コンビニのチキン
クリスマスは、単なる商業イベントだ。キリストの誕生日というが、多くの日本人は関係ない。それに陰謀論や都市伝説系の配信者・オカルトくんは、聖書にはクリスマスの日付けはなく、本当は悪魔の誕生日なんて言っていた。オカルトくんはその界隈なインフルエンサーとそて有名でフォローしていた。
そんな情報を間に受けた仁美は、すっかりクリスマスアンチと化した。まだ高校生で厨二病を引きずっているといえばそれまでだが。
そんな仁美は、彼氏も友達もゼロなので当然のようにクリぼっちだ。クリぼっちの自分を慰める為にそんな情報にハマっているのだが、本人は気が強く気付いていない。
両親はディナー、兄は部活の友達と遊ぶという。家族からもぼっち扱いされた仁美。
アンチクリスマスでも腹は減る。仕方がないので近所のコンビニへ行くことにした。たまにカップルとすれ違うとイライラするが「クリスマスなんて本当は悪魔の誕生日なんだから」と陰謀論情報を思い出し、溜飲を下げる。
コンビニは意外な事に普通に営業されていた。チルドコーナーにはケーキは多いようだが、ホールケーキは売っていない。全部おひとり様サイズでニヤニヤしてくる。
惣菜コーナーは、やはりチキンが多い。このコンビニでは店内手作り調理を売りにしているので、惣菜コーナーも充実している。
しかし、チキンはどれも美味しそう。骨付きのはローストされ、皮がパリパリしている。骨なしのは、ザクザクした衣。激辛とプレーンもあるが、どちらも美味しそうな衣をまとっている。どうしても咀嚼している時の音を思い出してしまう。大きさも手の平大でちょうどいい。一人で食べても大丈夫なサイズ感だった。
つばを飲み込む。
どうしてもこのチキンをスルーできない。店内ポスターのチキンのキャラクターのピッコちゃんとも目があう。ニワトリのピッコちゃんだが、チキンをてにしている。冷静に考えると残酷すぎる絵だが、無視できない。
チキンからほのかに油の匂いもする。決して健康的ではないジャンキーな香りだが、食欲をゴリゴリ刺激してくる。
べ、別にクリスマスを祝う為に買うんじゃないからね!
そう心で言い訳しつつ、骨無しチキンとホットコーヒーを買い、イートインスペースに入る。
ここでは、客は仁美だけだった。店内放送の「クリスマス・イブ」の音がやたらと耳につくかいいか。山下達郎のこの曲は、別に陽キャ向けでもないし。
さっそくチキンを食べる。衣はサクサク。肉はジュワッと肉汁が溢れる。肉はふわりと柔らかい。
「ああ、美味しい」
温かいコーヒーも啜る。
アンチクリスマスだったが、このチキンやコーヒーは悪くない。
いつの間にかこんな食事を楽しんでいる自分もいる。アンチクリスマスだったのは、単に厨二病を拗らせていただけだったのかもしれない。何だか恥ずかしくもなってきたが、少し昔のようにイライラはしていなかった。
さて、帰るか。今日はオカルトくんの特別ライブ配信がある日だ。きっと濃厚な都市伝説や陰謀論が聞けるだろう。こんな配信を聴きながら、聖夜を過ごすのは最高に厨二病だ。今から楽しみで仕方がない。