聖夜のグリューワイン
クリスマスだというのに女友達と愚痴大会を開いていた。
友達、小夜のワンルームマンションに行きご馳走様を食べていた。最近断捨離をしたという小夜の部屋は、物が少ない。クリスマスのツリーやリースなども一つもない。食卓の上にあるチキンやケーキが辛うじてクリスのような雰囲気だった。私も小夜も仕事帰りという事で、あまり盛り上がりはしない。
小夜は元々婚活仲間だ。年齢も同じ三十三。婚活は想像以上に苦戦し、今はほぼ屍状態だった。クリスマスといっても二人で話す内容は、婚活や男への愚痴ばかり。
「別にうちらは高望みなんてしてないっての。とうか低い方をの望んでいたりした逆に失礼じゃない?」
「わかっるー。同情婚って上手くいかないっていうよな」
「まあ、うちらの良さがわからん男共なんてクソよ、クソ」
その後は決して文字に出来ないような愚痴が続く。小夜も私も一応公務員で安定や収入はある。私はともかく小夜は美人だし、結婚が決まらないのは本当に意味がわからない。ただ、縁ってそんなものもしれない。
ふと、窓の外を見る。星も月も出ていない静かな夜空。近所のイルミネーションをしている家庭の灯りは見えるが、それ以外は全く普通の冬に夜だ。「クリスマス」や「聖夜」という言葉が嘘のように見えてくる。
「そうだ、そろそろお酒飲もうと思うんだけど」
小夜はそう言い、キッチンの方へ行く。
「うん? 何か良い匂いするね?」
しばらくするとキッチンの方から良い香りがする。スパイシーで甘い香り。IHコンロの上に鍋があるが、その中には温められたワインがある。そこから良い匂いがしているようだ。
「何これ、ホットワイン?」
「似たようなもんだけど、グリューワインっていうのだって。ドイツクリスマス時期に飲まれている温かいワイン」
小夜はそう説明すると、最後に切った林檎やオレンジも鍋に入れた。
「沸騰させちゃうとアルコール飛ぶからね。ゆっくり、じっくり……」
こうして丁寧に温められたグリューワインは、大きなマグカップに注がれる。
マグカップに入っているワインなんて初めて見た。見た目もフルーツ入りで可愛いし、スパイシーで甘い香りもいい
二人とも我慢できず、キッチンで一口飲む。
「美味しい!
「甘い!」
女二人で興奮してしまうほど美味しかった。
これは立ち飲みできる味ではない。食卓の方に戻り、二人で温かいグリューワインを楽しむ。
「美味しい〜」
「美味しい!」
二人ともそれしか言えない。目はとろんと溶け、頬はオレンジ色に染まる。こんなワインの楽しみ方があるとは知らなかった。
「お、マジで?」
すっかり幸せ気分でグリューワインを楽しんでいやが、小夜がスマートフォンを見ながら声をあげる。もう一人の婚活友達が今日プロポーズされたとSNSで報告されていたらしい。もう一人の婚活友達は、四十代だった。同じように婚活連発中で屍になっていたはずだが、最近連絡が取れていないと思ったら……。
「まさに聖夜の奇跡じゃない? なんかウチらにも希望が出てきた」
小夜はちょっと酔いながら言う。
「何か私も嬉しい」
嫉妬なんてする隙間もなく、単純に仲間の幸せが嬉しくなってきた。
「よし、今夜は飲んでお祝いだ」
「うん!」
今夜はグリューワインを飲みながら、仲間の幸せを祝う。
愚痴もこぼれるが、今日ぐらいは少し控えておこうか。
グリューワインの甘さや温かさに、私達の心もすっかり溶けていた。