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3話 合鍵と椅子

私が道端で助けた美女。

名をミランダ・サクロース。

私とミランダは夜遅くまで騒ぎまくって疲れ果て、死んだように爆睡した。

翌日、私が目を覚ますとミランダの姿は無く、代わりに1通の置き手紙がテーブルの上に置いてあった。

彼女曰く「ギルドの仲間が待ってるんだ」らしい。


「ステーキごちそうさま。戦いが終わったらまた来るよ。今度はギルドの仲間も連れてな。だからそれまで長生きしろよ!!!」


手紙にはそう綴ってあった。



テーブルを埋め尽くしていた皿は、全てキッチンの水切り台に立てかけられていた。

昨日があんたに楽しかったからだろうか。

20年住み続けたこの家が、ひどく静かに感じた。


「長生きしろよ…かぁ。そうじゃなあ、ミランダが帰ってくる時まで待つとするかのぅ…。あっ!まだ椅子が壊れたままじゃった!!」


私は待つことにした。

人生最後に惚れてしまった思い人を、出来るだけ元気な姿で歓迎できるように。






~5年後~

私はマザーオーシャンが一望できるウッドデッキでコーヒーを飲んでいる。

安物のコーヒー豆は不味く感じるが、海を見ながら飲むコーヒーは悪くないように感じた。

今座っている5年前に修理した椅子は、初代椅子に比べ大分ちゃちな作りとなっているがそれも仕方が無いだろう。


季節は冬。

毎年この季節には、トラベラーバードが海へ飛び立つ姿が見れる。

私の住んでいる大陸西はアイスウォールマウンテンの影響を受け、激しく冷え込む。

トラベラーバードは温暖な気候を求め、マザーオーシャンに飛び立つのだ。


その時、トラベラーバードの群れが私の頭上を通り大海原へと飛びたった。

彼らはこれから仲間と共に、果てしなく長い海道を大飛行するのだろう。


「ギルドの仲間が待ってるんだ」


5年前の記憶がよみがえる。


「戦いが終わったらまた来るよ」


ミランダは、いつ来てくれるのだろうか…。

5年前、隣町まで軽く歩けていた足。足は年を重ねるごとに悪くなる一方、最近はウッドデッキに来るのにも1時間かかるようになってしまった。


「よっこいしょ・・・うああ!!」


コーヒーを飲み終え、椅子から立ち上がろうとしたのだが後ろ向きに転んでしまった。


バキッ…!


いつか聞いたことのある木材が折れる音がした。

もう一度立ち上がり、地面に砕けた椅子だったものを見下ろす。

また作り直さないといけないのか…。

そう思ったとき、わしはある考えを閃いた。


「こっちから…会いに行くか…」


私はコーヒーカップを手に目を細めながら、マザーオーシャン見つめた。





…後日。

私は濃茶のジャケットを羽織り、3本のネクタイの中でも一番のお気に入りを巻いた。

ベルトを締め、ジャケットと同じ色のつば付き帽子を被る。

そして家の鍵を閉めた。


「久しぶりに走ろうか…」


低い道草を踏みながら、わしはある場所を目指して走ってみた。

久しぶりの運動に足腰が悲鳴を上げていたが、ウッドデッキにたった5分で着くことが出来た。


「ハァ…!ハァ…!走ったらこんなに近かったのか…!!」


エホッ、エホッと咳き込みながらわしはポケットから家の鍵を取り出した。

そして大きく振りかぶり、


「そりゃー!!!」


と言いながら、鍵をマザーオーシャンに投げ捨てた。


「…っよし!もう家には入れないぞわしぃ!もう行くしかないぞぉ!!」


わしは大海原に向かって声を高らかに叫んだ。


「ミランダ~!!!」






「好きだあああああああ!」


こうして、私は人生最後で最大のプロポーズをするための、愉快な大冒険が始まったのじゃ。

冥途の土産話にしては、価格が高めになりそうじゃ。




P.S.

海でGGIはこうも叫んでいました。

「結婚してくれ~!」「可愛いぞおおおお!」







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