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ヨセフ推し

「そう思うと艱難前携挙か? いや、イエス様の言葉を思い出すと、やっぱり艱難後の可能性も大いにある」


 ここは大学の聖書研究会の一室。単なるサークルだと思ったら、濃いトピックが繰り広がれていた。


 特に聖書のヨハネの黙示録を持ち出し、イエスの再臨はいつか?とサークルの連中が語りあっていた。


 部員は三人。


 全員男で冴えない感じだった。ネットスラングでいえばチー牛と言いたくなるような連中だ。この人達は全員クリスチャンのようだが、いわゆる聖書ヲタクというものだろう。狭い部室の中には、神学や聖書がずらりと並ぶ。特に聖書は色々な訳があり、カルチャーショックだ。もっともカルトが訳している聖書も教えてくれたので、騙されずにすみそうだが。新改訳、共同訳、ギデオン協会の聖書だったら大丈夫だという。ギデオン協会の聖書は、ホテルに置いてあるもので、外国人観光客の為にも置いてあるが、自殺防止目的もあるらしい。イエスの復活や三位一体説を否定していたり、良い行い(主に献金)で救われると勝手に解釈しているのは、カルトだと説明してくれた。


 この聖書研究会に来ている理由もカルトだった。キャンパスでカルトの勧誘を受け、困っているところのこの三人に助けられた。聖書を引用しながらカルトの妄言を論破する様子は、ちょっとかっこよかったが、今は聖書ヲタクっぷりを披露し、なんだかなぁ……。


 もっともおやつとして出されたトラピストクッキーは美味しく、この部屋から出るタイミングを失う。他にも修道院菓子も出してくれたが、ごま味やチョコ味のクッキーはバターたっぷりで美味しい。


「で、今の時期はクリスマスだ。今一度マリアの処女受胎について検証したいと思う」


 トピックは聖母マリアにうつった。


 聖書では処女としてイエスを妊娠したというが、私は全く意味がわからない。他の男とアレしたと思う方が自然ではないだろうか。


 それを言うと、サークルの連中は目から鱗が落ちたという顔をしていた。


「確かにそうだな」

「我々は頭おかしい感じに聖書を鵜呑みにしていたが」

「そういう考えもある。もっともだ」


 意外な事に私の意見も否定されず、普通に受け入れられてしまった。


「でも、どっちにしても、このマリアの夫のヨセフって可哀想。地味過ぎて全然目立ってないし。クリスチャンから聖父とか呼ばれてないし」


 そう思ってしまう。


 自分とは違う男(?)の子供を妊娠したマリアを受け入れるヨセフってだいぶ凄いのでは……? 処女で妊娠だったとしてもかなり懐が広い男である事は確かだ。


「私はヨセフ推しにする」


 ちょっと不憫になり、ヨセフを推したくなった。


 クリスマスに近づくと、こんな事を思い出す。あれ以来聖書研究会の部室には一回も行った事はないが、彼らも全員元気だと良いと思う。


 クリスマスの日ぐらいは、他人の幸せを願いたい。ヨセフもきっとそんな人だった気がする。

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