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蒼風のヘルモーズ  作者:
『ソルフーレン』編〈1〉

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第17話 旅は道連れだよね

 人歴『千、三十七年』の四月十五日。午前五時という早朝。日が昇り切る前の間帯に閉ざされていた目を開けて、覚醒へと至った僕は『とある仕事』に追われていた。


「………………はぁ」


 僕が行っていたとある仕事は『移動のための荷支度』であった。今日の朝方に僕達は『ホテル・ルーレン西』を出発して、フリューの『西端側』へと向かことになっている。 そこで例の『魔獣捜索』の拠点を認め、新たに用意した拠点を中心とした活動を行なっていこう——ということで。このホテルが存在しているのは西区と言っても首都中央付近であり、壁外活動を行うのには全く適していないのだ。


 前まで拠点にしていたのは『東区のホテル』で、今回のは西区のホテル。しかしどちらにも当て嵌まっていることは、どの門からも『遠い位置』に存在しているということ。では何故、今もなお壁外活動を行うに適してない場所を拠点にしていたかと言うと、それはお嬢様の我儘のせいだ。そんな我儘お嬢様は「明日の朝に、ここを出る」とエリオラさんが伝えた時も「ブーブー! いやいや!」と文句を垂れていた。


 多額の宿泊費を払っていたエリオラさんの一睨みで、お嬢は一旦黙り込んでくれたのだが、同室で横になっていた僕に向けて、

「ねーねー! ブーブー! 聞いてるのっ!?」と彼女が寝落ちするその時まで聴くに堪えない愚痴文句を聞かされ続けていたせいで、朝起きた今でも耳に残っている。

 そもそも僕個人の私物は全てはリュックの中に入っているから、僕が荷支度をする必要など本来は無いのだけども。


「カァァァァァァァァ……ウゥゥ——スピィーー……」


「………………はあ」


 朝起きては着替えを済ませ、そして顔を洗ってから数分も経っていない早々の時間。眠気で下がってくる瞼を擦りながら僕がせっせとまとめる男物ではない荷物は昨日の晩、

「明日は朝早くに出発するらしいんで、出来るだけ早めに起きてくださいね」と僕が釘を刺しておいたにも関わらず、約束の時間を疾うに過ぎている午前六時半、しかし未だに大きな鼾を掻いて爆睡してしまっている彼女の物であった。


 ホテル・ルーレンは荷物配送サービスを行なっているそうで、荷物を東ホテルに放置したまま此処へとやって来て、部屋に入って二時間ほどで荷物が到着したのは心底驚いた。

 だがしかし。せっかくホテルの人が整理整頓してくれていた私物をお嬢様が無惨に散らかしてしまうのもまた早く。


 こんなに散らかして明日の朝にまとめるの大変だぞ。と目を疑いで細めていた僕が、ベットに寝転がるアミュアちゃんに自分で片付けるんだよね? と釘を刺せば、

「余裕! 私にかかればよ・ゆ・う!」と手をヒラヒラさせて余裕有り気な感じだったのに。結局梃子でも起きない彼女の代わりに『僕が荷物を纏めて』いるのである。

 

「よしっ、終わり終わり! ふぅーーっ。大変だったぞ」


 僕は部屋中に散らばされていた、昨晩に着ていた脱ぎたての服に、意味不明な謎のクネクネ人形、それに昨日買った香水や、床で無造作に転がされていた化粧水、それに絶対に似合わないだろう口紅やファンデーションに付けまつ毛など化粧品一つ一つさえも試行錯誤して整理整頓し、アミュアちゃんの中々に大きな旅行鞄への詰め込みを終えた。

 買い食い癖があることを理解している僕が言うのはアレだが、彼女にはもう少し『しっかり』してほしいものだな。さてと。他に散らばっている物は……無さそうだな。一応ベッドの下を……うん、何も無いな。よし、それじゃあ起こすとするか。


「ウゥゥゥゥ…………かあぁ…………すぷぅぅーん」


「起きろーーーーーーーーーーーっっっ!!」


「————あひゃっ!? は、ふはいはいあっっ!?」

 

 朝の早くから荷支度をしてあげていた僕を他所に悠々自適の思うがままな爆睡をかましている、お嬢様もといアミュアちゃんに眉尻を吊り上げた僕は、彼女が眠っているベッドのシーツを両手で掴み、それを思いっきり巻き上げる。

