クリスマスの折り紙
今日はクリスマス。
友達と過ごす予定だったが、急用が入ったらしい。計画していた事が全部キャセルになり困っていた。現役女子高生でクリぼっちでいいのか。それは、嫌なのだが。
あっけなく今日はクリぼっちになってしまったが、母に「だったら、おばあちゃん家に行って」と頼まれた。
「ばあちゃん家?」
「うん。ケーキやチキンでも焼いてさ。あんまり一人にしておくのもね」
母はため息をつく。
母方の祖母は、ちょっと頑固で気が強い。今のところ、認知症などは出ていないが、人嫌いで私達が来るのも嫌がっていた。祖父が亡くなってからますます頑固になっている。母は老いへ恐怖やストレスが原因だろうと呑気に言っていたが、私はあまり祖母が得意ではないのだが。
そうは言っても断りずらい。祖母の家も自転車で十分ぐらいだ。母にもらったチキンやケーキの材料を持っていく事にした。自慢じゃないが、私はけっこう料理が得意。
ケーキはスポンジ焼いてイチゴのにしよう。チキンはコーンフレークを衣にしてザクザクさせよう。
そんな事を考えていたら、苦手な祖母とクリスマスを過ごすのも良いかなと思う。そもそも来年は受験だし、クリスマスだからといって浮かれているのも良くないだろう。
祖母が一人で暮らしている一軒家へ向かう。庭も綺麗にしてある。郵便ポストに新聞やメールも溜まってはいない。家の様子では問題なさそうだ。母に家の様子もチェックするように頼まれていた。
「ばあちゃん、きたよ」
「おお、椿か。いらっしゃい」
玄関で祖母に出迎えられた。背が低く、もう顔も皺だらけの祖母。今日はモコモコこした上着にズボン姿だった。防寒はバッチリだが、以前と比べて何だか機嫌が良さそう?
クリスマスだからか?
いや、あの頑固っぽい祖母が行事で機嫌が良くなると思えないのだが。
しかし、その謎は居間に入ってから解けた。
居間はクリスマスの折り紙で溢れていた。壁は折り紙の星やリースで飾られ、テーブルの上はツリーもある。これは立体的で大作だ。他にもサンタやトナカイ、雪だるま、柊の葉の折り紙もあり、華やかなクリスマスの雰囲気で溢れる。
折り紙でこれだけ出来るのも驚きだが、祖母がニコニコ折り紙を折っているのも意外だった。
「認知症対策で近所の人に教えてもらったんだよ。これが楽しくて」
「へえ。難しくない?」
「立体的なのは時間かかるけど、星なんかは簡単だ」
祖母は自信満々に胸を張る。もしや俗にいう自己肯定感が折り紙を通して高まったとか?
目も生き生きとしているし、昔より頑固な雰囲気が消えている。
私もケーキやチキンが焼き上がるまの間、祖母と一緒に折り紙を折る。
「ひえ、けっこう難しくない?」
「大丈夫、出来る!」
祖母に励まされながら、星形の折り紙を折っていく。
祖母が持っている折り紙の本も見せてもらったが、複雑で立体的なものは芸術レベルだ。日本独特の文化だし、海外で折り紙を折ったら驚かれるかも。地味な子供っぽい遊びだと思っていたが、イメージが変わる。案外面白いしハマってしまう。
焼き上がったチキンを片手に折っていると、あっという間に時間が過ぎる。達成感も得られる。祖母がハマる気持ちもわかる気がする。それに出来上がったものを褒められると嬉しい。私の自信も高まる。
折り紙を折り、ケーキも作っていたら、すっかり時間がたってしまった。折り紙も沼に入ると抜け出せない何かがありそうだ。認知症対策になるかは不明だが、今の祖母は楽しそうだ。好きな事が見つかって良かったと思う。
ケーキが焼け、そに熱がとれるまでの間もサンタやトナカイを折っていく。
「椿、素晴らしい! 可愛いのができたじゃない!」
出来上がった折り紙を見て、祖母は子供のように喜んでいた。
こんなクリスマスの時間も楽しかった。折り紙を通して、祖母への苦手意識もすっかり無くなった。
クリームをデコレーションしたケーキを二人で食べている頃は、私も祖母も笑顔だった。
こんなクリスマスも楽しいものだ。隣にいる祖母の笑顔を見ながら、私も幸せな気持ちになっていた。折り紙のサンタもニコニコ笑っているように見えたが、気のせいじゃないと思う。