牧師のブックサンタ
思えば昔から変な子供だった。
子供のクリスマス会に参加し、イエス・キリストの誕生シーンのアニメを見た時に彼に一目惚れ。母嫌に「イエスさまの本が欲しい!聖書が欲しい!」とねだり困らせた事があった。
うちは普通の日本人の家。そんなイエス・キリストとかキリスト教とかは無縁な一家だった。結局、母が子供向けの偉人伝シリーズを買ってくれた。マザーテレサやヘレンケラーと一緒にイエス・キリストもあり、夢中で読んだものだ。
以来、わたしは毎年クリスマスに聖書をねだり、親を困らせた。勝手に近所の教会に行った時はかなり怒られたが、我が国には信仰の自由もある。社会科で習った知識を武器に親を丸めこめ、洗礼を受けた事はいい思い出。子供だったし、無邪気に神様が好きだったのだろう。
そんな私は、無邪気に信仰も育ってしまい、高校卒業後には神学校へ通い、牧師になった。親は泣いて悲しんでいた。子供の頃のクリスマスにイエス・キリストの偉人伝を与えた事を後悔していたが、もう遅い。
海外の教会で働いた後、日本に帰り田舎の小さな教会を守っていた。私のようなアラサーぐらいの女が一人で牧師をやっているケースは珍しいと聞くが、仕事は順調で楽しい。ただ、献金額は毎月ギリギリなのでバイトや副業しながら二足の草鞋も履いていた。ちなみに最近親とはようやく和解していた。一応働いている姿を見て安心したらしい。今度のクリスマスもうちの教会に遊びにくるという。
そんなクリスマスが近づくある日。牧師にとっては一年で最も忙しい時期だが、昼休みにネットを見ていたら、ブックサンタという取り組みがあるのを知る。
好きな本を書店で選び購入すると子供達に寄付が出来るという。
「へえ、面白そう」
一瞬、聖書やイエス・キリストの偉人伝を買おうかと考えたが、やめておこう。日本人は想像以上に宗教が好きではない。昔は周囲に聖書を配ったりもしていたが、「難しい」「読みにくい」「気持ち悪い」と酷評ばかりだった。当時世話になっていた宣教師にもそれは辞めた方が良いと言われ、今は現実を見ながら慎重になっていた。今は子供の頃とは色々と違うようだ。
ブックサンタは「特定の国や海外の団体、特定の宗教とは一切関係はありません」とある。やはり、宗教=悪の組織みたいな印象なんだろうなと思い苦笑してしまう。
かくいう私の教会も「カルトと無関係な伝統的プロテスタント・福音派の教会です」とわざわざ但し書きを入れているが、ちょっと偉そうだったかもな……。こういう但し書きはクリスチャンの中でも賛否がある。やっぱり教会は誰でもウェルカムにしたい。チラシやホームページに載せている但し書きを削除する事に決めた。
それでもブックサンタは気になるものだ。今日は仕事を抜きにして書店に行ってみるか。たまたま時間も空いているし。
近所のショッピングモール内にある書店に行く。ブックサンタをやっている書店らしく、ポスターも貼ってあった。
この辺りの地域は子供が多く、児童書コーナーは賑わっていた。独身女である私が児童書コーナーにいくのは恥ずかしいが、図鑑や小学生向けの英語の本を探す。片付けや料理などの実用的な本も良いだろう。
本を選んでいる時は、仕事もクリスマスも忘れて楽しんでしまった。
いつもは仕事の事ばかり考え、書店に聖書置いてないとイライラしていたが、今は純粋に楽しんでしまった。これだと私の方がプレゼントを貰ったみたいだ。
さあ、もうすぐ多忙で賑やかなクリスマスがやってくる。
これからクリスマス礼拝や教会の飾りつけなどやる事は山ほどある。それも今はとても楽しみになっていた。