 すると「ギャアッ!」と、荒く波を打つベットシーツと共に宙に身を躍らせた寝巻き姿のアミュアちゃんは、呂律が回っていない声を上げながら支度した旅行鞄に落下した。

 それを認めた僕は「顔洗ってきてください」と言い渡し、状況が飲み込めていない彼女は「はぅぁ……?」と鞄に腰掛けながら目をパチクリとさせ、開口しながら呆けていた。


「まったく……もう朝だよ! …………あっ! もぉー。掛け布に抱き枕のワンピースが巻き込まれてるじゃん!」

 

 ようやく起きてくれた——というか無理やり起こした——彼女はまだ寝惚けているのか、ベットシーツを引っ繰り返して忘れ物がないかを確認する僕のことをボケーと見つめている。 

 もうすぐ出発の予定時刻だというにも関わらず、何一つ準備をしない彼女に肩を竦めた僕は、寝惚け固まっている彼女を抱えて運び、顔を洗わせるために浴室に放り込んだ。

 

「朝から大変っスね、お疲れ様っス」


「本当ですよ……。昨日寝る前には「余裕だわ!」とかなんとか言って退けてたくせに、全然でしたよ」


「ふふふっ。彼女、口だけは『達者』だからね」


 既に支度を済ませて、リビングでアミュアちゃんの準備完了を待っていたエリオラさんとリップさんは、彼女の代わりに早朝から働いていた僕に労いの言葉を掛けてくれた。 そして「ふぁぁ〜……」と大きな欠伸をしながら浴室から出てきた彼女に着替えを押し付け「早くっ!」と急かす。


「分かったてるから…………急かさないでよ……ぁふぁ」


「もう出発の時間が来てるよ!!」


「分かってるってば…………ふぁあぁ……んぅん」


 もはや母親な僕に押し付けられた着替えに身を包むために寝室へと戻ったアミュアちゃんは、リビングで十数分間も待ち続けているにも関わらず一向に出てくる気配がなく。

 その言葉出ぬ状況にエリオラさんが「もしかして、ベットで寝ているんじゃないのかな?」と言ったため、僕が部屋へ確認に入ると、彼女は半泣きで床にへたり込んでいた。


「えっ!? 涙目でどうしたのさ!?」


「…………たっ、タイツが裂けちゃったぁ」


「…………は?」


 一体どうしたんだよと瞠目していた僕は、アミュアちゃんの発言に間の抜けた顔をしてしまうも、彼女が握っていた、普段使っているのだろう黒を基調したオレンジ色の斑点があるタイツを受け取って、それをマジマジと見つめる。

 

「…………? え? どこが裂けてる?」


「はあーっ!? ここよ、ここ! ほらあ! ここ!!」


 アミュアちゃんは、タイツのどの辺が裂けているのかが分からずにいた僕に教えるため、僕が手に持っていたタイツを横から取り、それに腕を通した。そうして現れたのは、タイツの左足部の側面にある『極小』の切り傷的なもので。


「最悪ぅ〜〜〜っ! お気に入りだったのにぃ…………」


「…………あぁ、この程度なら問題ないと思うけどねぇ」


「バカっ! こういう小さな傷から広がっていくのよ!」


「えぇ、あぁ、そ、そうっスか…………」


 女性物のことを何一つ分かっていない僕に対して、アミュアちゃんは寝惚けていたのを忘れたくらいに熱弁する。

 

「まあ。お気に入りのタイツは残念だったけど、こういうのは消耗品だと思うし。うん。だからまあ仕方なかったんだよ。それよりも時間が来てるから、早く支度して」


「はぁぁあああああああ………………はいはい」


 アミュアちゃんはブレることがなかった僕の態度にタイツ共々諦めがついたように、極小の切り跡があるタイツを僕に押し付けて、代わりの物を整理整頓しておいた旅行鞄をひっくり返すことで見つけ、それを強引に引っ張り出す。

 

 それに『せっかくまとめたのに……っ』と先ほどの彼女と同様、あまりにも耐え難い絶望を前にして泣きそうな顔をしてしまっている僕を他所にしながら、用意してあげた着替えに身を包むために寝巻きであるワンピースの裾を持ち上げて——下着と臍が出た瞬間、絶望で膝を突いている僕が寝室の中に居ることに『ハッ』と気づいた。

 

