クリスマス前のチーズフォンデュ
クリスマス直前。
結婚相談所で知り合った男に振られた。我ながらいい感じに交際できていたと思ったが、そうでもなかったらしい。
こんな時はやけ食いだ。
キッチンの棚を漁ると、カップ焼きそばのペヤングが出てきた。確かこの商品名、「ペア」な「ヤング」が分け合って食べるという意味があった事を思い出す。容器も取り分けられるように二層式になっている。美味しいが、失恋した今は食べたい食品ではなかった。
仕方がない。今は夜だが、やけ食いする為にコンビニの行こうとした時だった。
「珠美きたよ!」
「うちも来た!」
女友達二人が家に来た。一人は智子。もう一人は公美。二人とも高校生からの友達で十年以上の付き合いだ。人生はそれぞれだが。
「失恋したとか聞いたよ」
「こういう時こそパーっと食おうぜ!」
一人暮らしのアパートは、三人いると若干狭いが、パッと賑やかになった。
テーブルの上にはホットプレート、それにソーセージ、タコ、プチトマト、ブロッコリー、切ったフランスパン、チーズがある。智子と公美が持ってきたものだが、何を作るかすぐ察しがつく。
チーズフォンデュだ。
このチーズフォンデュは、私達が女子会をする時によく食べたものだ。
簡単に作れる割には、ダラダラと時間をかけて話しながら食べるのにぴったりな料理だ。丼ものや麺料理には決してない怠惰さがある。牛丼屋や立ち食い蕎麦のメニューには決してなれないだとう。
見た目もプチトマトやブロッコリーの色合いでクリスマスっぽい。クリスマスという言葉は今は聞きたくもないが、こんなチーズフォンデュを目の前にすると、愚痴が溢れる。同時に涙も溢れる。
「クリスマス直前に振らなくたっていいじゃない。クソ馬鹿男」
最後の方は完全に悪口になっていたが、智子も公美も同意していた。単に話をきいてくれて否定しないのが、今はありがたかった。
そんな智子も結婚しているが、旦那と上手くいっていないらしい。公美もフリーランスの人気イラストレーターだが、アンチも多く迷惑しているという。
チーズフォンデュを食べながら、ダラダラと愚痴大会になってしまった。ネガティブな言葉を言うなという教えもあるが、どうしても言いたい時はある。
溶けていくチーズに、硬いフランスパンをひたす。とろりとチーズをまとっていく様子を見ながら、私の心も柔らかくなってきたかもしれない。
悲しみも皆んなと分け合っていた。もう以前と比べて辛くない。
これからは未来を見よう。もう過去の事は過去の事だ。辛い記憶も溶けてどこかに流れていったようだ。
今年のクリスマスは、スッキリした気分で迎えられそうだ。