5話 イケメンイケイケ系エルフ
前回までのあらすじ
思いを寄せるミランダを探す為に家を捨て、旅をすることを決めたじじい。
旅をするうえで仲間が欲しいと思ったじじいはギルドを結成しようとイシスの酒場を訪れる。
しかしギルド結成には2人以上のメンバーが必要だったため、じじいはトボトボと酒場を後にするのだった。
「やはり、いきなりギルド結成は難しかったかぁ…」
ギルドを結成することはできなかった。
しかし旅は始まったばかり、こんな序盤でへこたれてはいられまい。
冒険に必要なものが何か考えた私は、すれ違う冒険者の大半が≪防具≫を身に着けている事に気づいた。
私は露店を出しているふくよかな男性に防具を手に入れる場所を訪ね≪大強金マッスルブラザーズ≫という店を紹介してもらった。その店はミリオンシティにあるということで、私は早速そこに行ってみることにした。
私
「ここが大強金マッスルブラザーズ…」
ミリオンシティの大通りから、少しそれた人通りの少なめな道。
そこに大強金マッスルブラザーズはあった。
私
「なんだか独特の雰囲気が漂っておるが・・・」
私は少し緊張しながらも、店の扉を開けた。
店番グレイトマッスル
「おう!!!!いらっしゃいお客さん!!!!」
私
「どうも、お邪魔します」
店番グレイトマッスル
「おう!!!・・・にーちゃーーん!!!!客だーー!!今日2人目の客が来たぞー!!!」
店番をしているグレイトマッスルは店の奥にそう怒鳴ったが返事が返ってくることは無かった。
グレイトマッスル
「おい馬鹿兄貴聞いてんのか!?・・・まさかまた仕事をさぼって筋トレしてるんじゃないだろうな羨ましい!!!」
グレイトマッスルは大きな筋肉を隆起させ、床が心配になるほどの地団太を踏んだ。
グレイトマッスル
「すいませんねぇお客さん!!普段は2人そろって接客出来るんですけど・・・僕だけじゃあ拍力無いっスよね・・・」
ジジイ
「いやいや、十二分な迫力ですよ。私圧巻されてまして・・・」
グレイトマッスル
「嬉しいことを言ってくださるお客さん!!!これはますます兄貴も引っ張り出して接客させねぇと・・・!ちょっと待っててもらっても大丈夫ですか?すぐ兄貴の方をよんできますんで」
ジジイ
「えぇ、大丈夫ですよ」
グレイトマッスルは巨体を深々と下げてお辞儀をした後「お~いインナーマッスル!!!サービス業は接客が命って師匠に教わってだろうがー!!」と店の奥に入っていった。
グレイトマッスルがいなくなったことで店の内装が良く見えるようになった。
店内は金属と木材で作られた広々とした空間にやや大きめのインテリアが絶妙なセンスで置かれていた。
まるで彫刻のように精巧な重装、洗練されたデザインで着ていても走りやすそうな軽装、きめ細やかな結い目が輝きを放つローブ、異国の地の格闘家が身に着ける神を模したマスクまで・・・店のショーケースに飾られていた物を見れば、初めて防具を見る私にだって質がいいものだと分かった。
そういえば今日2人目のお客さんと店番が言っていた。
店内を見回すと長身の男がショーケースに飾られている防具を見つめていた。
髪色は白く、キリっとした目もと。印象的だったのは人間よりもはるかに長い耳だ。
彼はきっと≪エルフ≫という種族だろう。
「エルフを見ることが出来た年は幸福の年になる」という言葉があるくらい珍しい種族だ。
旅の始まりにエルフを見ることが出来て私はラッキーかもしれない。
私はそう思って、白髪のエルフをじーっと見ていた。
すると白髪のエルフは見られていることに気づいたようで私のことを視認した。
白髪のエルフ
「アンタは・・・」
そう呟いた後、突然エルフが私に向かって走り出す。
尋常じゃないスピードだ。店の端からものの1秒2秒で私の目の前に到着していた。
「アンタさっきイシスの酒場に来てたよな!もう老い先短いアンタが、何故ギルドを『作ろうといていた』のか気になってたんだ!なぁ!俺に聞かせてくれよ!」
私
「え、えぇ・・・?」
次々変わる早い展開とテンポのいい会話に、私は少しクラクラとしてしまった。
同刻
ミリオンシティ外れ≪子悪党通り≫
絶対に表には出すことの出来ないミリオンシティの影。
黒い噂の絶えない大商人。公では認められていない奴隷商。暴力や強奪を繰り返す悪徳ギルド。
そういった者たちが好む場所。それが≪子悪党通り≫
そして今日も≪ボス≫の下に足音が事件を運んでくる。
ぼこぼこにされた冒険者
「ボスーー!!!生意気なやつが現れたんすよ!!」
酔いが抜けない冒険者
「俺たちそいつにぼこぼこにされて・・・!クッソ~~~!まだ痛えぇぇ!」
先ほどイシスの酒場で大騒ぎしていた冒険者たちがそう叫びながら大男の前に転がり込んだ。
ボスと呼ばれた男
「なんだそんなことか。そんなもん自分たちで『復讐』すればいいだけじゃねぇか」
ぼこぼこにされた冒険者
「ボス~!!それがダメなんすよ~!」
ふらふらな冒険者
「アイツのスピード尋常じゃなくて・・・あのクソエルフめぇえええ!」
ボスと呼ばれた男
「エルフ?」
ボスと呼ばれた男の声色が変わった。
ふらふらな冒険者
「はぃ~・・・高身長でイケメンのいけ好かない野郎です~・・・」
ボスと呼ばれた男
「そうかエルフか。・・・ッククク」
酔いが抜けない冒険者
「ギルマスの力で倒してくださいよぉ~!お前なら余裕だろ~!?」
「ばか!お前ボスにそんな口きいたら」「…殺されるゾッ!」
ボスと呼ばれた男
「・・・そうだな」
冒険者たち
「・・・っえ?」
ボスと呼ばれた男
「俺の可愛いギルドメンバーがやられたんだ・・・。ギルドマスターとして復讐するのはただの正当防衛・・・」
大男が立ち上がると、その巨体は10mを易々と超えていた。
椅子に掛けていた巨大な愛剣を掴んだ。
「≪ミリオンスラム≫のギルドマスター『ギガント様』が街のパトロールに出発だ」
世界の解説コーナー
≪大強金マッスルブラザーズ≫・・・「黄金の筋肉で筋肉質な防具を!!」というキャッチフレーズが最近話題沸騰の新店。兄インナーマッスルと弟グレイトマッスルを可愛い絵柄で書いた横長の大きな看板がミリオンシティでよく目立つ。
≪エルフ≫
森の守護者の異名を持つ高身長の種族。
生の大半を森で過ごし滅多に人里に降りることがない。
また、2世紀前エルフと悪魔との間に誕生した『ダークエルフ』が世間の話題を集めた。
≪子悪党通り≫
ミリオンシティの西端。
複雑になども分かれた路地を抜けるとここに入ることが出来る。
ミリオンシティの子どもたちには「町の西にはお化けが出る」という教えが国が興された当初から伝えられている。
≪ミリオンスラム≫
ミリオンシティの隅≪子悪党通り≫の冒険者をまとめているギルド。
ギルドマスターはギガント様。ハーフジャイアントであるギガント様は戦闘面、頭脳面ともに非常に優秀。恐喝、契約、暴力、援助。様々な戦略を巧みに使い、ミリオンシティ内での立場を上昇させている。