ハッピーホリデーVSメリークリスマス
「あらゆる宗教、人種に配慮したいと思うの。つまり、わたし達クリスチャンもメリークリスマスではなく、ハッピーホリデーと言いたい」
同じ教会に通う柚乃がこんな事を言い始めた。柚乃は、牧師の娘で神学生。しばらくアメリカに留学していたというが、向こうの文化に感化され、意識高くなったという。
アメリカはクリスチャンが多いが、メリークリスマスと公の場では言ってはいけないらしい。この言葉でクリスチャン以外の人が傷つくから。企業なども気をつかい、極力ハッピーホリデーと明記しているらしい。
「そんなもんか?」
私はいまいちピンとこない。確かに配慮するのは、必要だろうが。柚乃と違い、日本でずっと暮らしているからそう感じるのかもしれないが。
「そうだよ」
「そっかぁ」
確かに日本では私や柚乃のようなクリスチャンは少数派だ。神社参拝、ハロウィン行事の強制参加を思い出すと、「メリークリスマス」という言葉に傷つく人も多いかもしれないと思う。
世界は広い。
私は柚乃と同じ歳だったが、世間知らずだったかもしれない。そんな話を聞くと、ハッピーホリデーという方がいいかも。逆に神社参拝も強制されたくない。自分の家族は全員普通の日本人だが、今から年始の神社参拝行事を思うと憂鬱だった。
確かに日本は、色んな宗教に寛容。そこは素晴らしい点だが、自分と違う人への寛容さも必要だろうと自戒を込めて思ったりした。柚乃の発言はいい勉強になった。
もうすぐクリスマスだ。クリスマス前に柚乃を通して視野が広がった事は、良かったと思う。
こうして私は、少し浮ついた気分で近所のスーパーへ行く。母親からお惣菜を買ってきて欲しいと頼まれていたのだった。
年末なのか、スーパーは浮足だった雰囲気がながれる。クリスマスなムードの演出のためか、「もろびとこぞりて」もかかっていた。
「主はきませり♪」
クリスマス時期定番の讃美歌だが、歌詞は普通にクリスチャン向けだ。柚乃の発言を聞いた後では複雑だが、惣菜コーナーへ。クリスマスが近いせいかチキンや唐揚げ、フレンチフライが前方で押されている。
チキンのパッケージには、「メリークリスマス」と書かれたシールが貼ってある。
もちろん、日本のクリスマスは商業的で宗教行事だと知らない人も多いだろう。それでも、こんなに堂々と「メリークリスマス」なんてシールが貼ってあるのを見てしまうと……。
自分は気にしすぎていた?
そんな気がする。同時に日本人の寛容さは、とても有り難い。
まあ、ハッピーホリデーでもメリークリスマスでも思い詰めるほど気にしなくてもいいかな。
少し気が抜けてきた。
私はカゴに惣菜のチキンを入れ、レジの方へ向かった。