フラキンセンスの入浴剤
彼女からフラキンセンスの入浴剤をもらった。フランキンセンスなんてよく知らないが、パッケージを見るとアロマの一種らしい。あと、クリスマスと関係があるようで、マリアとヨセフ、それに赤ちゃんイエス・キリストのイラストも印刷してある。
僕はこれでもキリスト教系の大学に通っているので、そこそこ知識はある。クリスチャンではないが。
聖母マリアが処女で神の子イエスを妊娠し、当時婚約中だったヨセフと共に住民登録の為に地元ナザレからベツレヘムへ向かう。
泊まる場所がなかったマリアとヨセフは、家畜小屋へ。そこで出産し、イエス・キリストが生誕する。最初に彼を見つけたのは、羊飼い。
それに東方の三博士も星に導かれてやってくる。この博士たちは、黄金、乳香、没薬をイエス・キリストに贈った。
このぐらいは僕でも知っていたが、彼女によるとこの乳香というのがフランキンセンスと同じものらしい。
「へえ。どうなんだ」
「いい香りだよ」
しかし、その後、彼女からはバッドニュースを聞く。シフトがどうしても調整できず、クリスマスもバイトになったという。
本当に悪い知らせだが、仕方がない。彼女はファミレスでバイトを経っているが、子持ちのパートも多いという。自ら率先してクリスマスのシフトを入れた可能性もある。さすが、いい女だ。
だから、文句を言っても仕方ない。僕には、彼女から貰ったフラキンセンスの入浴剤があるではないか。
クリスマスの夜、さっそくこの入浴剤を風呂に入れる。シュワっと発泡し、色はクリア。
「おお、いい香り」
奥ゆかしく、繊細な香りだった。彼女っぽい香りじゃないか。
湯船に浸かり、この香りを楽しむ。
入浴剤のパッケージの裏には、さらにフラキンセンスの説明があった。
この香りはキリスト教では欠かせない香りで、祈りを象徴しているらしい。ミサではこの香りを焚く事もあるらしい。
祈りか。
祈りなんて自分には関係ないが、今日は何だかしてみたい。湯船につかり、全身が緊張から解放されているせいか知らないが。
家族や友達、彼女。それに大学の先生たバイト先の店長、先輩。
色々な人を想い、祈ってみた。
今日ぐらいは自分だけでなく、他人の為の祈りもしてみたくなった。
もちろん世界平和も。
ニュースを見ると、辛い場面も多いが、一刻も早く平和が訪れて欲しい。願い、祈った。