小さな優しさ
時々、 人間関係を全てリセットしたくなった。昨日、SNSやトークアプリを全部削除してしまった。
電話も友達からかかってきているが無視している。
私みたいのを「人間関係リセット症候群」というらしい。現代病の一つだとネットで話題になっているのをみた。
親からは「今時の若者な……」なんて呆れられそうだが、リセットしたくなるものは仕方がない。衝動的というやつだろう。
自分でも何が原因かわからない。
時はクリスマスに近い。本当は大学の友達とバカ騒ぎする予定だったが、どうでも良くなってしまった。
私以外の友達は学業、バイト、サークルなどでキラキラしている。容姿もいい。隣にキラキラしている人がいると、今の自分が惨めだ。たぶん、これがリセット癖の原因かもしれないが、他人との比較はやめられない。友達のSNSもついつい見ちゃう。
こんな事を考えながら繁華街を歩く。ふと、大型書店のビルが目に前にある事に気づく。
何かこんな自分の答えがありそうだ。ふらりと書店へ立ち寄る。
今はクリスマスなので、入り口にツリーやリースも飾られていて華やかだ。店員も赤い帽子を被っているものもいる。書店という静かな場所だが、お祭りムードがあるようだ。店頭はカレンダーや手帳などの本も多く売られていて、年末らしい雰囲気だ。
そんな店内を見回り、人間関係やアンガーマネジメントの本を手に取り、レジに持っていく。こんな本を手にするのは、やはりリセット癖を問題だと思っているようだ。
それを購入すると、書店から出る。十二月の冷たい風が肌に刺す。
「寒い」
思わずプルプルと震えてしまう。
「お客様!」
そこへさっき会計を済ませた書店員が走ってやってきた。六十歳ぐらいのおじいさんで、頭に赤い帽子を被っていたので遠目にはサンタにも見えてしまう。実際はサンタなんかではないわけだが。
「スマートフォン! お忘れです!」
確かポイントカードのアプリを出した後、スマートフォンを忘れてきてしまったようだ。わざわざ走って届けてくれた事に、ちょっと驚く。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。メリークリスマス!」
そう言い残し、店員は笑顔で去って行った。わざわざ届けてもらった親切心を思うと、何だか今まで人間関係をリセットしてきた事を後悔してくる。
クリスマスだからだろうか。風が冷たいせいだろうか。人のちょっとした優しさが身に染みてしまった。
そう思った時だった。届けて貰ったスマートフォンに電話がきていた。友達からだった。
リセットして全部切るつもりだったけれど。
「もしもし」
気づくと電話に出ていた。
「もう勝手に連絡先ブロックしたりしないでよー。心配するじゃん!」
友達の声を聴きながら、完全に人間関係をはリセットできなない気がした。