青い薔薇の花言葉
小説創作のカルチャースクールに通っていた。先生が昔、面白い小説を書いていてファンだったから。そんな軽い気持ちで通い始めた。
同じクラスメイトは、主婦とか定年退職して趣味を見つけた男女が多い。私のように運良く株で儲けてFIREしたものは、少数派かもしれない。
そんな中で、多田くんはガチで作家を目指していた。投稿の鬼と化し、あらゆる所に送っているらしい。もう既に100作近く長編を作っているという。
年齢は大学生ぐらいだろうか。ちょっと芋臭いけれど、清潔感はある。むしろ、そんな多田くんを陰で笑ってる男達のが嫌い。
「俺はまだ本気出してないだけ」
「最高傑作の処女作を書く」
「俺の文体は文学っぽくて一般人には受け入れられない」
陰で多田くんを悪く言う男達はそんな言い訳ばっかりで、実際は何もしていない。
ちなみに先生も彼らには注意していない。伸び代ないって諦めているそう。一方、多田くんには厳しい。改善すれば受賞も十分狙えるからと言っていた。
私は趣味だから、先生にはユルい指導だけれどね。
それにしても先生に何度も酷評されても、素直に努力し続ける多田くんはかっこいいな。夢追う人ってなんか無条件にイケメンに見えてしまい困ったよ。
私もFIRE一旦中止し、語学や資格などの勉強を始めてしまう。多田くん効果すごい。
そんな中、クリスマスが近づく。多田くんは出している新人賞の結果がもうすぐ出るとソワソワ落ち着かない様子だった。
何か励ます良い方法はないかな?
頑張ってというのも違う気がした。そこで私は、青い薔薇を贈る事を思いつく。
花言葉は、「神の祝福」「夢かなう」「奇跡」。どう考えてもクリスマス向けの花じゃない? 今の多田くんにピッタリの花じゃない?
多田くんの夢が叶いますように。
そう願いを込めて、彼に青い薔薇の花束を渡す。多田くんは、すぐにこの花の意味がわったようだ。作家は花言葉の本は必ず持っていると思う。
「ありがとう。頑張るよ」
はにかむ彼の笑顔を見ながら、私もなぜか幸福な気持ちで満たされていた。