ガーベラの花言葉
クリスマスは、毎年女子会をやっていた。中学高校と同じグループだった友達同士だ。もちろん、家庭や子供ができたものもいるが、クリスマスイブは欠かさずみんなで集まっていた。
卒業してから十年になる。学生の時の友達と長い付き合いなのは珍しいかもしれない。それだけ当時が楽しかったという事かなのだろう。
ただ、十年過ぎれば色々とある。仲間の一人・優里が鬱になったと聞いた。原因は育児。いわゆる産後鬱というのにかかっているらしい。旦那も仕事で忙しく、ご近所からは子供の泣き声などで責められ、メンタルも限界だという。
トドメをさしたのは、SNSだった。駅で子供を抱っこしている姿を盗撮され、SNSで誹謗中傷を受け、それでかなり病気も悪化しているという。
私達は、そんな優里の話を聞き、同じように悲しんでいた。私の家で皆んな集まり、優里の事を話し合う。
「許せない。SNSで勝手に盗撮するなんて」
そう語るのは、直美だ。この仲間でも一番優等生で正義感も強い。
「でもだからってウチらができる事ってある? 正直鬱の人って、NGワードとかあって怖い」
そう語るのは、玲子だ。このグループの中でも一番冷静。
「まあ、そうだね。がんばれとか言えないんだよね」
そう言う私も何も思いつかない。クリスマスが近いが、少しでも気がまぎれる事でもあればいいのだが。
「だったら、花でも贈らない?」
ふと、そんな考えが浮かぶ。優里は花が好きだったし、悪いアイデアではないと思うのだが。
「何の花にする?」
これ以上のアイデアは思いつかない。花を贈る事にした。皆んなで花言葉の本を睨めっこしながら、ピッタリのものを選ぶ。
「ガーベラがいいんじゃない? 花言葉は希望だって。白のガーベラは、ちょっとクリスマスっぽいし。あとは、ポインセチアとか」
「それはいいね!」
という事で私の案が採用され、優里に花束を贈る事になった。
今年のクリスマスは、優里と女子会できないのは寂しいけれど。
きっと良くなると信じている。がんばれと言えない代わりに、私達はみんなで優里の健康を祈っていた。
今年はちょっと地味にクリスマスになってしまったが、キリスト教国のそれは案外地味らしい。そもそもイエス・キリストは最底辺の家畜小屋で生まれたと聞く。全ての人を救う為に思いきり敷居を下げて生誕したとか。
自分達には、そんな事は決して出来ないが、誰かの為に祈るクリスマスも悪くないだろう。