宮仕えの地獄に嫌気を覚えた根元魔法以外には取り柄の無い十四歳の若者
『ジャラッ』
『子爵閣下の御息女であらせられる貴婦人からは、確かに多額の報酬を御提案して頂きましたが、これは多過ぎはしませんか?。家宰殿』
城館の主であらせられる子爵閣下による御下命を受けられた御高齢の家宰殿とか渡された革袋の中には、今宵に私が魔法使いとして行った仕事以上の金額となる大量の金貨が入っていましたので、間違えているのではないかと確認をしますと。
『御領主様と御息女であらせられる貴婦人の御二方の御命を、若き金髪の魔法使い殿には今宵救って頂きましたから、これでも少ないくらいで御座います』
ふむ。確かに私が月明かりの下での夜空の空中散歩をしていなければ、貴婦人は今頃拐かされて身代金を要求されていた可能性が高いですから、子爵閣下に御仕えされていられる家臣の家宰殿からしますと、妥当な金額なのかも知れません?。
『ジャラッ。平民身分に生まれた私は、宮仕えの地獄に耐えられずに故国を後にしましたから、御主君に御仕えされていられる家宰殿の御気持ちは理解出来ないのかも知れません』
多額の金貨が入っている革袋を懐にしまった私の発言に家宰殿が興味を持たれたようでしたので、ミスリル銀製の襟章を取り出して机の上に置きました。
『これは…。国際河川を挟んで東側の対岸に位置する帝国にて、君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下である帝国騎士様の身分を証明する、純粋なミスリル銀製の襟章ではありませんかっ!』
驚いたように話される家宰殿とは対照的に、私は無関心に瑠璃之青の瞳で机の上に置いた根元魔法が付与されている、偽造が極めて困難な純粋なミスリル銀製の襟章に視線を投げ掛けまして。
『先程に私は平民身分に生まれたと話しましたが、天から授かりし根元魔法の素質を活かせる魔法使いとなりまして、帝国軍に傭兵として雇われて少しばかり武功を上げた結果、帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣でもある臣下の帝国騎士の身分を得ましたが。平民身分出身の私に対する風当たりは極めて強かったので、国際河川である父なる川を西側に渡河して、故国から出奔をしました。家宰殿』
私は基本的に根元魔法以外には取り柄の無い人間ですから、皇帝陛下の直臣でもある臣下として、帝国の宮廷で振る舞う事が出来ませんでした。
『御主君であらせられる子爵閣下にこの件は御伝え下さい家宰殿。私は異国出身の放浪者に過ぎませんから、今宵は御厚意を甘受して湯浴みをさせて頂いて宿泊させてもらいますが、明日には再び流浪の旅に戻る事にします』
十四歳の若者でもある魔法使いの私の話しを聞かれた御高齢の家宰殿は、一瞬何かを考えてから恭しく深々と御辞儀を行われまして。
『はい。御領主様には確かに御伝えいたします』