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赤い薔薇のプロポーズ

 世の中金だ。


 金が一番だと思う。金さえあれば、何でも買える。何でもできる。


 茉莉花は、そんな考えを持っていた。


 こんな茉莉花でも、昔は金に執着心はなかった。貧乏ではなく、一般的な家庭で育ったが、大学生になった時、ホストにハマった。


 友達に連れられて軽い気持ちで行ったが、すぐにハマってしまった。無条件に愛されている気がした。


 ホストに対してそう思うのは、矛盾しているだろうが、今の茉莉花には冷静さが消えていた。


 問題はその金が尽きてきた事だ。貯金やバイト代を使い果たしている。


 困った茉莉花は、闇バイトを探していた。茉莉花のルックスではパパ活は難しく、闇バイトが最善な気がした。怪しいものでもお金が稼げればいい。世の中お金が全て。愛も買える。


 茉莉花はSNSを見ていた。目を皿のようにし、闇バイト求人を探す。表向きは美容系の発信しているアカウントが闇バイトも斡旋しているという情報も見つけ出し、さっそくDMを送ったところだ。


 時はクリスマスに近い。推しのホストと過ごす為には金が必要だ。そう、お金だ。金が全てだ。


 そん事を考えながら、クリスマスの街を歩く。イチャイチャしているカップルとすれ違うが、どうせどっちかが貧乏、病気にでもなったら別れると冷めた目で見る。ホストに入れ込む今は、何かが歪んで見える。


「結婚してください!」


 街中では公開プロポーズをしているカップルもいた。クリスマスだからか、こういう光景は特に珍しくはないが。


 茉莉花は冷めた冷めた目で見ているが、野次馬はそこそこ盛り上がっていた。


 若い男女のようだ。男はスーツ姿で気合いが入ってる。


 女の方は……。


 車椅子に乗っている女だった。よく見えないが、片足が見えない。


 女はこの状況に戸惑い、俯いていた。野次馬に見られている事か、プロポーズされている事かは不明だが。


 下らない。


 こんな公開プロポーズなんて勝手にしていればと思ったが。男は女に赤い薔薇の花束を渡した。


 臭い演出にさらに冷めるが、野次馬は盛り上がっている。


 確か赤い薔薇の花言葉は、「愛」だっけ。そんなものも金があれば何とかなるだろう。


 茉莉花にの心は氷点下ぐらいに冷めきっていたが、男はこう言った。


「あなたとなら、どんな不幸も苦労も一緒にいたいのです」


 そして赤い薔薇の花束を渡す。


「どんな老いぼれても病気になっても……。どんな時も」


 ここで戸惑っていた女は、戸惑いながらも赤い薔薇の花束を受け取った。


 このプロポーズは「はい」という事なのだろう。


 わからない。苦労を共にしたいという男の言葉が。


 でも、それが愛?


 もしかして換金や何かとトレードできないのが愛?


 なぜか心がザワザワとしてきた。茉莉花がお金と引き換えに得ていたホストは、本当に愛? 無償の愛?


 わからなくなってきた。


 もし、自分があに女のように車椅子に乗るような生活になったら、どれぐらいの人が側に残るのだろうか……。少なくともホストは去っていくだろう。簡単に想像出来た。


 そんな想像をしたら、怖くなってきた。誰も側にいない想像も出来た。怖い。


 それに大金を稼いでも、ずっと維持し続けるのも大変そうだ。ホストだって永遠の人気は維持できないだろう。彼らが老いた時、茉莉花も顧客になるのは辞めるだろう。


「闇バイトは、さすがに辞めるか……」


 ホストを辞める自信はないが、今は闇バイトが辞められそうだ。


 SNSのアカウントを削除した。


 数日後、連絡を取ろうとしていた闇バイトの元締めが逮捕されたと報道されていた。薬、強盗、殺人など余罪が山ほどあるらしい。そこで闇バイトをしていた若者も逮捕者が出ていた。


 命拾いした。安易にそんな金稼ぎをしないで良かったと思う。


 そう思うと、ホストに貢ぐのも嫌になってきた。いくら貢いでも結局何も残っていない。確かにお金があれば何でも買えるが、無償の愛だけは手に入らないと気づいてしまった。


 今年のクリスマスは、こんな苦味に満ちて終わった。


 来年のクリスマスは、もう少し大人として成長していたい。


 あの男が渡していた赤い薔薇でも買って部屋に飾ってみるか。愛なんてわからないが、何かが見つかりそうな予感がしていた。

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