるわけで。


 とすれば、僕と三人は明日でお別れになるのだろう……。

 

「あの。エリオラさん達の目的って、なんなんですか?」


「私は十年以上前から『とある人物』を探して世界を旅している。この目的っていうのは私達三人共通のものではなくてさ、これは『私個人』が抱えている問題なんだ」


「とある人物…………って?」


「私が探しているのは『アロンズ』っていう『魔人』だ」


 魔人……ってなんだ? まさか『人型の魔族』とかか?


「あの、魔人……ってなんなのか聞いても…………?」


「ソラァ…………アンタまじぃ? ビックリなんだけど」


「まあ簡単に言うと『人型の魔族』っスね。喋ったりして人間と遜色ないっス。見分けがつかないレベルっスよ」


 ピンと来てない様子を見せていた僕が申し訳なさそうな顔で発した問い掛けに、隣でケーキを頬張っていたアミュアちゃんが呆けた顔をしながらそんなことを言う。

 その反応にビクリと肩を小さくしてしまった僕に激辛スープを飲み干したリップさんは苦笑しながら、自分が持っている『魔人』に関する知識を教授してくれた。 


「人型の…………魔族…………」


 魔族って魔獣みたいな獣族型だけじゃないのか。人型で喋ったりするって、とんでもないな。見分けが付かないって相当やばいだろ。

 それにしても、アロンズ……か。一度も聞いたことがない名前だな。エリオラさんはなんでその魔人を探しているんだ? 故郷を離れて世界を旅してまで。


「えっと、その。なんでエリオラさんは、アロンズって魔人を探しているんですか? 故郷を離れてまで…………」


 エリオラさんは僕の質問を受けてはしばらく重々しい沈黙を貫き、目の奥に静かな青き炎を宿しながら口を開いた。


「アロンズに、私は家族を殺されている。だから探しているというのは『復讐』だね。それが私の旅の目的だから」


 家族を殺された。エリオラさんが放ったその言葉の衝撃が強すぎて、僕は口舌を痺れさ、機能不全に。そしてリップさんとアミュアちゃんの方にぎこちなく視線を向けると、水とジュースを飲んでいた二人は先の話を補足してくれた。


「私は『アロンズ』っていう奴とは関係ないわよ。ただなんとなく生まれ故郷を出たかっただけ」


「私はフリーの時に姐さんにスカウトされただけっス」


「ソラ君が気にする必要はないさ。まあ、もし奴を見つけたなら私の代わりに『ガツン』っと仇を取ってほしいな」


 ガツン——とって、弱っちい僕に出来るわけないでしょ。


「ふふ……これがソラ君との最後の食事か。いや、またいつか会えるよね。世界は思っているより狭いからさ」


「そう……ですかね…………」


「そうさ、いつか会える。君のお母さんも、必ず見つけられる。そしたらまた、四人で。ううん。今度は君の家族も連れて、私達と食卓を囲もうよ。ソラ君の姉として、君のお母さんとお祖父さんに挨拶をしなきゃだしさ」


「え…………? あ、え? ま、まあ。が、頑張ります」


「応援しているよ。君の大切な人との再会をさ…………」


「は、はい…………」


「キッモ。隣でイチャイチャしないでくれない?」


「ははっ。本当に姉弟みたいっスね」


 苦笑しているリップさんが裏の意図などを一切感じさせない様子で言い放ってしまった『姉弟』という言葉に対し、


『キュピン!』

 

 と頭の辺りが光ったエリオラさんは急に立ち上がって、メチャクチャな熱意を発しながら聞き取れないくらいの早口で「ウンタラカンタラ」と熱弁を始めてしまった。


「ということで、弟は素晴らしいんだよ…………!」

        

 口を閉ざすのを忘れて唖然としてしまっていた僕の服の裾をグイグイと引っ張ってきたのは、汗を湛えているアミュアちゃんだ。なにかを聞きたい様子を見せている彼女は同じく汗を湛えている僕の耳に小ぶりな唇を近づけ、囁く。


「ソラさ、アレ聞こえてた? なんて言ってたの?」

 

 この状況、なんか既視感があるな……。まあ、興味津々な彼女には悪いけど——


「なんにも聞き取れなかった!」


「え……?」


「「「ご馳走様でした」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