喜びの音
全て自業自得とはいえ、俺は自分の人生を後悔していた。
12月、北風が吹く公園にいる。帰る家は無い。ホームレスになってしまった。
若い頃は、会社経営者として偉そうにしていた。弱いものは自己責任だと切り捨ていた。それが今は色々な不運が重なり、ホームレスになってしまった。
落ちるのはほんの一瞬だった。その落差もえぐい。
一寸先は闇という言葉が身に染みる。
まあ、たった一つだけホームレスでもいい事はあった。それは禿げない事だ。なぜかわからが、抜け毛が減り、今は髪がフサフサ。いや、ボーボーという感じで全く清潔感はない。中間のホームレスもハゲは少ない。もしかしたら、シャンプーを使っていないせいかとも思うが、証拠はない。それに髪があったとしても家がない状況は、少しも良いとは言えなかった。
「腹減ったな」
寒空を見上げる。
ここ数日、食べ物にありつけていない。
「もう、疲れたわ……」
空腹で意識が遠のき、夢でも見ているかの感覚になった。
ふわふわな雲の上にいて、どこからかベルが鳴る音が響く。クリスマスのベルの音だろうか。喜びに満ちた音で、夢とはいえない気も。
クリスマスのベルの音は、イエス・キリストが生まれた事を告げる祝福の音というらしい。自分には全く関係のない話だが、今の状況は神にでも縋りたくなる。
「おじさん、大丈夫?」
そこに若い女に声をかけられた。はっとして目を開ける。炊き出しのボランティアの女のようで、スープ、おにぎり、それにクリスマスクッキーを手渡された。
「大丈夫。本当のクリスマスは、恋人の日じゃなくて、おじさんみたいに独りぼっちの人の為にあるからね。とりあえず、これ食べて生き返って」
女に背中を押され、貰ったスープを啜る。温かいカレースープで、飲んでいると鼻の奥がツンとしてくる。
「大丈夫」
再び女は念を押し去っていく。
今の状況は、最悪なものだろう。しかしこんなスープが飲めるという事は、神に全て見捨てられているわけでも無いと思いたい。
再び、どこからかベルの音が聞こえる。おそらく幻だろう。それでも今はそれで十分だった。