「ばっ、で、出てきなさいよ! ————痛ったぁっ!」


 ボンっと顔を真っ赤にさせたアミュアちゃんは絶望する僕のもとへと大袈裟な足音を立てながらやって来て、いきなり腰蹴りを繰り出した。そして、あまりにも通常通りに蹴った本人が一番痛そうなリアクションを取るのだった。


 結局「これは罰だから」と理不尽がすぎる罰を言い渡されてしまった僕が、別の支度をしているアミュアちゃんの代わりに引っくり返された私物をまとめたとさ……。


「とほほ——ってやつっスね」


「え? と、とほほ……?」


「とほほ——って、なんか古臭すぎない?」


「え、あ……あっ、あは……は。そ、そうっスよねぇ……は、あはは…………」


「「………………」」


「うぐっ、ぐすっ。ウ、ウチなんか殺してくれぇ…………っっ」


 * * *


 昨日と同じロリータファッションに着替えるのに約十分。さらに「こういうのはちゃんとしなきゃなの」と大人振る彼女が多種の美容液を顔に塗り終わるのに約十分。

 さらにさらに「ここに住みたかったのに〜っ」と駄々を捏ね始めた彼女を僕が抱えてホテルを出たのが、昨晩に予定していた出発時刻から『一時間半』も過ぎた頃で。

 

 僕が抱き抱えれば『ウガアッ!』なんて暴れ出すかもと思っていたんだけど、僕の肩に座らされたアミュアちゃんは意外と大人しかったが、しかしある意味で騒がしく……。昨日のボディーガードの設定を引っ張り出しているようで、頭を掴んでは「進みなさい!」と終始上機嫌であった。そんな子供に僕達三人は微笑しながら、ホテルの前に停まっていた私営馬車に乗りこみ、ようやくフリュー最西へと出発する。


 フリューの大西門までは、ここから『十二時間』も掛かるらしく、何度か馬車を乗り継ぎしないといけないそうだ。故に今日は『西方面への移動のみに半日を費やす』そうなので、本格的な魔獣捜索を行うのは明日になるとのこと。その話を昨晩に聞かされていた豪奢な私営馬車に揺られている僕は、程々に気分を引き締めつつ、アミュアちゃんが懐から取り出した『トランプ』で移動で生ず暇を潰した。


 して、白熱した『ババ抜き』の勝負は佳境を迎えていた。


「んぅーーーっ?」


「ふっふっふっ…………」


 残る手札はたったの一枚である僕は、二枚の手札を掲げているアミュアちゃんの橙色の瞳をじーっと見逃すことなく、彼女が目の奥にひた隠そうとしている『動揺』を探る。あまりにも熱すぎる勝負の佳境。両の眼に炎を宿している僕からの視線を真正面から受け止めるアミュアちゃんは『余裕! 余裕!!』と言わんばかりの涼しげな笑みを浮かべているが、しかし。額から一筋の汗を顎先まで伝わせ、地に落とした。

 

 実を言うと、今行われているこの勝負は『最下位』を決めるためのものであって、僕とアミュアちゃんの一騎打ちが繰り広げられていることはつまり、そういうことだった。

 この最下位決定戦に負けたものは『ビリ』という屈辱の汚泥を飲まされる。先に上がっていったエリオラさんとリップさんは苦笑しながらこの勝負の行く末を見守っていて。


 右か——左かの紛れもない『二者択一』。鼓動が早い、呼吸が浅い、視界がぼやけそうになる。もう根を上げてしまいたいのが心の叫びではある。だけど絶対に諦められない。絶対アミュアちゃんなんかには負けられないんだから。正直に心の叫びを上げさせてもらおう。僕は……アミュアちゃん如きに負けたくないんだア——っっ!!


「これだあああああああああああああああああああ!!」


「うわああああああっっっ!?」

 

 指の力を限界まで込めて握られるカード。ささやか言葉が出てこぬほどの最大限の抵抗をしている『敗北者』から、僕は大人気ないくらいの力で『勝利のカード』を引き抜く。

 極限まで凝縮されていた時が流れる世界の中で、驚愕に染まった彼女の表情が、僕の『勝利』を物語っていた——。 


「よっしゃああああああああああああああああああ!!」


「ぶわああああああああああああああああああああ!?」


 僕が発する勝利の雄叫びと、アミュアちゃんの敗北の泥を口いっぱいに入れられた悲鳴が馬車内に打ち上げられる。

 

「チクショーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!」



「僕の勝ちだああああああああああああああっっっ!!」

 

