スノーグローブの思い出
実家の整理をしていた。二ヶ月前、母がなくなり、この家も空き家になる。おそらく売る事になるだろうが、その前に家の中にあるものを片付けていた。
正直、骨の折れる作業だった。母の介護をしていた姉によると、認知症もあり、あらゆるものを収集していたそうだ。服、鞄も大量もあるが、紙袋や使い捨ての割り箸、フォークなども収集していたようで、片付けるのはなかなか大変だった。
姉も私も五十代過ぎだが、歳をとるのが、辛くなってきた。下らないものを大切に集めていたと思うと、なかなか切ない気持ちになってしまった。
捨てられないものは、不安の現れとも言われているらしい。母の不安も残されたものから察してしまい、良い気分はしない。将来の自分の姿を直視させられる。私も姉も独身、子供もいないので、もっと良くない未来も思い浮かんでしまう。
骨の折れる作業だが、業者を呼ぶ気分にはなれなかった。一応日記や手紙などもあるし、何となく母は部屋に他人を入れるのは、嫌がったと思う。ちなみに父はとっくに死んでいる。ギャンブル中毒になり、最終的に自殺していた。私達の子供時代は、お金がなかった貧乏な記憶しかない。
狭い一軒家だが、母の部屋や居間も片付いてきた。キッチンが一番大変だったが、どうにか山を越えたようだ。
あとは置き小屋ぐらいか。姉と二人で物置き小屋に入り、要らないものをどんどん捨てていく。
「あれ? お姉ちゃん、これ……」
物置きの段ボールの中に、スノーグローブがあった。
全体的にくすみ、細かな傷がついているスノーグローブだったが、ヒラヒラと雪は舞う。スノーグローブの中身は、トナカイやサンタクロースのミニチュアもあり、クリスマスの飾りだと思われる。
子供時代のクリスマスをどうしても思い出してしまう。
ツリーなどは買えなかったから、こんなスノーグローブを部屋に飾り、クリスマスの一日を楽しんだ。七面鳥もなかったけど、母が作ったた唐揚げやスープ、ケーキも楽しんだ。手作り感あふれ、ちょっと貧乏くさいクリスマスだったが、それでも優しい記憶だ。
今はどう頑張っても、あのクリスマスには戻れない事を気づく。もう無邪気に夢見る子供ではない。若くもない。これからの未来もより現実を見つめて生きていくしかないだろう。なんだか前より切なくなってきた。
「スノーグローブ? 汚いね。捨てるか」
「ちょっと待って。私、これを母の形見にしようかなって思う」
「えー? これ? まあ、子供の頃のクリスマスは楽しかったけれどさ……」
姉はなかなか納得していなかったが、私はこのスノーグローブが大事に見えてしまった。
古くてあまり綺麗ではないスノーグローブ。
二度と手には入らないクリスマスを思い浮かべながら、再びスノーグローブを揺らす。
小さな世界にヒラヒラと雪が降り続いていた。