妖狐と皇女
公式企画3作目です。
時は奈良時代。
「白玉、白玉!!」
「はい、姉様。」
赤い着物姿に黄緑の帯、白い肌の少女白玉は姉に名前を呼ばれ返事をする。
「こんなところにいたのね。長老様がお呼びよ。」
「分かったわ。」
白玉は起き上がると木の上に勢いよく登っていき隣の木から木へと乗り移っていく。白玉がたどり着いたのは森の中の社である。
「長老様、お呼びでしょうか?」
白い髪に巫女装束、黄色い耳と尻尾。老婆それが長老だ。白玉にも同じ耳と尻尾がある。この森に住むのは妖狐族。狐の姿をした精霊のようなものだ。
「白玉、今日お前を呼び出したのは他でもない。」
長老は白い宝玉を見せる。
「長老様、こちらは」
「そうじゃ。」
宝玉は一人前の妖狐と認められた証だ。
「ありがとうございます。」
「しかしただではやらぬ。」
1人前と認められるには試験があるのだ。
「白玉よ。お前は城下街に行き迷える少女を助けお礼を言われる。それが課題じゃ。」
長老は白玉に白い袋を渡す。中を開けると饅頭が入っていた。
「さあ、それを持って行くがよい。それを口にすれば1日は人の姿でいられる。」
白玉は長老に一礼して去っていく。森を抜けると白玉は人間から狐の姿に変わる。見習いの妖狐が人間の姿でいられるのは森の中だけなのだ。
街に着くと白玉は白い袋を開け中から饅頭を取り出し食べる。すると先ほどと同じ人間の少女の姿になる。白玉は困っている少女を探そうとするが見つからない。
「聞いたか?」
「何がよ?」
「坂上苅田麿呂のお嬢さんが拐われたそうだよ。」
茶屋で男女が話している。
「拐われたって誰にだい?」
「鬼だよ。」
白玉は男女の話に耳を傾ける。話によると坂上家という貴族の1人娘が北国から現れた鬼に拐われたという。父である苅田麿呂は娘との結婚を条件に男の有志に鬼の討伐と娘の救出に向かわせているという。
(そうだわ、その娘にしましょう。)
「あのその話詳しく聞かせてもらえますか?」
白玉は男女に尋ねる。
所は変わりここは苅田麿呂の屋敷。苅田麿呂は桓武天皇を招き野立てをしていた。
「苅田麿呂様。」
そこに1人の家臣がやってきた。
「苅田麿呂様にお目通しをしたいという者が来ております。全子様の救出と鬼の討伐に向かいたいという若者がおりまして。」
「またか。」
これまで何人もの貴族が全子救出を申し出鬼討伐に向かった。しかし誰1人として帰ってくることはなかった。
「まあ良い、通せ。」
家臣に通され弓と矢を持った青年貴族がやってくる。
「苅田麿呂様、お目通り感謝致します。」
「そなた、名を申せ。」
「白玉と申します。」
「白玉か、女のような名じゃ。」
(しまった!!見抜かれたか。)
白玉は茶屋で全子の話を聞いて苅田麿呂の屋敷を訪れた。しかし鬼討伐に向かえるのは男だけ。長い髪を切り落とし男の服に着替え苅田麿呂の元にやってきたのだ。
「よく見ると顔も女のようじゃ。」
桓武天皇が顔を近づける。
「何をご冗談を!!」
白玉は笑ってその場を取り繕う。空を見上げると鷲の大群が飛んでいた。
「帝、苅田麿呂様、宜しければ私があの鷲を仕留めてしんぜましょう。」
白玉は一本の矢を放つ。矢は大群の中の一羽に当たり庭へと落ちてくる。
「ほお、これは面白い。」
