城館での朝餉の席にて
『昨夜は良くお休みになられたかな?。若き金髪の魔法使い殿』
『はい。子爵閣下。御厚意に改めて心底よりの御礼を申し上げます』
故国でもある帝国の宮廷を出奔して以降は、各地を放浪しながら傭兵としての依頼を受けつつ、安宿の宿泊施設に泊まったり野宿をしながら暮らして来ましたから。久し振りに柔らかい清潔な寝台にて安眠する事が出来ました。
『朝餉の料理が口に合えば良いが。儂の故国であるロレーヌ公国と、卿の故国でもある帝国とでは、国際河川の大河を挟んで東西で食文化が異なるからな』
城館の主であらせられる子爵閣下の朝餉の席に御招待を頂いておりますが、他には亡き御子息の伴侶であらせられた寡婦の御夫人と、昨夜に馬車を盗賊団に襲われた貴婦人と、養子に迎えられた孫の御嫡男様が居られます。
『御気遣い頂きまして有難う御座います、子爵閣下。非常に美味しい料理だと感じております』
私は平民身分の生まれですから、黒麦粉をお湯で蒸かした食べ物を主食として以前は生きていましたので。朝から肉や卵を食材に用いた料理が並ぶ食卓は、非常に贅沢に感じて心より感謝をしています。
『儂の最愛の跡継ぎであるカールは、十四歳の卿よりも六歳年下の八歳なのだが。天より根元魔法の素質を授かりし魔法使い殿と話すのは生まれて初めてなので、興味津々なようでな♪』
子爵閣下の孫にして養子の御嫡男様であらせられるカール卿は、私の事を瞳を輝かせながら見詰めていられます。
『魔法使い殿は、吟遊詩人の詩に登場される英雄のようです。叔母様の危難をお救い下さり。御爺様…、御父様も治癒魔法で癒して下さいました♪』
未だ八歳のカール卿は、真っ直ぐな性格に成長なされていられるようです。
『過分なる御言葉を賜り恐悦至極に存じ上げます。御嫡男様』
カール卿と私による会話を、子爵閣下と御夫人と貴婦人の御三方は、好意的な眼差しで御覧になられていられました。