 ババ抜き最下位決定戦で最下位脱出の勝利をもぎ取ることに成功した勝者たる僕は勢いよく浅く腰掛けていた椅子から立ち上がり、ゴンッと硬質な木製の天井に頭を打つけ、馬鹿なことをしてしまったが故の痛みで頭を抱える僕とは対照的に、最下位という汚泥を全身から被ったアミュアちゃんはその汚泥の重みに耐え切れず、椅子から転げ落ちた。


「やっぱり、一番下はアミュアだったね」


「あははっ。っスね〜〜」        

 

 僕は目的地に到着するまでこの『勝利』を引っ張り続け、アミュアさんは『敗北の汚泥』を引きずり続けたとさ——      

         

 * * *


 ババ抜きだの昼食決めのジャンケンだの。なんだかんだが有りつつも、約十二時間という長き移動の末にフリューの最西に位置している『大西門』を目前にしていた僕達は、燦々とする春の陽が落ちきってしまって闇に染まった空を認めながら、早々に魔獣捜索の拠点とする宿探しを始めた。

 

 宿探しの途中でアミュアちゃんからの「夕食はここがいい!」という要望を受けた一行は道端にあった小洒落た料理屋へと入店し、そこで『特製ハンバーグ!』を注文する。

 

 宿泊費や馬車運賃まで奢ってもらっている故に非常に申し訳なかったのだが、僕とアミュアちゃん、それにリップさんも大きさを把握せずに知らないまま注文してしまったあまりにも巨大な牛百パーセントハンバーグを完食できず。 そうして嘔吐く一歩手前で敗北してしまった僕達の残りは、余裕を感じさせる顔でペロリと自分の分を平らげたエリオラさんに「残りは私が食べるよ」と完食してもらった。

 

 流石だ。と敗北者である三人が彼女の胃袋に感心していると、彼女は突然店員を呼んで食後のデザートを注文する。

 え、嘘でしょ? と固まってしまっている僕達を他所に、しばらくして卓に出てきた生クリームをたっぷり使ったケーキを『ペロリ』と素早く平らげてしまったエリオラさん。

 そんなエリオラさんに、事実助けられた僕達は抱いていた感心を優に通り越して、若干引いてしまうのだった……。

  

 そんなこんなで中々にキツかった食事を済ませた僕達は『メニューに料理の大きさくらい書いてよ!』という文句を言いたくなってしまった料理屋をトボトボと出て、宿探しを再開。

 アミュアちゃんは諦め悪く、次なる『高級ホテル』を探していたようだが、やっとのことで発見したホテルはどことなく『桃と紫色の怪しい雰囲気』を醸し出していたため、速足で戻ってきた彼女は真っ赤な顔をしながら、