白玉に拍手喝采を送ったのは桓武天皇であった。
「そなた、私の配下に入らぬか?共に悪行を働く鬼共を退治しようではないか。」
それから白玉は桓武天皇に着いて鬼討伐へと向かった。天皇の軍勢は3日3晩歩き北へ北へと向かっていた。饅頭の効き目は1日でなくなるため就寝は人目のつかないところでとった。長老からもらった饅頭は早朝に口にすると人間の姿に戻る。誰にも正体が気付かれずにすんだ。
しかし饅頭に限りはあり鬼の棲み家にたどり着くまでには饅頭はなくなってしまった。
(1日で蹴りをつけなくちゃ)
棲み家には見張りの鬼が1人いる。
「帝、ここは私が囮になります。」
1人の兵が先人を切って見張りの鬼に向かっていく。
「ぎぃー!!」
鬼も応戦し一騎討ちになる。
「帝、先に行って下さい!!」
白玉は天皇に続いて先を急ぐ。
鬼の棲み家の中には侵入者を足留めするための罠があった。白玉は跳躍で罠を避ける。
「帝。」
白玉が隣にいる桓武天皇に声をかける。
「全子様はきっとどこかに閉じ込められているかと。私は地下を見て参ります。帝は鬼の親玉をお願いします。」
白玉は桓武と袂を別つと地下へと向かう。案の定牢獄だ。しかしどの牢も空いており全子らしき少女の姿はない。
「全子様!!どちらにおられれますか?!」
声をあげて探すが返事はない。見張りの鬼が出てきてもおかしくないはずだが地下は静まりかえっている。
「全子様!!」
何度か全子の名前を呼んだ時。
「助けて!!」
少女の声が返ってきた。声は奥から聞こえてくる。
「全子様!!」
白玉は奥へと進んでいく。
「助けて!!」
最深部の牢獄には少女が閉じ込められていた。橙色の羽衣に赤い裳衣を合わせた少女だ。
「全子様ですか?!」
「兄上様?」
全子は白玉の姿を見るなり兄と呼ぶ。
「兄上様、助けに来て下さったのでしね。」
全子は牢の扉の隙間から手を出し白玉の裾を掴む。全子は男装の白玉を自分の兄と間違えてるようだ。
「全子様、まずは逃げましょう。」
白玉は腰の刀を抜くと牢獄の扉を切る。
「ありがとうございます。兄上様。」
白玉が全子を連れて地上へと上がる。
「帝?!」
地上に上がると桓武天皇の姿を見つける。しかし彼の傍には鬼がいた。姿形が若干他の鬼とは異なる。
剣を抜いてそっと鬼に近づこうとした時
「牛魔王様感謝致します。これで全子を我が物にできます。」
牛魔王に小判の入った木箱を渡している。
「帝??」
桓武天皇が白玉に気付く。
「白玉か、ご苦労であったな。お前達後は頼んだぞ。」
白玉は両脇から鬼に取り押さえられる。
「全子様は私と来ていただこう。」
「嫌!!」
全子は泣き叫ぶがそのまま桓武天皇に連れていかれる。
「お前はこっちだ!!」
白玉は鬼に連行され牢屋へと入れれる。
「兄上様、兄上様!!」
白玉は少女の声で目を覚ます。辺りは一面紫草が咲いている。
「誰?!」
白玉の目の前には幼い少女がいた。髪には赤い簪を付けている。公家の娘らしき装いをしている。
「全子、どうした?」
少女は全子という。
全子の傍らには美男子が立っていた。
「兄上様、この娘怪我してるわ。」
「そうだな、急いで手当しなくては。」
白玉は兄らしき美男子に抱き抱えられる。彼は男装した白玉とそっくりだ。
(彼女は私を兄と見違えたのか?)
