国名の呼び慣わし方の違い
『サアッ、サアアアッ』
『帝国と、南のロートリンゲン公国と北のエルザス伯国の両国との国境線ともなっています、国際河川である父なる川から枝分かれをした支流なのですね?。騎士殿』
主君の子爵閣下による御下命を受けられまして、私を道案内して下された四十代の騎士殿は頷かれまして。
『その通りですな魔法使い殿。それと、ロレーヌ公国とアルザス伯国と自分達は呼び慣わしておりますな』
帝国では国際河川である父なる川を挟んで対岸の西岸に位置する両国の事を、南のロートリンゲン公国と北のエルザス伯国と呼び慣わしていますが。この地では国名の表現が異なるようです。
『失礼をいたしました。騎士殿』
十四歳の若者である私が素直に頭を下げて謝罪をしますと。ロートリンゲン公国…、ロレーヌ公国の貴族諸侯であらせられる子爵閣下に家臣として御仕えされていられる年長者の騎士殿は、破顔なされまして。
『お気になさらずに魔法使い殿。帝国ではロレーヌ公国の事をロートリンゲン公国と、北のアルザス伯国の事をエルザス伯国と呼び慣わしている事は、自分も承知しておりますからな♪』
主君であらせられる子爵閣下も御寛容な御方ですが、家臣として御仕えされていられる騎士殿も心が広い人物だと思います。
『近隣に暮らす農奴の話しによりますと、普段は森の奥深くに潜んでおる賊共ですが、二日に一度くらいの割合で水汲みに来るようですな』
森の中でしたら野生の獣を狩ったり山菜採りを行うなどして、昨夜のように貴婦人が乗車なされていられた馬車を襲う為に街道に出没する時以外は、森の奥深くで身を潜めて悪事に手を染める事も出来ますが。人間は水がないと生きてはいけませんから、二日に一度くらいの割合で水汲みに来ているのだと思われます。
『ありがとうございました。騎士殿』
道案内役を務めて下された騎士殿は、笑顔で頷かれまして。
『狩りの成果を期待させて頂きますぞ。魔法使い殿♪』