いい女のクリスマスネイル
男はネイルをした女が嫌いらしい。ネイルよりダイエットやスキンケアがんばれと言われた事があるが、そんな事は無視だ。
「可愛い!」
今日はサロンでネイルをしてもらう。可愛くして貰い、思わず声をあげる。
クリスマスが近いので、赤と緑を基調とし、キラキラしたビーズでデコレーションしてもらう。何度見ても可愛い。最高。
確かにネイルなんて男は見ていないだろう。でもオシャレは男の「モテ」ばかりじゃない。女同士のマウント合戦でもない。自分の為だ。
「ありがとう。とっても綺麗になった気がする」
「いいえ」
ご機嫌でネイリストもベタ褒めしちゃう。やっぱり指先も可愛いと心に余裕が生まれる。
そんな悠里には彼氏がいた。付き合って三年になる。そろそろマンネリしていた。向こうも何か隠し事がある気がする。完全な女のカンだが、これがよく当たる。
クリスマスの飾りで賑わう街を歩き、彼との待ち合わせの場所へ向かう。
背筋も伸ばし、指先も揃えて歩く。やはり女は姿勢からだ。悠里はもうすぐ三十歳になるが、姿勢だけは努力で手に入れられるオシャレだと思う。
確かに心が弱る時もあるけれど、背筋さえピンとしていれば強気でいられる。それにネイル。こんなに可愛くしたんだから、私はいい女。そう言い聞かせる。
「え、クリスマス会えないの?」
待ち合わせ場所のカフェに行くと、彼はそんな事を言うではないか。
何か怪しい。
悠里は彼の目をじっと見るが、向こうの目は泳いでいた。カウンター席や店員の方を見ている。
「何の用?」
「いや、俺の実家って実はクリスチャンでさ」
嘘だろう。
そんな話初めて聞いた。
思わず指先を見る。綺麗にして貰った赤と緑の爪。キラキラと光っている。
「じゃあ、食前の祈りってできる? プロテスタントとカトリックの違いを説明して?」
そういうと彼は口籠る。いつになく強気の私に怖気付いた模様。悠里は一応カトリック系列の大学に通っていた為、そんな知識もあった。悪事や嘘は全てバレるもの。当時の神父からそんな話も聞いた事がある。
「ごめん、嘘です」
彼は情け無い声をあげ、事情を説明しはじめた。会社の部下と浮気中で、今はそっちの本気だという。相手は派遣社員でまだ二十歳だという。
「へえ」
水でもかけようかと思ったが、店員に迷惑だろう。悠里はグッと堪えて再び指先を見る。
こんな男は、私に相応しくない?
いつもだったら我慢する所だが、悠里は冷静に自分の気持ちを伝え、別れる事になった。
悔しいし寂しい気持ちもある。でも、悠里は後ろ向きではない。
こんな男は通過点だ。男がいなくても私は一人で大丈夫。そう思い、顔を上げる。
いい女はこれぐらいのでは泣かない。クリスマスだってこんな男と過ごすほど、自分は安くないと思ってみる。
悠里は背筋を伸ばして彼の元から去っていく。その指先はキラキラと輝いている。
ネイルは自分の為にするのだ。男でも女の為でもない。いい女はきっとそうしてる。