1話 人生を変える出会い
皆様は≪ギルド≫なるものをご存じでしょうか。
…えぇ。そうです。
その認識で間違っておりません。
あなた様の仰る通り、ギルドとは…
冒険者、商人、兵士…。
人族・エルフ族・ドワーフ族…。
たくさんの職業、さまざまな種族が互いを仲間と認め、まるで家族のように集まる組織のこと。
ギルドで活動する者たち。
あるときは空を悠々と飛翔するドラゴンと戦い
あるときはくだらない馬鹿話で酒場を追われ
またあるときには、裏切りによって傷ついたりすることも。
楽しかったこと。悲しかったこと。悔しかったこと。嬉しかったこと。
たくさんの感情を仲間と共に体験することで結束を強めていく。
私は、ギルドというものに憧れていました。
憧れ続けて幾星霜。
畑を耕す三本鍬を握る手のひらは枯れ木のように干からびて。
私の人生はもう直ぐ、この畑の養分になるのだと思っていました。
今日、この日までは。
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見上げれば、絵に描いたような白い雲と水色の空。
木々の間を吹き抜けたほんのりしょっぱい潮風が、トマトとナスを揺らしていた。
ここはデュラ大陸の最西端。小さな森に囲まれた私の家と畑がある土地だ。
森とはいっても少し歩けばデュラ大陸西に広がる大いなる海≪マザーオーシャン≫に辿りつく。
街は遠く少し不便なところもあるが、私はこの自給自足の暮らしが悪くないと感じていた。
安物のコーヒーをカップに注ぎ、家のドアを開け手作りのウッドデッキへ向かう。
もう少し家から近い場所に作った方がよかったといつも思う。
手作りの椅子に腰を掛け、冷めかけのコーヒーを飲んだ。
ウッドデッキは20年ほど前に、マザーオーシャンがよく見える海側に作った。
コーヒーは安物で味も薄いが、大海を眺めて飲むコーヒーは悪くないと思えた。
・・・ピト。頭に水滴が落ちた。
海の向こうに暗雲が見える。
どうやら一雨来るようだ。
半分ほど残っているコーヒーを一気に飲みほし、勢いよく立ち上がる。
その時、バキッと何かが折れる音がした。
立ち上がった時に力を入れすぎたせいで、手作りの椅子が壊れてしまったのだ。
「20年も持ってたのにぃ~~!!!」
雨が激しくなってきた。
曇った窓からどんよりと畑を眺めながら、私は壊れた椅子をどうしようかと考えていた。
デュラ大陸を襲った大雨から3日後…。
私は久しぶりに外出の準備をしていた。
普段はクローゼットの最深部で眠っている濃茶のジャケット。
3本のネクタイを並べ、どれにしようかなてんのかみさまのいうとおり。と唱え手に取った。
ベルトを締め、髪を軽く解かした。
そして、家の鍵を閉めた。
今回の外出の目的は、加工された木材の購入だ。
3日前の大雨によって大破した椅子。
それをもう一度作り直そうと考えたためである。
雨に降られて、椅子も壊れた。
私はつくづく運がない。
彼女も70年いない。
私はため息をまき散らしながらここから一番近くにある町「ミリオンシティ」を目指し歩き始めた。
ミリオンシティへの道のりは徒歩で3時間といったところだ。
一番近くの町と言うこともあって幾度も通った道だ。
モンスターもちょくちょく見かけるが、
私のパンチで消し飛ぶ≪ふよふわスライム≫や
私のキックで消え飛ぶ≪よわーいラビット≫など低レベルの激弱モンスターばかりだ。
ここで死にかける人など恐らくこの世にはいないだろう…。
そんなことを考えながらよたよたと進んでいく。
すると草むらに≪ふよふわスライム≫と≪よわーいラビット≫が集めっているのを見つけた。
何か珍しいものでも落ちていたのだろうか。
少々気になったわしは道を少しそらし、モンスターの集まっている草むらへ行ってみることにした。
ふよふわスライムたちを殴り飛ばしながら進んで行くと、わしは驚くべき光景を目にしたのだった。
見たことがないほどに美しい女が、傷だらけで倒れていたのだ。
金属製の鎧はところどころ砕けていて、隙間から白い肌をのぞかせていた。
「ひぇええええ~!ろ、ろしゅつきょ~!?」
大声を上げて逃げようとしたわしの足はがしっと何かに捕まれた。
目を閉じていた美しい女の目は開いていて、両腕でわしの足を掴んでいたのだ。
そして一言。
「露出狂・・・では無い」
と呟いた。
名誉挽回の言葉に体力を使い切ったのか、腕の力が緩み再度倒れてしまった。
最初こそ慌てふためくわしだったが、次第に落ち着きを取り戻す。
そして、気絶した女を背負い家に戻ることにしたのだった。