シャンメリー
一年前のクリスマス、大失恋をした。
五年以上付き合っていた男がいたが、実は奥さんがいた。遊びだったのだ。不倫ですらなかった。
確かに毎年クリスマスは仕事だと言っていたけれど。仕事で多忙なのは事実なので、すっかり騙されていた。
馬鹿だった。もう若くもないのに五年も無駄にした。
失恋のショックでしばらく酒浸りだった。アルコール中毒一歩手前だった。
医者にも酒を止められ、カウンセリングを受けるようになった。
幸い、カウンセリングの効果があり、禁酒出来ていたが、今年もクリスマスがやってきた。
華やかで騒がしい街並み。幸せそうなカップル。笑顔溢れる家族連れ。ワイワイ騒ぐ学生グループ達。
そんな風景だけでも暴力装置のようだ。
アルコールに酔い、現実逃避したくなる。
「だめ。だめよ……」
スーパーに入るとお酒コーナーに入りたくなたが、必死に自制心を働かせた。
「あ、シャンメリー」
惣菜コーナーの側にシャンメリーが置いてあった。子供向けの飲み物だ。ドラえもんやキティちゃんなどがデザインされている。
確かこれだったらアルコールは入っていないはずだ。
見た目はお酒っぽいが、これだったら飲酒にならないだろう。
惣菜のチキンと共にシャンメリーをカゴに入れる。キティちゃんのデザインのにした。
思えば子供の頃のクリスマスパーティーでもよく飲んだものだ。
母が手作りケーキを焼いてくれて、父が人形やゲームなどプレゼントを買ってくれたっけ。
すっかり忘れていたが、子供時代の思い出に胸がじんとしてきた。甘くてシュワシュワなシャンメリー。お酒ではないが、あれを飲むと早く大人になりたいと夢が持てた。未来に希望に溢れていた。
今までは自分が被害者だと思っていた。失恋し、悲劇のヒロインになり、世界を呪っていたが、自分にも幸せだった日々があった事を思い出す。
希望を持っていた事も思い出す。
もう両親は他界してしまったけれど。きっと今飲むシャンメリーの味は物足りないはずだけど。
スーパーを出て、シャンメリーとチキンの入って袋を持ちながら歩く。
クリスマスの風景も暴力に見えなくなった。
もう被害者はやめよう。悲劇のヒロインも終わりにしよう。
幸せになりたい。
いや、幸せになる。
そう決意すると、世界はいつもより優しく見えた。