優しい届けもの
クリスマスイブというのに、イライラしていた。12月初旬に彼氏に振られ、仕事の給料も上がらない。
テレビのニュースでは、増税ばかり伝えられる。政治家のカルト宗教問題にもイライラ。
コロナもまだ終息したわけでもない。それでも街はマスクしていない人も多くて余計にイライラしてくる。
自分はこんなにマスクもして我慢しているのに。クリスマスだからといってキャーキャー騒いでいる人に腹が立ってくる。
我ながら自分は社会性は強いと思う。ちゃんとマナーを守り、模範的な社会人として頑張ってきた。
それなのに……。
電車の中で騒ぐ子供や赤ちゃんにもイライラ。同時にこんな日本で子育てなんてしたくないと思い、結婚にも何の希望も持てない。一応婚活もやっているが、ぶっちゃけ誰でも良いのかと考えてしまう。これはブーメランかもしれない。
その上、街を歩いていたら財布も落としてしまった。
踏んだり蹴ったりだ。自分は真面目に社会人をやっていたのに、なぜこんな目に遭わなきゃいけにかと涙目になってくる。冷たい北風が肌にしみる。
一応警察に行ったが、繁華街で落とした事もあり、戻ってくる可能性は低いと言われた。中身は3万円ほど入っていたが、悲しい。警察の事務的な対応にも悲しくなってきた。
こうして最悪なクリスマスが終わった。クレジットカードの処理などをしていたら、本当に疲れてくる。
こうして26日。
もう一度ダメ元で街で財布を探して来て帰ってきたところだった。結局財布は見つからず、本当に疲れていたところだった。
「あれ?」
アパートの部屋の前に、紙袋が置いてあるのが見えた。中には、財布。それにメモとチョコレートが入っていた。
「財布を拾いました」
メモにはそれだけ書いてあった。小さな丸い文字だった。おそらく子供か中学生ぐらいの若い子だと思われる。無記名なので、誰のものか分からないが。
財布の中も全部帰ってきた。免許証や保険証、クレジットカードやポイントカードもそのままだった。保険証の住所でここに届けられたのか。
しかも紙袋には、クリスマスデザインのチョコレートも入っていた。サンタやトナカイのロリポップチョコレートで、可愛い。
もうクリスマスは過ぎてしまったけれど。日本で財布を落としたら返ってくるという都市伝説を聞いた事があるが、本当だったとは。しかも、こんな小さな贈り物つきで。
目元がジワジワと痛くなる。これまで不満を抱えていた事が、恥ずかしくて仕方ない。
誰かの優しさに触れ、硬くなった心が溶けていくようだ。
「ありがとう」
お礼を呟く。
クリスマスは過ぎてしまったが、毎年この事は忘れないだろう。
自分もいつか他人に優しさを届けられるように。そう願う。心に優しさが溢れていた。