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雪降るクリスマス

 今年はクリぼっちになってしまった。クリスマスイブ直前に彼氏に振られ、一緒にディナーをする計画は水の泡になった。


 同じ大学の友達と騒ごうと思ったが、みんな恋人と過ごすそうだ。


「歩美のやつ、クリスマス海外なんてずるい……」


 ついつい呟いてしまう。一番仲が良い友達の歩美は、クリスマスに海外に行くと言う。しかも年上の彼氏と。歩美の彼氏は会社経営者で金がある。その事を考えると、悔しく涙が出そう。


 私は一人、クリアマスイブの街を歩く。イチャイチャしているカップルとすれ違うたびに、心に引っ掻き傷ができそう。派手なツリーやイルミネーションの飾りを見ていると、傷口に塩が擦り込まれる。クリスマスの街は、それだけで暴力性がある。完全に私の被害妄想だが。


 一人じゃなかったら、もう誰でもいいか。


 そんな思考も生まれてきた。逆ナンでもして適当にクリスマスを過ごしても良いかもしれない。


「ねえ、私と遊ばない?」


 自分と同じぐらいの年齢の男に声をかけていた。我ながら逆ナンなんて思い切った事をしたわけだが、それぐらいクリぼっちが嫌だった。12月の冷たい風が沁みる。イエス・キリストはこんな真冬に馬小屋で生まれたのが信じられない。


「は? 俺?」


 男は、地味な感じだった。黒髪にメガネをかけている。顔だけだったら中学生ぐらだが、背はそこそこ高い。ダッフルコートなのは、ちょっとダサいが、まあまあ許容範囲。


「いや、良いけど」

「いいの?」

「俺、クリスチャンなんだけど、一緒に教会いく?」


 思ってみない反応だった。まさか逆ナンした相手がクリスチャンで、教会行くことを誘れるとは。


 確か日本でクリスチャンの数はかなり少ないと聞く。逆ナンした男がクリスチャンというのは、すごい確率だ。


 そかし、ちょっと立ち止まろう。


 こんなナチュラルに教会に誘ってくるなんてカルトの可能性がある。宗教勧誘は恐ろしいと聞く。その可能性も大いにある。寂しいからといって逆ナンなんてした事に後悔し始める。


「うちはカルトじゃないよ。プロテスタントの教会だよ。俺、牧師の息子なんだよ」

「へえ」

「カトリックとはまた違うし、いろいろな宗派があるわけ」


 そうは言っても、逃げるタイミングがつかめず、この男と一緒に歩く。名前は佐東亮太というらしい。そこそこ有名な大学の二年生で、マイナンバーカードと学生証も見せてもらった。とりあえず、宗派の話も聞き、カルトではないかと思った。もっとも逆ナンしたのは自分なのでカルトだとしても自業自得としか言いようがないが。


「カトリックって何なの?」

「ざっくり言うと派手な方の宗派。代表的なのは聖母マリアとザビエルな。ローマ法皇がいるのもそうだが、この宗派も色々細かくある」

「ふーん。興味ないな」

「プロテスタントはルターな」

「ああ、宗教改革! 思い出した」


 歴史で習った内容を思い出し、宗派の話題でもなぜか盛り上がる。


「でも日本の戦国時代に来てた宣教師って嫌われてきたじゃん。日本人の知能が高くて洗脳できなかったって歴史の先生が言ってたよ」

「だからそれやってたのカトリックだから。何でもかんでもキリスト教のイメージ、カトリックで固定させるのやめない?」


 そんな話をしながら、教会につく。本当に教会なのか信じられない。派手なステンドグラスや煙突、ベルとかもない。図書館か公民館に見えるような建物だった。門には派手なツリーが飾ってあるので、教会だとはわかるが。ツリーの飾りは、十字架があるのが見える。やっぱり教会だとはわかるが、想像以上に地味だった。


 亮太に案内されて礼拝堂という部屋に入る。外から来たので、暖房の暖かさが沁みる。しかし礼拝堂というより大学の教室みたいに地味な部屋で、カルチャーショックだ。確かにツリーやリースも飾ってあるが、椅子も折りたたみ式の簡易なもので、アニメや漫画で見た礼拝堂のイメージが崩れる。


「だから、プロテスタントは地味なんだよ。これ、蝋燭な」

「蝋燭?」

「うん。イブ礼拝がキャンドルサービスがあるから、始まったら灯りをつけるんだ」


 そんな習慣があるのも初めて聞く。何から何までイメージしていたものと違いカルチャーショックだ。


 それに礼拝堂は意外と人も多い。勧誘も洗脳もされない事に驚きだった。もちろん、献金の強制もない。


 礼拝そのものも地味だった。讃美歌と牧師の説教だけ。拍子抜けするほど地味で、私の目からは鱗が落ちっぱなしだった。


 世の中には、こんな地味なクリスマスがあると思うと……。


 クリぼっちだと焦っていた自分は馬鹿みたいだ。恋人と過ごさなければならないというのも、メディアの洗脳だったのかもしれない。


 礼拝が終わり、外に出ると雪がふわふわと降っていた。


 天から降る白い雪は、メディアの洗脳を綺麗に掃除してくれるようだ。


 クリぼっちでもいい。一人でも大丈夫なんだ。


 雪を眺めながら、微かな自信も生まれていた。来年は、もっと良い女になろう。寂しさに負けない良い女になろう。そんな時に出会えた人と一緒にクリスマスを過ごしたい。

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