クリスマスの福引大会
賭け事は基本的に反対だ。それで人生が狂った友人も見た事がある。
ただ、俺も男だ。妻を亡くしもう年金暮らしの俺だが、勝ってみたい勝負があった。
それは福引だ。近所の商店街が企画したクリスマス限定のものだ。五百円ごとに補助券が発行され、四枚合わせると一回くじが引ける。
商店街は老人も多く、過疎化していた。はっきり言って元気はない場所だから、応援したい気持ちもあった。
それに一等はタラバガニだ。これは当てたい。年末年始のご馳走がタラバガニだなんて最高ではないか。この勝負には勝ちたい!
俺は商店街のお茶屋、肉屋、中華屋、花屋、和菓子屋などでコツコツ補助券を貯めた。
クリスマスイブ、商店街の中央広場で特設会場が出来ている。
少々緊張しながら、ガラガラを回す。
一回、二回、三回……。
どれも出るのは、白い玉だ。ハズレだ。参加賞のキャンディーだけが増えていく。
「これで最後ですね」
福引担当のお茶屋の主人に補助券を渡し、最後の一回だ。
ガラガラと音を立てて回すが……。
白い玉がコロコロ。
ああ、目の前が真っ暗になる。年末年始のご馳走は儚い夢となった。
でも、お茶屋の主人は何故か自分の事のように悔しがってくれたし、他の商店街のみんなも温かい。ハズレのキャンディもおまけで一個多く貰ってしまった。
「いいのかい?」
「ええ。お客さんはいつもここを大切にしてくれますますから」
そう語るお茶屋の主人と思わず握手を交わす。
結果はハズレだ。しかし、クリスマスの日に暖かなものを貰ってしまったようだ。今日だけは何だか人の優しさが沁みる。
これからもこの場所を大切にしたい。
大企業に負けるな!
そうエールも送り、福引会場は他の客達と謎の一体感が生まれていた。クリスマスのお陰か人と人の距離も近い。
ハズレのキャンディを口に転がす。小さな菓子だったが、口に入れると夢のように甘い。
タラバガニより美味しく感じてしまったのは、思い込みじゃないはずだ。