幸せを呼ぶスノーボウル
今日はクリスマスイブだ。仕事の帰りは、チキンを買って帰る予定だ。
本当は主婦として手作り料理を出すべきだとは思うが、フルタイムで経理事務の仕事もしている。それに夫にも息子にも大して感謝されないと思うと、面倒なのも確かだった。料理は時短やコスパなどを優先する。その方が家族の笑顔に繋がるんじゃないかと思ったりする。
「土屋さーん。クッキー焼いたんですけど、食べます?」
昼休み、デスクで食後のコーヒーをすすっていたら、後輩に声をかけられた。
まだ大学生かと思うぐらい若々しい子だ。仕事は案外真面目にこなす。その点は信頼していたが、彼女の手には、クッキーの入った箱。
個装されたクッキーではなかった。スノーボウルだ。丸いクッキーで、その名前の通り、雪玉みたい。白い粉砂糖をかぶり、本当にその名前通りのお菓子だ。クリスマス時期のお菓子として売られているのを見た事がある。
どうやらクリスマスという事で、配り歩いているらしい。
「こういうのは、会社でやらない方がいいよ」
うっかり言ってしまった。我ながらお局みたい。個装菓子を配るのは大丈夫だが、手作りクッキーを配るのはどうだろう? 実際、会社でこんな行為は初めて見た。
「そうですか。クリスマスだからってはしゃいでました」
「うん、家族だったら良いと思うけどね。でもこのクッキー美味しそう。一ついただいていい?」
しょぼんとしていた後輩が可哀想になり、一ついただく。
口にいれると、すうっと粉砂糖が溶け、ほろほろと砕けていく。
本当にスノーボウルみたいだ。その名前に間違いはないようだ。
「このスノーボウルのクッキー、言い伝えがあるそうですよ」
「どんな?」
「 作った人も貰った人も幸せになれるそうです。私、先輩の幸せ祈ります。クリスマスですしね」
そんな事言われたら、もう後輩を怒る気になれない。むしろ、心はホワッと暖かくなっている。
「ありがとう。もう一ついただくわ」
「いえ。こちらこそ、いつもありがとうございます」
「さあ、午後からもいつも通り仕事だよ。頑張ろう」
「ええ」
確かに会社で手作り菓子を配るのは、どうかと思う。でもクリスマスぐらい大目にみるか。
私もたまには、時短やコスパを無視して家族に料理を作ってみるのも良い気がしてきた。こんな風に小さな幸せを受け取ったら、誰かに循環させたくなるものだ。
ホロホロと崩れるスノーボウルの感触を楽しみながら、そんな事を考えていた。