胡蝶蘭のある食卓
婚約者は多忙だった。よりによってクリスマスも海外出張が決まり、会えない事が決まる。
別にクリスチャンでもないし、クリスマスなんて元々宗教のお祭りだろうと意地を張りたいが、華やかな街でカップルにすれ違うと楽しいわけでもない。北風も寒い。なぜこんな寒い時期にお祭りがあるのだろうか。十二月二十五日がイエス・キリストの誕生日というが、絶対嘘だと思う。この寒さで家畜小屋での出産は、いくら聖母マリアでも無理だろう。
そんな事を考えつつ、夕飯の支度をする。冷凍していたご飯を温め、冷蔵庫にある残り物の野菜炒める。この炒め物は、野菜だけでなく竹輪とウィンナーも入っているので豪華だが、何という名前の料理賀わからない。こうして一人暮らしで自炊をしていると、残り物で作る名も無き料理がよくある。
ピンポーン。
ちょうど食事の準備ができた時だった。チャイムが鳴り、出て行くと宅配員がいた。
「お届け物です」
それは婚約者からのものだった。中身は花だった。
鉢に入った胡蝶蘭だ。ヒラヒラと蝶々のような派手な花だが、さほど大きくもない。色もピンク色で可愛い。ちょうど食卓の上に置くのが、ピッタリなサイズ感だった。
食卓に置くと、一気に華やぐ。名前にない野菜炒めも、光を当てられたみたいに見える。
婚約者からのカードも一緒に入っていた。
麻弓へ
クリスマスは仕事で悪かった。その代わりといってはなんだが、胡蝶蘭を飾ってくれ。花言葉は、「幸福が飛んでくる」だ。クリスマスも麻弓に祝福があるように。文也
こんなカードを貰い、もう「寂しい」なんて気持ちは消える。
胡蝶蘭の花言葉のように、本当に幸運が飛んできたみたい。ヒラヒラと蝶みたいな花を見ていると、そんな気がする。
クリスマスは、彼と距離が離れていても大丈夫。この胡蝶蘭が側がいる。一人ぼっちじゃない。
「ありがとう」
そう胡蝶蘭に話しかけ、私は食事をはじめていた。