「白玉、白玉よ。」
白玉今度は自分の名前を呼ばれ目を覚ます。そこは牢獄ではなく森の中だった。
「長老様!!」
「良かったわ。目が覚めて。」
目の前には長老と姉がいた。姉は白玉に鏡を見せる。そこには耳と尻尾が生えた人の姿をした自分自身が映る。男装ではなくいつもの赤い着物だ。
「私、鬼達に捕まって牢獄に入れられたはずでは?」
「長老様が助けてくれたのよ。」
「お前見事課題をやり遂げた。だから迎えに行ったがあのような姿で。」
長老が牢獄の中の白玉を見つけた時は既に狐の姿であったという。
「課題をやり遂げたというのは?」
「合格じゃ!!」
「しかし全子様は!!」
「白玉、課題の内容を覚えているか?」
「確か迷える少女を助けお礼を言われる。」
「そうじゃ、これを見るがよい。」
長老は鏡を白玉に見せる。これは見たい物を何でも見せてくれる鏡なのだ。鏡には白玉が全子を牢獄から助け出す場面が映し出される。
「ありがとうございます。兄上様!!」
全子は確かにそう言った。
「白玉、これでそちも一人前の妖狐の仲間入りだ。さあ、儀式を執り行おう。」
「待って下さい!!長老様、もう一度人間界に行かせて下さい。」
「課題は合格したんじゃ。人間の街に行く必要はなかろう。」
「全子様が拐われたのは桓武天皇が鬼と裏で手を組んでいたのです。それにもう時間がありません。」
一人前と認められれば森から出るときは術で姿を消す。人間の前に姿を表すことはできないのだ。
「長老様、最後に一度だけ。お願いします。」
白玉は長老に頭を下げる。
「良かろう、ただし1日だけじゃ!!明日の日没までに戻って来るがよい。日没を過ぎればお前は永遠に人間じゃ。一族にも戻れぬ。よいな?」
「はい。」
白玉は1日分の饅頭が入っている袋をもらい再び街へと向かおうとする。
「あの長老様、1つお貸し頂きたいものがございます。」
翌日平城京。
桓武天皇と全子の祝言が執り行われる。神主が祝詞を挙げ盃を交わそうとする。その時
「お待ち下さい!!」
襖が開けられると1人の乱入者がやってくる。
「兄上様?!」
「お前白玉か?」
乱入してきたのは白玉だった。
「苅田麿呂様、桓武天皇は鬼共と結託して今回の全子様誘拐を企てました。」
「桓武天皇が?!」
「そんなわけあるはずがない。」
「全子様を救った英雄だ」
祝言に参列してる貴族達は白玉の言う事を信じない。
「これでも同じ事が言えますか?」
白玉は長老から預かった鏡を取り出す。そこに映し出されたのは牛魔王に大量の小判を渡す桓武天皇の姿であった。
「嘘だろう?」
「全子様誘拐は仕組まれていた物だったのか。」
その場がざわつきはじめる。
「帝、これはどういう事か説明して頂けますか?」
苅田麿呂が問い詰める。
「お前達には関係ない!!」
桓武天皇は腰の刀を抜いて苅田麿呂に斬りかかろうとするが外で待機していた兵により取り押さえられてしまう。祝言は中止となった。
「兄上様、こちらです。」
白玉は全子たっての希望で高原へと案内された。辺り一面に紫草が咲いている。
(ここは!!)
そこは白玉が夢で見た場所だ。
「兄上様、覚えています?!この場所。幼い頃よく2人で遊んだ場所でございます。狐の子芽怪我をして兄上様が屋敷に連れ帰り手当した事もありました。」
(狐!!)
白玉は記憶が甦る。
「兄上様。」
「全子様。私は貴女の兄ではありません。」
白玉は全子の手を握ると自分の胸に手を当てる。
「女?!兄上様ではなかったのですね。」
全子の目からは涙が溢れ出す。
「分かっておりました。兄上様は私が幼い頃鬼の討伐に向かい返り討ちになったのです。だけど貴女が私を助けに来た時兄上様が戻って来たように思えました。」
その時夕日が紫草を照らすのが見えた。
「全子様。」
白玉は背後から全子を抱き締める。
「私がずっと貴女の傍におります。貴女の兄上に代わって貴女をお守りします。」
FIN
なんとか書けました。芳子様以外の人はとにかく難しいです。