引きこもりのブックサンタ
引きこもり生活も一年もたってしまった。瑠奈は、前職のパワハラ上司との傷も癒えず、転職活動も失敗し、やさぐれてしまったのだ。
最近はコンビニに行くのも億劫で怖い。瑠奈はクリスチャンなので、本当は日曜日に礼拝に行きたいが、今はオンライン礼拝もある。牧師に注意もされているが、どうも礼拝に行く気になれなかった。
そんなある日。
フォローしている作家のSNS経由でブックサンタというチャリティーがあるのを知った。好きな本を書店で購入すると、その本を事情のある子供たちに届けてくれる活動あるという。その名前の通り、クリスマス時期に参加できるチャリティーらしかったが。
礼拝はサボっていたが、瑠奈は腐ってもクリスチャンだった。こういう活動には興味がある。「聖書の新改訳2017は、読みにくいので子供向けではないかな。漫画だったら聖☆おにいさん。アルプスの少女ハイジの原作は聖的かつ良質なエンタメで子供も楽しめるかも……」などと考えていたら、あっという間に時間がたってしまった。
問題は外に行き、レジで本を購入するというハードルだ。引きこもり中の瑠奈にとっては、ハードルが高い。
ただ、聖書の言葉も思い出す。「受けるよりは与える方が幸いである」という言葉を思い出すと、行くしかない気がした。
こうして瑠奈は身なりを整え、ショッピングモールにある大型書店へ向かう。この時点で緊張していた。十二月なのに汗はダラダラ。
「ああ、聖書はないんだね……」
宗教のコーナーに行った。そこは客がいなくてホッとしたが、聖書は置いてない。あったとしても新改訳聖書は、大人でも読みにくいので、これはやめておこう。
人が多い文庫本コーナー、児童書コーナーに行く。心臓はドキドキしていたが、「恐れるな。わたしはあなたとともにいる。たじろぐな。わたしがあなたの神だから」という聖書の言葉を何度も心の中で呟く。どうにか「アルプスの少女ハイジ」の角川文庫版を手に取り、レジに並ぶ。
最後に最大の難関がある。店員にブックサンタ参加を伝える事だ。ああ、自分の臆病さに泣きたくなってきたが、もう一度深呼吸し、聖書の言葉を思い出し、心を整えた。
「ブ、ブックサンタでお願いします。た、た、対象の書店ですよね?」
声は震えていたが、どうにか店員に伝えれた。心配していた事は何も起きず、お金を払い、ステッカーやサンクスレターをもらって終わった。
「あ、ホッとした……」
全てが終わってホッとした。しかし、こんな引きこもりでも、一つ試練を超えられた。自信になった事も確かだった。
その後、瑠奈は礼拝の参加も復帰できるようになり、ハローワークへ通えるほど回復してきた。まだ新しい仕事は見つかっていないが、どうにか光が見えてきた。
ボランティアのつもりだったのに、結果的に瑠奈の社会復帰のきっかけになっていた。
「受けるよりは与える方が幸いである」
神様の言葉は、間違いない。