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普通の日

 何の変哲もない一日だ。確かにカレンダーにはクリスマスイブと書いてあるが、普通に仕事。おまけに夜勤。


 総一は、とある通販会社の物流センターで働いていた。ベルトコンベアから流れてくる段ボールの中身の在庫をスキャンする仕事を繰り返す。正直、気がおかしくなるような単純作業で辞めていくものも少なくない。特に夜勤シフトは、知っている顔がだいぶ減ってきた。


 そうはいっても辞めるわけにはいかない。キャバ嬢に入れ込んで作った借金とかあるし……。これに関しては、完全に自己責任なのでしょうがない。学歴資格なしの中年男は、転職しづらいいという事情もある。


 そんな総一だが、食べる事は好きだ。この物流センターにも大きなカフェテリアがある。クリスマス限定メニューを楽しみにしていたが、食券は目の前で売れきれてしまった。


 仕方がないので、うどんに変更する。他にカレーもあるが、ここのは具が入っていない。二百円だが、値段通りの味だった。


 カフェテリアのうどん専用の受け取り口へ行き、食券と引き換える。このカフェテリアの職員もクリスマスイブだが、普通に働いている。ここに居ると、クリスマスなんて幻想だったんんじゃないかと思う。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、うどんを受け取る。奥の方の窓辺の席へ行き座る。


 深夜一時過ぎだ。窓から見える風景は、闇。遠くの方に細い月も見えるが、別に明るくはない。イルミネーションも何もない。やはり、クリスマスなんて幻想だったのかもしれない。


「いただきます」


 食べはじめたが、本当に普通のうどんだった。スープは関東風だ。労働汗をかいた後は、これぐらいの濃い味がありがたい。トッピングはネギ、揚げ玉、それにかまぼこ。まだ熱いので、ハフハフいいながらうどんを啜る。揚げ玉はだんだんグズグズと柔らかくなってきたが、食感の変化が楽しいものだ。


「隣いい?」


 気づくと同僚の野田が隣にいた。自分と同じ歳ぐらいの冴えないおじさんだ。ここ職場は、こんな人が六割、あとはヤンキー風の若い人、おばさんも多めだ。この職場は割とどんな人でも受け入れるような懐の広さがある。


「今日は本当にクリスマスかね?」


 野田も不思議そうに呟く。彼も同じ普通のうどんを食べていた。


「そうらしいですね。まあ、俺はキリスト教の人でもないし」

「そうだな、そうだ」

「商業主義的に祝う方が失礼な感じがしますよ」


 それが決して負け惜しみでもない。職場にいると、あまりにも普通の日すぎて、その空気に飲み込まれてしまう。


「でも俺らがいないと、客に荷物届かなんわ」


 野田はそう言い、うどんを啜る。


「そうですね。誰かがやらなといけない仕事です」

「だよな。平和な日常を支えているのは俺らだぜ」


 ゲラゲラと野田は大きな声で笑う。総一も苦笑し、濃い味のうどんスープを飲み干す。


 別に自分がいなくても社会は回るだろう。クリスマスも仕事。今日も普通の一日。


 でも、カフェテリアのうどんは不味くない。野田の笑い声を聞いていると思わず口元が緩む。今日はそれで十分な気がしていた。


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