推しの幸せ
よりによってクリスマス、推しの結婚報道がでた。お相手は一般人で赤ちゃんもいるらしい。
推しは若手俳優で、これまでは恋愛報道も全くなかった。真面目なタイプで子役から活躍しているが、寝耳に水だった。
「これは、ショックよな……」
「うん……」
同じく推し仲間の一人と慰めパーティーを開く。私の狭いワンルームは、クリスマスケーキ、チキンなどの匂いで充満する。当然のように缶ビールも開け、二人でやけ酒。こんな惨めなクリスマスを過ごす私達って色々終わってる……。
ついついお相手の事も考える。もちろん、自分たちファンが相手にされる可能性はゼロだが、夢が壊れてしまったというか、推しが遠くへ行ってしまったというか。一緒にいる推し仲間の瑞希も複雑な表情だった。
「悲しいなぁ。なんか、モヤモヤするね」
「そうだな……」
グズグズと二人で泣いてしまった。クリスマスケーキやチキンも美味しくない。酒も美味しくない。こんなの全く慰めにならないと思った時、テレビからこんな言葉が流れてきた。
「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」
テレビでは海外のクリスマス文化が紹介されていた。その中でアメリカのクリスチャンが教会で聞いた聖書の言葉が紹介される。その人は陸上の選手だったが、脚を壊して引退。しかし、この言葉を聞き、現役のライバルなども応援できるようになったとか。また教会で一緒に泣いてくれる人もいて、立ち直りも早かったと話す。
「そうか。うちらも推しの幸せも喜ばないとダメじゃん。私……」
こんなテレビを見ていたら、重要な事に気づいてしまった。グズグズ悲しむだけで、結局自分の事しか考えていなかった。今すべき事は、推しの幸せを願う事ではないのか。
「そうだね。推しの幸せを願おう」
こうして二人で推しの幸せを願う。まだまだ少し悲しい。それでも今は喜びのようなものも心の宿り初めていた。
「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」。
外人のよくわからない宗教・キリスト教の言葉だが、これだけは意味がわかる気がする。
やっぱり推しが幸せなのが一番だ。きっとファンは全員そう願ってる。私達はもう一度推しの幸せを祈っていた。
メリークリスマス。
今日ぐらいは自分ではなく、人の幸せを祈りたい。推しも、そのパートナーも、生まれてくる赤ちゃんも、全員祝福されますように。