コンビニのクリスマスケーキ
クリスマスなんて関係ない。今日も仕事だった。しかも残業。本当に社内はクリスマスなんて関係なしという雰囲気だったが、退社すると、街の雰囲気は違うと実感する。
キラキラ輝くクリスマスツリーやイルミネーション。カップルも多い。グループでチキンやケーキを抱えているものもいる。
北風が吹く冬だが、街は何となく甘くて華やかな雰囲気に満ちている。
一方、俺は今日も仕事。いつも通りにスーツ姿も、何だか侘しい。
自分のようにクリスマスを一人で過ごすものは、クリぼっちというらしい。もうアラサーすぎると、結婚している友達も多いし、イベントで騒ぐのも正直疲れる。確かにこの時期に恋人がいないのは、完全に楽しいわけでもないが……。
そんな事をぼんやりと考えながら、家の近所のコンビニによる。
意外な事にクリスマスの夜のコンビニは、普通だった。確かにレジのそばにチキンやコーラがフューチャーされていたが、店員もテキパキと仕事し、「いつも通りですが、何か?」という顔をそている。
俺はそんな店員の気持ちがわかる。もう大人になると、イベント事は日付の活字で、どうでも良い感じ。子供や若者のようにテンション高く、はしゃぐ気にはなれない。
そうは言っても。
コンビニのチルドコーナーへ行き、ケーキを一つ手に取る。
大きなケーキではない。ホールケーキはファミリー用だろう。
俺が手にしたのは、手のひらサイズの一人用ケーキだった。
コロンと丸い筒型だ。たっぷりと白いクリームがぬられ、てっぺんにイチゴが一つ。まるで火がつけられたキャンドルのようなフォルムに見えた。
そういえば、教会でもキャンドルを灯すらしい。子供の頃、母嫌に連れられてクリスマスの教会に行った事があるが、なぜかみんなと一緒にキャンドルを灯した事を思い出す。
思ったより教会のクリスマスは地味だった。牧師の説教もかなり眠かった記憶がある。
クリスマスはイエス・キリストの誕生日というが、実際のその日の教会はかなり地味だ。俺のようにコンビニでケーキを買って満足するクリスマスも、悪くないはず。
セルフレジに行き、会計をすます。最近はセルフレジも一般化され、店員の負担も減ると嬉しいが。
「ありがとうございます」
しれでもコンビニを出る時、店員の声。最低賃金レベルの給料で、そこまで丁寧にしなくても良いと恐縮する。
思えばこの夜も、たくさんの人が働き、社会を支えているのだろう。中には給料が低く、軽んじられている仕事もあるかもしれないが、彼らがいなくなれば社会は崩壊するだろう。
今買ったケーキを食べられるのも、働く人がいるおかげだ。このケーキが届くまでの過程を想像すると、宝物のようだ。
小さな一人用のケーキだが、ご馳走だ。
コンビニを出ると、雪がちらついているのに気づく。ホワイトクリスマスのようだ。これから美味しいケーキを食べる事を想像すると、気分は華やいでいた。