表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/107

クリスマスの折り紙

 今日はクリスマス。


 友達と過ごす予定だったが、急用が入ったらしい。計画していた事が全部キャセルになり困っていた。現役女子高生でクリぼっちでいいのか。それは、嫌なのだが。


 あっけなく今日はクリぼっちになってしまったが、母に「だったら、おばあちゃん家に行って」と頼まれた。


「ばあちゃん家?」

「うん。ケーキやチキンでも焼いてさ。あんまり一人にしておくのもね」


 母はため息をつく。


 母方の祖母は、ちょっと頑固で気が強い。今のところ、認知症などは出ていないが、人嫌いで私達が来るのも嫌がっていた。祖父が亡くなってからますます頑固になっている。母は老いへ恐怖やストレスが原因だろうと呑気に言っていたが、私はあまり祖母が得意ではないのだが。


 そうは言っても断りずらい。祖母の家も自転車で十分ぐらいだ。母にもらったチキンやケーキの材料を持っていく事にした。自慢じゃないが、私はけっこう料理が得意。


 ケーキはスポンジ焼いてイチゴのにしよう。チキンはコーンフレークを衣にしてザクザクさせよう。


 そんな事を考えていたら、苦手な祖母とクリスマスを過ごすのも良いかなと思う。そもそも来年は受験だし、クリスマスだからといって浮かれているのも良くないだろう。


 祖母が一人で暮らしている一軒家へ向かう。庭も綺麗にしてある。郵便ポストに新聞やメールも溜まってはいない。家の様子では問題なさそうだ。母に家の様子もチェックするように頼まれていた。


「ばあちゃん、きたよ」

「おお、椿か。いらっしゃい」


 玄関で祖母に出迎えられた。背が低く、もう顔も皺だらけの祖母。今日はモコモコこした上着にズボン姿だった。防寒はバッチリだが、以前と比べて何だか機嫌が良さそう?


 クリスマスだからか?


 いや、あの頑固っぽい祖母が行事で機嫌が良くなると思えないのだが。


 しかし、その謎は居間に入ってから解けた。


 居間はクリスマスの折り紙で溢れていた。壁は折り紙の星やリースで飾られ、テーブルの上はツリーもある。これは立体的で大作だ。他にもサンタやトナカイ、雪だるま、柊の葉の折り紙もあり、華やかなクリスマスの雰囲気で溢れる。


 折り紙でこれだけ出来るのも驚きだが、祖母がニコニコ折り紙を折っているのも意外だった。


「認知症対策で近所の人に教えてもらったんだよ。これが楽しくて」

「へえ。難しくない?」

「立体的なのは時間かかるけど、星なんかは簡単だ」


 祖母は自信満々に胸を張る。もしや俗にいう自己肯定感が折り紙を通して高まったとか?


 目も生き生きとしているし、昔より頑固な雰囲気が消えている。


 私もケーキやチキンが焼き上がるまの間、祖母と一緒に折り紙を折る。


「ひえ、けっこう難しくない?」

「大丈夫、出来る!」


 祖母に励まされながら、星形の折り紙を折っていく。


 祖母が持っている折り紙の本も見せてもらったが、複雑で立体的なものは芸術レベルだ。日本独特の文化だし、海外で折り紙を折ったら驚かれるかも。地味な子供っぽい遊びだと思っていたが、イメージが変わる。案外面白いしハマってしまう。


 焼き上がったチキンを片手に折っていると、あっという間に時間が過ぎる。達成感も得られる。祖母がハマる気持ちもわかる気がする。それに出来上がったものを褒められると嬉しい。私の自信も高まる。


 折り紙を折り、ケーキも作っていたら、すっかり時間がたってしまった。折り紙も沼に入ると抜け出せない何かがありそうだ。認知症対策になるかは不明だが、今の祖母は楽しそうだ。好きな事が見つかって良かったと思う。


 ケーキが焼け、そに熱がとれるまでの間もサンタやトナカイを折っていく。


「椿、素晴らしい! 可愛いのができたじゃない!」


 出来上がった折り紙を見て、祖母は子供のように喜んでいた。


 こんなクリスマスの時間も楽しかった。折り紙を通して、祖母への苦手意識もすっかり無くなった。


 クリームをデコレーションしたケーキを二人で食べている頃は、私も祖母も笑顔だった。


 こんなクリスマスも楽しいものだ。隣にいる祖母の笑顔を見ながら、私も幸せな気持ちになっていた。折り紙のサンタもニコニコ笑っているように見えたが、気のせいじゃないと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