羊飼いのクリスマス
アトピー性皮膚炎があるのがコンプレックスだった。高校生になった今は症状も落ち着いてきたが、手の平や指先に症状がでて辛かった。
そんな僕だが、一応クリスチャンでもある。今はクリスマ時期でソワソワしていた。教会も新しく人が来ている。今日の礼拝では隣に新しい人がいたので声をかける。僕よりは少し年上の大学生ぐらいか。メガネをかけサブカルっぽい雰囲気。
「俺は陰謀論経由で聖書に興味を持ったんだ」
「へえ」
「自慢じゃないが詳しいよ」
彼はネットで得た聖書の知識を披露し始めた。よく勉強しているようで頭も良さそうだ。
「その手荒れ、アトピー?」
「え、あ」
突然その話題になった。嫌な話題で声が出ない。
「それは罪のせいだよ。お祈り足りてないんじゃない? 俺は祈って献金したら収入上がって資格も取れたよ」
無邪気にそう言う。彼には悪気は無いんだろうが、マウントを取られた気分になった。上手く笑う事ができなかった。
自分は弱い。顔も良くない。成績も良くない。運動もできない。おまけにアトピーもちのスクールカースト底辺の男。
あの彼と比べて、自分の価値も低く感じてしまう。彼のように勉強熱心でもない。祈りが足りないとか言われると、なかなか辛いものがあった。
その後、何となくモヤモヤとしてしまい、礼拝に行けない。明日はクリスマス。イブ礼拝もあるのに。
そんな時、ふと部屋から夜空を見る。キラっと星が光って見えた。
気のせいか?
もう一度窓から空を見たが、いつも通りのそれだった。見間違いだったかもしれないが。
そういえば、クリスマスは星が象徴的だ。何か神様から伝えたい事がある気もして聖書を開く。ちょうどイエス・キリストの誕生シーンが目につく。
イエス・キリストの誕生を最初に知ったのは羊飼いだった。当時の羊飼いは社会的弱者だったという。これは、どんな弱者でも何もできない人へも救いがある事を示している?
そもそも神様は赤ちゃんという一番弱い立場で謙ってこの世に来てくれた。社長が汚い泥だらけの工場に来てくれるようなものだ。「俺は神様だ」なんて偉そうにはしていなかった。
「そっか。神様は、こんな僕にも救いがあるって事示してるのか……」
それが分かると、さっきまでの心の苦しさは消えていた。むしろ心がじんとして温かい。
もう一度夜空を見る。もう星も何も見えないが。
明日はイブ礼拝に行こう。クリスマスは、キリストのミサ(礼拝)という意味だ。そんな正統的なクリスマスが過ごせる事は楽しみで仕方ない。