ネコはすぐにくる
今日はクリスマスイブだ。街は煌びやかなイルミネーションやツリーで彩られ、ケーキやチキンが飛ぶように売れている。
「リア充爆発してしまえ……」
そんな中、春香は、若干古いネットスラングを呟きながら、家に居た。
クリスマスイブだが、なんの予定もない。友達は全員結婚して家庭があるし、親は親戚の家へ出掛けていた。彼氏もずっといない。一人でコンビニで買ったお一人様専用のミニケーキを食べながら、ぶつぶつと文句を言っていた。
ネットで探すと、クリスマスが一人でいる「クリぼっち」も大量にいるのに、リアルでは見たことがない。春香はさらに憂鬱だ。好きでクリぼっちをやっているわけではないのに。
動画サイトでは「クリスマスは本当はイエス・キリストの誕生日ではなく、悪魔ニムロデの誕生日」という陰謀論が目に入り、溜飲が下がる思いだ。
そもそも春香はクリスチャンじゃないし。そう自分に言い聞かせ、ぼっちの現状を慰める。
「春香ー、何やってんの?」
そこに姉がやってきた。姉は春香のように実家暮らしではなく、近所に一軒家を借りて住んでいる。古民家風の家でネコと暮らしていて、なんともマイペースな姉だったが。
「姉ちゃん、何の用?」
「実は、うちのネコ預かって欲しいのよ」
「なんで?」
姉のそばには、ネコ用のキャリーバックがあった。中を開けると、姉が飼っているアメリカンショートヘアがひょっこりと出てくる。
「実は彼氏が今日うちに来るそうで」
「もう、リア充爆発してしまえ」
そうは言っても、ネコを追い返すわけにはいかない。とりあえず預かる事にした。
妙に人懐っこいネコだった。春香がトイレに立つと後をついてくる。ひょこひょこと歩く姿は、どう見ても可愛い……。
「ナーちゃん」
呼ぶとすぐに春香のそばにやってきて、膝の上に乗った。
ナーのふわふわの毛並みを撫でていると、ぼっちの現状も、少しは慰められてきた。
もしかしてこれはクリスマスプレゼントだったりして。ぼっちの春香を憐れみ、神様から送られたとか?
そんな風に勘違いそてしまうほど、ナーと一緒にいると、癒されていた。特に肉球はパンみたいで可愛いな……。
そんな事を考えながら、動画サイトを見ていると、偶然、讃美歌の動画が流れる。
「きーよしこの夜〜♪」
ナーは讃美歌を聴きながら、妙にご機嫌だった。ますます、神様から送られてきたような気がしてしまうのだが。
「ナーちゃん、他にも讃美歌聞く?」
「にゃ!」
とりあえず、今年のクリスマスはぼっちじゃなかったようだ。あれだけ毒付いていたが、ナーのおかげで少しは優しい気持ちにもなってきた。
メリークリスマス。
今日ぐらいは世界が平和で、幸せなものでありますように。