クリスマスのバナナブレッド
あぁ、買いすぎた。
翔子は、一人部屋で頭を抱えていた。11月末、ブラックフライデーがあり、ネットでコスメや服、キャラクターグッズなどを買いすぎた。おまけにクリスマスコフレの予約もしてあり、諭吉が別れを告げていく様子しか思いつかない。
そんな翔子も副業や投資をやっているが、諭吉に溺愛されているというわけでもない。石油王でもない。高額納税者でもない。しがないOLだ。
仕方がないので、今年はクリスマスケーキの予約を断念する事にした。毎年女子会を開き、キャーキャー騒いでいるクリスマスだったが、今年はそれもやめておこう。どうせ今年も彼氏が出来る様子もないが、女子達で騒ぐのも何か違う気がした。それに今も実家暮らしというのも、だんだんと恥ずかしくなってきた。
こうして11月に買い物しすぎた翔子は、12月は質素・倹約し、おとなしく過ごす事に決めた。思えば、日本のクリスマスは商業主義に偏り過ぎている。イエス・キリストの生誕祭という事を意識している者は、クリスチャンぐらいしかいないかもしれない。ぼーっとしていたら、商業主義に飲まれ、お金だけ消えていく未来も見えてしまった。
クリスマスも仕事だ。去年は有給を消化し、女友達と騒いでいたが、今年は地味でいい。ニュースでは、戦地や貧困の子供も伝えている。本当に商業主義に飲まれて金を使うのが、正しいのかわからない。
だからといってクリスマスケーキも何も食べないのも侘しい。
という事で会社の帰り、スーパーでバナナや小麦を書い、バナナブレッドを作る事にした。バナナはよく熟れて半額になっているのを買う。見た目は悪いが、熟れたバナナは甘く、栄養素も豊富だという。
キッチンで一人たち、熟れたバナナを潰し、卵や麦粉、バター、砂糖と混ぜて焼くだけ。派手なホイップクリームやフルーツは無いが、簡単に出来るお菓子だ。
バナナブレッドは、1930年から1940年ごろアメリカの大恐慌時代に流行ったらしい。腐りやすいバナナをどうにか保存して食べようとう創意工夫で生まれたらしい。甘いだけではないお菓子といえよう。
11月に無駄遣いし、浮かれていた翔子にはピッタリな菓子なのかもしれない。
焼き上がったバナナブレッドは、とても甘い香りがした。焼きたての香りは別格だ。表面は綺麗なキツネ色に焦げ、それだけでもご馳走に見えた。これを今日は家族と一緒に食べよう。
確かに商業主義のクリスマスも悪くない。それでも、こんなバナナブレッドを楽しむクリスマスもあっても良いはずだ。