4話 レベル1の雑魚ジジイ
前回までのあらすじ
海沿いの一軒家で1人暮していた主人公ジジイは、5年前に出会った片思いの相手「ミランダ」を探す為、家の鍵を海に放り投げて旅に出たのだった。
デュラ大陸西端の町≪ミリオンシティ≫
ミリオンシティから西に進めば≪マザーオーシャン≫北に進めば≪レクトム・パールヴァティ≫が広がる。
レクトム・パールヴァティ・・・エルフ語で古い森林という意味を持つ。
東には≪ドカチフ共和国≫が建造した≪交易街道≫が敷かれており、陸路では装備や日用品を、海路では新鮮な食材や異国の品を、そして森のエルフたちからは森でしかとれない貴重な作物や宝物を提供していた。
中にはミリオンシティを≪西1番の貿易都市≫と唄う者もいるほどだ。
多様な土地から豊富な物資を展開し、人々の貿易により栄えた町。
それがミリオンシティなのだ。
そんなミリオンシティに、今宵一人の旅人が訪れる。
濃茶のジャケットに身を包んだ旅人は70半ばで初心者『レベル1の雑魚ジジイ』だ。
ジジイ
「やっと着いたわい…なんだか久しぶりな気がするのぅ」
私は家を出た後、半日をかけてミリオンシティまでやってきた。
昔は往復6時間で来れていたこともあり、歳を取り体力が落ちているのだと感じた。
ジジイ
「…しかし」
私は帽子を軽く持ち上げて街を見上げた。
ジジイ
「もう帰らない旅をしていると…この場所も違って見えるものだ」
多少見慣れたこの街に来るのも今回で最後だろう。私は思い人でるあるミランダにポロポーズをするため、いつ終わるとも、いつ死ぬとも分からない旅を始めているのだから。
私がミリオンシティに立ち寄ったのには、ちゃんとした理由がある。
ミリオンシティは貿易で栄えた街。そして貿易には商人が必要だ。
しかし商人は大抵、自ら戦うスキルや、武器、そして武器を扱える技術を持っておらず身を守る手段がない。だから商人は冒険者を雇うのだ。冒険者は商人から依頼料を受け取り、依頼された道を護衛する。
商人の多い≪ミリオンシティ≫には商人を護衛する冒険者も数多くいるのだ。
私は≪イシスの酒場≫を訪れた。
≪酒場≫は冒険者の拠り所。
クエストボードでは護衛の他に、討伐、採集等の依頼を受けることが出来る。
気が合った冒険者同士でパーティーを組み、共に旅をすることもあるそうだ。
しかし、私の目的はそのうちのどれでもなく。
ジジイ
「すいません、受付の方」
私は受付に座っている若い女性に声をかけた。
茶髪の看板嬢
「あら素敵なお爺様。今日はどうされましたか?」
ジジイ
「いや…その…ギルドを作りたくてのぅ」
そう、私は依頼を受けに来たわけでもパーティーを組みに来たのでもない。
昔から憧れていたギルドを作るためにここに来たのだ。
茶髪の受付嬢
「ギルドですか…う~ん。そうですねぇ」
私の発言を聞いた受付嬢は少し困ったような顔を浮かべた。
茶髪の受付嬢
「大変申し訳ございません」
ジジイ
「えっ?」
私はギルドについての説明を受けた。
ギルドは成人した全ての人が酒場で≪ギルドメンバー募集書≫を書くことで結成することが出来る。
そこは間違ってなかったのだが、もう一つ条件があったというのだ。
条件は「ギルド結成には最低でも2人のメンバーが必要」というものだった。
私は肩をがっくりと落とし、若い冒険者に笑われながら酒場を後にした。
人生最後の旅、ずっと憧れていたギルドを結成してみたかった。
私の小さな夢は人数が足りないという簡単な理由で打ち消されてしまった。
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とぼとぼと酒場を後にした場違いの老人。
冒険者たちは老人を笑いものにしていた。
冒険者A
「だーっはっは!!!あの爺さん何しに来たと思ったらギルド作りたかったのかよ!」
冒険者B
「場違いで!それでいて情報不足だ!とんだボケジジイだな!」
冒険者C
「一人じゃギルドどころかパーティーも組めねえよ!さっさと死ねよクソジジイ!それで天国の嫁さんにでも抱っこしてもらうんだな~!」
「だーっはっはっはっは!!!」
冒険者たちは大声で笑っていた。
???
「…うるせえなぁ」
冒険者B・C
「あぁん!?」「誰だいまうるせぇっていったやつ!!…文句があんならかかってこいやぁ!」
???
「いちいち騒ぐな…店の迷惑だろうがおバカども」
そういって、1人の男が立ち上がった。
スラっとした長身、銀髪の隙間から覗く褪せた緑の眼はやかましい冒険者達をギロっと睨みつけていた。
冒険者A
「お前は…ほーん。エルフのようだな。人間様に混じってお仲間気取ってんのか?このクソ蛮族が!!」
エルフ族の男
「喧嘩は買うがやるなら外だ、付いてこい」
エルフ族の男はそういって飲んだ分の貨幣をテーブルに置き店の外へ出て行った。
「……ナメてんじゃねぇぞぉ〜!!」と出て行った。その後、ボコボコになった冒険者が酒場に帰ってきたが、エルフ族の男が帰ってくることは無かったという。