おひとり様のクリスマス
会社の帰り、駅ビルでちょっと豪華な弁当を買う。ステーキとカルビが入った弁当で千五百円。安くはない。まあ、今日はクリスマスイブだからいいと思う。
駅ビルではクリスマスケーキの特設会場もできていた。
私はおひとり様。あんな大きいホールケーキにが縁はない。大きなチキンや丸くて大きなピザも。
確かにおひとり様用のケーキやピザも売ってはいたが、メジャーではない。いくらソロ活動やおひとり様が一般化しようと、こういう時期はマイナーだと思わされた。友達も家庭を持っているものばかりなので、今年は本当におひとり様だ。親も亡くなっているし、兄弟もいない。彼氏もいない……。
それでも、意外と楽しいものだ。自由で好きなものを買える。選択できる。
確かにクリスマスという日には、マイナーだと思わされたが、「クリぼっち」なんて惨めな言い方はおかしいと思う。
そんな事を考えながら一人暮らしのアパートへ帰る。
手洗いとうがいをしたら、さっそく暖房をつけて一人の聖夜を楽しもうではないか。
部屋着に着替えたら、お湯を沸かし、お茶をつくる。
スパイスがブレンドされたチャイだ。ミルクも溶けるティーバックなので、そのままお湯を沸かして砂糖を溶かすだけで楽しめる。
それから昨日買ったイチゴを洗ってさガラスのボウルに入れる。水気をとったら粉砂糖をおパラパラ。
実はクリームの油はアラフォーには重すぎるので、クリスマスといってもケーキは食べたくない。このくらいのフルーツだけで十分だ。粉砂糖をかけたら、クリスマスカラーらしい。
お湯もできた。これでチャイを作り、準備は完了だ。
食卓の上にチャイ、イチゴ、駅ビルで買った弁当を並べた。
あとは百均で買っておいたツリーのミニチュアもテーブルの上に置く。
「メリークリスマス。そしていただきます!」
一人で食べ始める。
千円越えの弁当は、やはりコンビニ弁当と違い美味しい。肉汁でほっぺが溶けそうだ。
「あ、オカルトくんの配信聞かなきゃ」
すっかり忘れていたが、好きなインフルエンサーがライブ配信するので、慌ててスマートフィンを出す。
オカルトくんと呼ばれているインフルエンサーだった。その名前の通り、怪しい都市伝説や陰謀論を配信している男だった。その語り口は怪しく、面白おかしく密かなファンも多かった。今日はクリスマスという事で、その起源や陰謀を語っていた。
「実はクリスマスは、イエスの誕生日ではなく、悪魔ニムロデの誕生日なのですよ、ふふふ」
いつものように怪しい語り口でついつい耳を傾けてしまう。
「クリスマスはぼっちで正解です。世の中と逆張りしよう、そうしよう……」
そんな事も言ってる。負け惜しみっぽいが、今の私もちょっと楽しくなってきた。
オカルトくんはイエス・キリストの本当の誕生日やカトリックの陰謀論、終末に現れる反キリストの正体などを語る。
美味しい食事をしながら聞いているせいかもしれないが、確かに面白い。冷静に考えれば言っている事は荒唐無稽だが、語り口やストーリーの盛り上げ方が上手く、ついつい引き込まれる。
「まあ、明日は休みだし、酒でも飲むか」
チャイも十分美味しかったが、今日ぐらいビールでも飲むか。
酒も飲んでいるとすっかり気分がフワフワして、眠くなってきた。お腹もいっぱいで何だが幸せ。一人でも幸せ。
子供の頃は、一人で弁当を食べる「ぼっち」を気の毒に思っていたが、違ったのかもしれない。もしかしたらそれを楽しんでいた可能性もある。今の私みたいに。
「ふふふ。本当のイエス・キリストの生誕を祝うクリスマスは、陽キャの為じゃないのだよ。むしろ虐げられた人、貧乏な人、寂しい人、苦しむ人、悲しむ人の為の福音で……」
そんなオカルトくんの声が響く頃は、眠気に勝てなかった。
目を閉じ夢の世界へ旅立つ。
こんなクリスマスも悪くない。おひとり様のクリスマスも最高だ。