クリスマスローズの花言葉
冴子はシナリオライターだった。ゲームや漫画原作を作っている。在宅でほぼ引きこもりの生活でもあり、ネタが尽きてきた。
今日はクリスマスイブではあるが、年明けに仕事の企画書を出さなければならない。ネタ収集のため街の出て人間観察をする事にした。
クリスマスイブも仕事。アラサー女性としては、この現実に寂しさも覚えるが、街に出て人間観察をしているとなかなか面白い。
明らかに彼氏や彼女を待っている若い男女の表情を見たり、プレゼントを抱えるおじさんの姿を見るだけでも想像力が広がり、冴子はカリカリとメモをとる。
一方、コンビニやカフェでクリスマスも働くものを見ると、頭が下がる思いだ。駅のトイレに入ったが、清掃員とすれ違う。社会はこんな人達の力のよって支えられていると実感する。
トイレから出ると、ゴミ箱に花束が捨ててあるのに気づく。白くて清楚なクリスマスローズの花束だった。綺麗にラッピングされ、とても可愛い花束だったが、なぜ捨てられているのだろう。
これを見るだけでも冴子の想像、いや妄想が広がる。好きでもない異性から貰った花束で捨てたのか。それとも不倫、別れ、ストーカーなど色々な妄想ができる。
そういえば、クリスマスローズの花言葉は怖いものだったと思い出す。仕事で花言葉を調べた時、印象に残っていた。
クリスマスローズの花言葉は、「追憶」、「私を忘れないで」というのが一般的だ。男性が戦場に行く時、地元に残る恋人に送った花という逸話もある。
そんな素敵な逸話の一方、「中傷」という花言葉もあった。クリスマスローズの根には毒があるかららしい。
綺麗なものには、毒もあるという事か。このクリスマスローズの花束も、中傷という意味で送られたとしたら……。送られた方も捨てたくなる気持ちもわかる。
ゴミ箱の側には、盗撮は犯罪行為だと警告するポスターも貼られていた。冴子も最近SNSで電車内での盗撮と誹謗中傷を見かけた事がある。
そんな事を思い出すと、なんだか切なくなってくる。捨てられたクリスマスローズの花束を思い出すと、中傷という花言葉が浮かんでしまう。この世の中は、別に何も綺麗じゃないと実感してしまった。
かと言ってこの綺麗な花束には、何の罪もないはずだ。こんな風にゴミ箱に捨てられるのは、可哀想。
冴子はこの花束を拾い上げ、家に持って帰る事にした。花弁は少し元気が無いように見えたが、花瓶にさせば回復するだろう。
そういえばクリスマスローズの花言葉には、「慰め」というのもあった。こんな可愛い花が家にあったら、一人ぼっちのクリスマスも慰められそうだ。