ピクルスのオーナメント
12月に入り、病院の受付にもクリスマスツリーを飾る事が決まった。医療事務として働く私も同僚と一緒にツリーを飾りつける。
さほど大きなツリーではないが、木の部分を組み立てていくのは、地味に面倒だった。早く派手なオーナメントを飾りつけたい。あの葉がチクチクするのも、楽しくはない。
同僚に聞くと、この木は永遠の象徴らしい。クリスマスを祝うキリスト教では、それは大事にされるという。てっぺんの星もキリストの誕生を告げるものらしい。
「赤い小物は、キリストが流した血。あるいは善悪の木の実の林檎って説も」
「もしかしてアダムとイブの林檎?」
それだったら聞いたことがある。アダムとイブは旧約聖書に出てきくる一番最初のキャラクター達だ。神が最初に想像した人間とされるが、蛇に唆されて禁断の木の実、林檎を食べてしまう。
「禁断の木の実だとしたら、クリスマスとちょっと関係ないような」
違和感を持ちつつも、赤い木の実を飾る。確かこれが原罪ってものだった記憶があるが。
「まあ、クリスマス自体がキリスト教じゃない宗教が関係しているとか」
「へえ」
「起源的にはキリスト教が土着の宗教を都合よく取り込んできたという歴史があるらしい」
「そう言われると元も子もないね」
そんな事を雑談しつつ、順調にオーナメントを飾りつける。雪だるまやトナカイの可愛いオーナメントも飾りつ、禁断の果実や土着宗教を忘れてきたところだった。
妙なオーナメントがあるのに気づく。ピクルスの形のオーナメントだった。緑色というのは、クリスマスっぽいが何これ?
「ピクルスのオーナメントはアメリカで一般的らしい」
「へえ」
クリスマスとピクルスが全く結びつかない。まだ禁断の果実のほうが関係性がある気がするが。
「諸説あるけど、捕虜がピクルス食べて元気になったから、こんなオーナメントがあるらしいよ。これを見つけたら、幸運になるとか」
「そうなの?」
同僚の豆知識を適当に聞いていた私だが、ピクルスのオーナメントは病院に飾るツリーにピッタリではないか。
私も一応医療関係者の端くれだ。人々が元気になるのが、一番嬉しい。なんだかこのオーナメントが素晴らしいものに見えてきた……。
「そのオーナメントは、ピクルス会社の宣伝っていう説もあるわよ」
そこの看護師の一人がやってきた。ベテランのお局タイプも看護師だった。そんな夢を壊すような事を言うなんて……。
「まあ、どっちにしたって良いじゃないですか。これで受付も華やかですよ」
同僚は明るく言う。
気づくと、クリスマスのツリーはすっかり完成した。
思ったより華やかなツリーになった。あのピクルスのツリーもトナカイのオーナメントに隠れながらも、しっかりと存在感を見せている。
こんなツリーで病気の人が癒される事は無いだろう。薬や医者の力が一番必要だ。
それでも、少しだけでも心が華やかになれば良い。
そう願いながら、私は再びこのツリーを見上げていた。