「あ、あっ、あそこは全然っ、ち、違ったわ……っ」と、それでようやく諦めがついたようで、今度は『普通』の宿を探し始めた。


「さっきの『ピーチジュースホテル』ってもしかして『売春宿』じゃないの? それか性接待の飲み屋なのかも」


 羞恥に染まる真っ赤な顔で黙り込んでしまっていたアミュアちゃんに僕は思っていたことを包み隠さず言葉にする。


「ばっっっ——なな、なわけない! 違うもん! 私のそんなところ探してないし! 違うからアっっっ!!」


「え、うん。別にそれは疑ってないよ。だって、アミュアちゃんなんかが『あそこ』に入れてもらえるわけないし」


「はあっ!? アンタそれ『セクハラ』だからね!? ってかなんで平気そうなの! 私と同じ反応しなさいよ!」


「えぇ?」 


 セクハラ……ね。確かに『女の子』にこんなことを直接言うのはそうかもしれないな。これは反省しなきゃ——か。


「いやぁ、村の男連中に『猥談』とかよく聞かされてたからさ、それで『ああいいうの』まあまあ平気なんだよね」


「そ、それはそれで可哀想ね……。ま、まあいいわ! 私は大人のレディだから許してあげる。次はないからね?」


「へい」


 大人のれでぃ曰く『セクハラ』だったらしい僕の発言を広い心で許してくれたアミュアちゃんは「疲れたからおぶって」と言って、有無を言わさずに僕の背中に飛び乗った。

 今まで行動を共にしていたのだから同じく疲れているはずの僕の首に、容赦など一切感じさせない細い腕を回した。

 当の僕はさっき非礼の件もあり『仕方ないなぁ』と思いながら、彼女が強要してきた『負んぶ』を従順に許容する。


「ふふんっ!」と途端に上機嫌になったアミュアちゃんの体温を背で感じながら、見つからない宿を探し続けていく。

 そして午後の八時が回ってしまっている暗空の西区の内を一時間以上もお嬢様を負んぶしながら探し続けて、やっと見つかったまあまあな宿屋を拠点にすることになった。

 僕の背中に夏場の蝉の如くピッタリと張り付いていたアミュアちゃんは「ブーブー」と、もっと上等な宿がいいと文句を垂れていたが、そもそも他の宿屋の空きがなかったので「ここは仕方ないって。ここを出たら野宿することになるかもしれないよ」と説得すると、彼女は頬を膨らませながら『コクリ』と頷き、この宿に泊まることを了承した。

 

 して、借りれた部屋は四人部屋が一つと一人部屋が一つ。

 

 アミュアちゃんは「一人部屋がいい」と言っていたけど、リップさんが「ウチ、男の子と同じ……?」と呟いて小動物のように震え出したため、それを見兼ねたアミュアちゃんは言いたげだったが文句を言わずに、先に折れてくれた。

 そんな遣り取りを間近で見守っていた僕は、やはり女性のみの集団に紛れる自分に居た堪れなさを感じた末に眉尻を下げて「僕のせいで申し訳ない……」と謝罪する。

 

 すると、頸に手を当てながら視線を下げて腰を折る僕の謝罪に顔を青ざめさせたリップさんが「いややっ! これはウチが悪いっス! だから謝らないでほしいっス!」と凄まじく『ワタワタ』としながらフォローを入れてくれて。

 そして隣にいるアミュアちゃんからも「リップが悪いんだから、気にしなくて良いでしょ」という励ましをもらう。

 まさかまさかの、誰も予想だにしていなかった『アミュアちゃんからの励まし』に、僕達三人は顔を驚愕に染める。

 言葉を失っている僕達の様子に気が付いたアミュアちゃんは心外だと顔を顰めながら「別に! 勘違いしないでよね!」と言ってそっぽを向き、借りてある三人部屋に入っていった。


 そんなこんなで一段落した僕とエリオラさんは三人部屋に、終始申し訳なさそうだったリップさん一人部屋に入り、そこにあるベッドで早々に休息を取る。はずだったのだが。

 

 壁が水気で腐っている浴室の大樽に溜められていた冷水で身を清めた僕が、ホテルのものとは雲泥の差がある硬いベットで眠ろうと目を瞑った、まさにその時。突如として僕の腹部に推定『二十数キロ』の衝撃が加わり、

 それに次いで「イエーイ!」と。僕に飛び掛かってきたアミュアちゃんの大声が就寝モードで静まっていた部屋に響き渡った。

「うぐぅっ!?」と腹部に衝撃を食らって苦悶の声を漏らした僕に、ニヤニヤとした含みのある笑みを浮かべていた彼女は、手に持っていた『とある物』を見せつける。


「うぇ……な、なに? と、トランプ…………?」


「リベンジよ! リ・べ・ン・ジ! 今日の再戦よ!!」


「えぇーーーっ。今しなきゃダメ?」


「今じゃなかったら、いつにするのよ! 今日負けたんだから今日勝たなきゃいけいないの! ほら、起きろ!!」


「え、えぇーー…………」


 そんなこんなで眠いのに寝かせてもらえない僕と、再戦に燃えるせいで眠気が吹き飛んでしまっているアミュアちゃんは夜が更けいるその時まで『ババ抜き勝負』を続けた。


 しかし白熱していた勝負の結果は『僕の全勝』で終わり、結果的に『全戦敗北』を喫してしまったアミュアちゃんは、

「もう一回! もう一回! まだまだ!」と涙目で強請ってきて、それを仕方なく受け入れた僕は、彼女が疲れて寝落ちするまでババ抜きに付き合わされてしまったのである。

 

 なんだかんだで僕が使っていたベッドで寝落ちしてしまったアミュアちゃんのことはそのままで寝かせておき、代わりに彼女が使う予定だったベッドに寝転がる。

 

「はぁ〜〜〜…………」と深夜の午前一時過ぎに大きな欠伸をした僕は目を閉ざして、ゆっくりと眠りに落ちた。が……。


 やはり鳴り響く鼾のせいで、熟睡はできなかったとさ……とほほ。

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