チョココロネのツリー
騙された。自分は馬鹿としか言いようがない。
12月初旬、婚活パーティーで知り合った男と付き合いはじめた。もうすぐクリスマスだし、焦っていた。
相手はイケメンで医者。スペックは最高だった。自分とマッチングした事に違和感がありつつ、そのスペックに惹かれてしまった。
クリスマスまでは忙しいから会えなかった。その分、メッセージアプリで楽しい会話をしていたが、それは自分だけだったかもしれない。
クリスマ当日、相手に連れて行かれたのは、投資セミナーだった。単なる投資セミナーではなく、ちょっとカルトっぽい自己啓発もやっていて、怖くなってすぐ逃げた。相手の男もおそらく詐欺目的で自分を誘ったようだ。医者というのも嘘だろう。
しかし、自分も完全なる被害者とも言えない。相手の表面的なスペックに惹かれた結果だった。要するに欲に逆らえなかった自分にも大いに問題があり、被害者ぶる気になれない。幸い、何も取られてはいないし……。
そう自分を納得させたが、クリスマスにこの仕打ちは悲しい。自分が悪いとわかっているので、余計に惨めだ。
街を歩くカップルは幸せそう。家族連れや学生のカップルも楽しそう。
本当に惨めだ。
こんな気分ではクリスマスケーキなどを食べる気分にはなれず、チェーン店のベーカリーに入る。
おそらく冷凍のパンなので、いまいち美味しくない店だが、クリスマスの商品もいくつか売られていた。シュトレンやチョコレートケーキなどが人気そうだが、一人で食べられる文量ではない。
そこでチョココロネに目がとまる。ツリーのように立たせ、てっぺんには星形のクッキーがデコレーションされていた。小さなツリーだ。手の平のサイズで大きくはない。
それでも今の自分にはピッタリのツリーに見え、トレイに載せる。
今は良いが、来年はこのチョココロネのツリーは食べたくないかも。
その為には、もう少し自分を成長させたい。少なくともこんな風に騙されるのは、今年で最後にしたいと決意する。
星形のクッキーがキラッと光って見えたような。
それは気のせいだと思うが、この決意は間違いないと思う。