小さな勇気
「告白しちゃえばいいじゃん」
友達は、他人事だからそう言う。
「無理無理、告白なんて」
裕子は、片思いしていた。相手はクラスメイトの野中翔太。明るく成績もいいイケメン。サッカー部のエースでもある。高嶺の花だ。そんな翔太でも、裕子のような普通女子にも声をかけてくれたりして、ますます好きになってしまう。
「今度のクリスマス前でも言えばいいじゃん」
「無理無理!」
友達は囃し立てるが、絶対無理。なぜか翔太には彼女はいないようだが、だからいって裕子が好かれるわけでもない。
今は12月に入り、期末テストも終わって、学校はゆるいムードが流れていた。このゆるいムードに流されて、ちょっと告白しても良いと思ったりするが、やっぱり自信ない。遠くでそっと見ている方がいい?
悶々とそんな悩みを持ちながら、教室を出て廊下にでる。もう放課後で夕方に近い。廊下の窓には、鮮やかなオレンジ色の光がさしてうた。
「佐野!」
「きゃ!」
背後で声がしたと思ったら、翔太に声をかけられた。
相変わらずイケメン。ちょっと崩して着てる学生服が似合う。黒い目は生命力が満ち、元気が溢れている。
「なんか悩んでる?」
「いや、悩んでないけど」
なぜか翔太は裕子の気持ちを見透かしてきた。そんな真っ直ぐに目を覗き込まれると、ドキドキしてしまうのだが。
「恐れるな!」
「え?」
「恐れるな。わたしはあなたとともにいる。たじろぐな。わたしがあなたの神だから」
「え? 何その言葉? 名言?」
「うん。聖書の言葉。俺、日本人では珍しいと思うけど、クリスチャンなんだよ。勇気でる言葉を言ってみた」
意外だった。これが暗い陰キャだったら、カルトっぽくて気持ち悪いが、翔太だったら、外国人っぽいイメージになる。我ながら差別的だと思いつつ、この言葉を聞いていたら、心に勇気が灯る。
「佐野、何か悩んでるんだったら頑張れ。あ、頑張ってと言ったらいけない系? でも俺、この言葉って相手の能力とか努力を信じるから言える言葉だと思うんだ。何も期待していない人に頑張ってなんて言えないから」
「そうか、そうだね」
翔太の言う事も一理あった。という事は、翔太は自分を励ましているという事か。信じているという事か。「頑張って」という言葉のイメージが変わる。
「あ、あの。野中くんのクリスマスどうしてるの? 外国人っぽく教会で祝うの? 私もいっていい?」
勇気を振りしぼって聞いてみた。とても告白なんて出来ないが、これぐらいなら出来そう。
小さな勇気。
でも一歩踏み出せた気がした。